360話 夢であることを願い
シフォン、ミルフィーユ、ショコラの三人が姿を見せた。
三人は完全武装をしていて、目に見えてしまいそうなほどの闘気をほとばしらせている。
「……レイン君」
「なんだ?」
三人を代表するように、シフォンが口を開いた。
操られているとか、そういう感じはしないが……
しかし、なにかが危うい。
そんな印象を抱いた。
「レイン君は……この夢を終わらせようとしているんだね?」
「シフォン? お前、記憶が……」
「うん。今は正常というべきか……特に問題はないよ」
シフォンは微笑む。
それは、見ているだけで胸が締め付けられるような、とても悲しい笑みだ。
「私が新しい勇者に選ばれて……レイン君と出会い、彗星の剣を直すための依頼をして……そして、カグネにやってきたこと、全部覚えているよ」
「なら……どうして、俺達の行く手を塞ぐような真似をする?」
こちらの問いかけに応えることはなく、シフォンは言葉を続ける。
「もう一つ、覚えているの。ここで、お母さんとお父さんと再会できたことを」
「それは……」
「私の故郷は、魔物によって滅ぼされた。お父さんもお母さんも、兄弟も友達も、みんなみんな死んでしまった……二度とあえなくなってしまった」
「……」
「でも……でもね? ここでなら、再会することができるの。みんなともう一度、同じ時間を過ごすことができるの」
「それは、つまり……シフォンは、アルファさんの夢を受け入れた……ということか?」
「うん」
返事はすぐに返ってきた。
できることなら、多少の迷いがあるとか答えられないとか……そういう感じであってほしかった。
あるいは、アルファさんを騙すために演技をしているとか。
でも、そういう感じは一切しない。
三人からは、敵意は感じられないものの、闘気は感じられる。
これ以上先には進ませない……と、戦闘態勢に入っている。
「なんで、こんなことを……」
「それは私の台詞だよ」
シフォンは悲しそうな顔をして言う。
寂しそうな顔をして言う。
「レイン君は、どうして夢を受け入れないの? 私は……知っているよ」
「なにを?」
「レイン君の故郷は……魔物に滅ぼされたことを」
「それは……」
「だから、私にはレイン君の気持ちはわかる。同じく、故郷を滅ぼされたことがあるから……わかるの。どんなに辛く、苦しく、悲しいことか。そんな現実、認めたくなくて、投げ出してしまいたくて……そうでしょう?」
「……そうだな」
シフォンの言葉を否定はしない。
故郷のことは心の整理がついている……なんてことを思っていたけど、あれはウソだ。
自分の心から目を背けて、整理をつけたフリをしていただけだ。
今も、心の深いところにこびりついている。
だって、故郷を失ったんだ。
なんの準備もなく、なんの心構えもなく。
優しい父さんと母さんが殺された。
隣のおじさんおばさんも、友達も、一緒に遊んだ動物達も……みんなみんな殺された。
そんなこと、忘れられるわけがない。
整理をつけられるわけがない。
時間が解決してくれるというけれど……
そうじゃない場合もある。
「確かに、完全に吹っ切れてはいないさ。今も思い出すことはある」
「なら、一緒に夢を受け入れよう? そうすれば、辛い思いをしなくてすむよ。もう、傷つく必要はないの」
「……シフォンの気持ちはわかった。ミルフィーユとショコラも、同じ考えなのか?」
「そうですねー……私としては、色々と思うところはありますが……シフォンちゃんを助けることが、私の役目なので」
「私は、シフォンがしたいことをサポートするぞー」
どうやら、ミルフィーユとショコラは、深く夢に囚われていないらしい。
ただ、シフォンの味方というところは絶対的なものらしく、簡単に道を開けてくれる雰囲気はない。
結局のところ、シフォンをなんとかしないといけない、っていうわけか。
「……レインさま、どうするのですか?」
イリスが小さな声で問いかけてくる。
「……できることなら、言葉でわかってもらいたいが」
「……そのような雰囲気ではありませんわよ?」
「……だよな」
シフォンは、今は夢に囚われていないというが……
心は囚われたままで、現実が見えていないのだろう。
……いや。
見えていないわけじゃなくて、目を逸らしている、という感じか。
そんな状態で俺の言葉が届くことはない。
ならば、まずは……
「……手荒になってしまうが、力づくでいこう」
「……あら。レインさまにしては珍しく、荒療治ですのね」
「……こんな状況だ。手段は選んでいられない」
早く彗星の剣の修理をしないといけない。
第三勢力は、おそらく、その妨害を企む輩だろうし……
こんなところで時間をかけていたら、どんなことになるか。
今更かもしれないが、できるだけ後手後手に回ることは避けたい。
「……イリスは、ミルフィーユとショコラの相手を頼めるか? 二人共かなりの使い手だけど、大丈夫か……?」
「……あら。わたくしを誰だと思っているのですか? 最強の中の最強……天族なのですよ、ふふっ」
「……ものすごく頼もしいよ」
かつて対峙した時は、その圧倒的な力に震えたものだけど……
味方になってくれると、これほどまでに頼もしいなんて。
今、みんなはいないけど……
でも、イリスがいてくれれば、なんとかなるような気がした。
俺とイリスが構える。
それを見たシフォン達も構える。
「退いてくれないんだね……?」
「退く理由がない」
シフォンの気持ちもわからないではない。
俺も、父さんと母さんの夢を見て、多少、心が揺らいだ。
まったく迷わなかったといえばウソになる。
それでも、だ。
今回のことに関しては。
アルファさんがやろうとしていることに関しては、間違いだと断言できる。
だから、止める。
「今、目を覚まさせるからな」
「そんなこと、私は望んでいないの……!」
シフォンが叫ぶように言って、戦端が開かれた。
――――――――――
「私達の相手はー、あなたですかー? かわいい子ですねー」
「ミルフィーユ、油断しない方がいいぞ。あいつ、天族だ」
ミルフィーユが魔導書を開いて、ショコラが盾を構えて前に出た。
可憐な見た目からは想像できないほどの闘気が吹き荒れる。
一般人ならば、その闘気を浴びただけで気絶してしまうだろう。
新勇者パーティーの名前は伊達じゃない。
しかし、イリスはそれ以上にとんでもない存在なのだ。
悪しき存在と戦うために神が作り出した、戦闘に特化した最強種。
天族は、全ての生き物を凌駕する。
「ふふっ……レインさまに任された以上、わたくしと一緒に踊ってもらいますわ。一応、手加減はいたしますが……がっかりさせないでくださいね?」
レインとしては時間稼ぎを頼んだつもりではあるが……
イリスはそれなりのやる気を見せていて、楽しそうに笑っていた。
イリスもイリスで、なかなかにバトルマニアなところがあるのかもしれない。
「まるでぇ、私達では相手にならないというような感じですねぇー」
「その認識、改めさせるぞ」
やる気たっぷりの二人に、イリスはあくまでも余裕の笑みを見せつけた。
「ふふっ……久しぶりに歯ごたえのありそうな相手ですわね。楽しませてもらいますわ」
イリスは戦闘モードに移行して、八枚の翼を大きく拡げた。
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