358話 手を繋いで、しかし、心は無視して
「……30分で10階層を突破されましたか」
塔の最上階でレイン達を待ち受けるアルファは、下層の様子を探知して、わずかに眉を顰めた。
この塔はアルファの結界の一部であり、どこにいても相手の様子を探ることができる。
レイン達と激突することになり、対象を観察していたものの……
予想以上の進撃速度に驚いてしまう。
「イリスさんは最強種で……しかも、特に優れた力を持つ天族。その力は、この街の結界を作る時に見ていたため、納得ですが……レインさんは、いったい……?」
ただのビーストテイマーではなかったのか?
最強種を仲間にしているため、相応の力は得ているかもしれないが……
それを考慮しても、予想以上の力だ。
なぜ? と、アルファは疑問に思う。
アルファは、基本的に俗世から外れた生活をしていた。
誰もが幸せになる世界。
その完成を目指して研究を続けてきたため、世間の事情に疎いのだ。
そのため、レインの活躍を知ることもない。
「さしでがましい話かもしれませんが……警戒すべきはイリスさんではなく、レインさんの方だと思いますよ」
塔の最上階にはモニカの姿もあった。
敵の敵は味方。
そんな話を持ちかけられて、アルファは彼女達と一時的な同盟を結ぶことにした。
しかし、信頼はしていない。
彼女達のことは詳しくは知らないが、どうにもこうにもうさんくさいのだ。
一見すると友好的に見えるが……
ともすれば、笑顔で喉に噛み付いてくるような、そんな危うさを感じる。
故に、同盟相手と思うことはあっても、仲間と思うことはない。
いざという時は、迷うことなく切り捨てることができる。
必要とあれば、それだけではなくて、打ち倒すこともできる。
全ては理想郷のため。
己の夢を実現させるために、アルファは前に歩み続ける。
「レインさんの方が強い……と?」
「ええ、そうですね。心も体も、両方イリスさんよりも上だと思っています」
「信じられないですね……人間が最強種を上回ると?」
「レインさんは、ちょっと特殊な方なので。それに、その証拠として、かつてレインさんはイリスさんに打ち勝ちましたよ?」
「人間が……天族を?」
ありえないと、アルファはモニカの話を一笑しようとした。
しかし、モニカはあくまでも真面目な様子で、とてもではないけれどウソをついている様子はない。
これでウソだとしたら、彼女はとんでもない役者になれるだろう。
最強種を使役しているため、只者ではないと思っていた。
しかし、まさか、天族に打ち勝っているなんて。
さすがに、それは予想外だ。
それだけの力を持っていると、負けてしまうかもしれない。
アルファは焦りを抱いて……
同時に、どうして? という焦りにも似たもどかしさを覚えた。
それだけの力を持つようになったのは、色々なことを経験したはずだ。
決して良いことばかりではなくて、泣きたくなるようなことや、途方もない絶望を経験したはずだ。
それなのに、どうして自分の夢を受け入れない?
幸せになることを拒絶する?
どうして?
どうして?
どうして?
「アルファさん?」
「……あ、いえ。すみません。ぼーっとしていました」
我に返ったアルファは、恥ずかしそうにしつつ、軽く咳払いをした。
「レインさん達の様子はどうですか?」
「えっと……そうですね。今、40階層を突破したところですね。本当に……すさまじいですね」
リーンが虹水晶の力を使い、魔物を召喚して迎撃に向かわせているが……
それらは全て撃退されているみたいだ。
この分だと、塔の守護者を頼らないといけないかもしれない。
できることならば、それは避けたいところなのだけど……
出し惜しみしていたら、すぐにレインたちはここにたどり着いてしまうだろう。
そこで、もしも負けたら?
それはダメだ。
ここで夢が潰えるなんてこと、絶対に許されない。
自分は、人々を幸せにしなければいけない。
そうすることが、己に課せられた使命なのだ。
生きる目的なのだ。
「だから……私は、絶対に負けません」
改めて宣戦布告をするようにつぶやいて、アルファは拳を強く握りしめた。
「アルファさん。私はリーンさんのお手伝いに行こうと思いますが、構いませんか?」
「ええ、問題ありませんよ。塔と結界の維持は、私一人いれば問題ありませんから」
「では、後はお願いします」
モニカはにっこりと笑い、階段を降りていった。
その後ろ姿を見て、アルファはしばらく考えるような仕草をするが……
少しして意識をレインたちに戻す。
――――――――――
塔は全部で100階層だ。
その80階層部にリーンの姿があった。
「むぅ……」
虹水晶を握りしめて、その力を連続で使用する。
塔の内部と街の外の空間を繋げることで魔物を召喚。
レイン達の迎撃にあたらせている。
しかし、虹水晶は伝説級の装備のため、魔力の消費が激しい。
千の魔法を操るリーンではあるが、それでも限界はあり、疲労が溜まり始めていた。
「あー、めっちゃ疲れるんですけど……もうやめよっかなー」
「もう少しがんばってください」
「うわっ、モニカ!?」
リーンは、いたずらが見つかった子供のような顔になる。
「あー、なんていうか今の発言は……」
「気にしていませんよ。それよりも、大変な役目を頼んでしまい、もうしわけありません」
「お、おー……? そ、そうよねー。これ、めっちゃくちゃ大変だし」
「ですが、もう少しだけがんばっていただけませんか? 私では魔力が足りず、虹水晶をうまく扱うことはできないので……」
「まぁ、モニカがそう言うならがんばるけどさー。そこらの魔物送っても意味ないんじゃない? 不意打ちできるような状況じゃないし、あいつらなら簡単に撃退するっしょ」
「いえ、意味はありますよ。雑魚を相手にしたとしても、多少の疲労は溜まります。ちょうど、今のリーンさんのように」
「ふむ」
「そういう疲労は、決して無視できないものです。蓄積されていけば、最初は問題なくても、後々で破綻が生じます」
「そういうことね。でも、それじゃあ結局、アルファって鬼族が得をするだけで、あたしら、ただお膳立てをしてるだけじゃん」
「いえ、そのようなことはありませんよ」
「え?」
「要するに……」
モニカは笑みを浮かべながら言う。
「アルファさんも踏み台にしてしまえばいいのですよ」
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