357話 違和感は大きく、焦りは大きく
アルファさんは、夢を見ることが幸せと考えているが……
しかし、俺達はそれをよしとしない。
話は完全に平行線で、ここまできたら穏やかに解決することはできない。
どちらが正しいか?
力をもって決着をつけるしかない。
「アルファさん、私の城で待つ、とおっしゃっていましたね。城なんて、カグネにあったでしょうか?」
「ひとまず、街が見下ろせるようなところに行ってみよう」
イリスと一緒に街の入り口へ。
魔物や盗賊などを警戒する見張り台が設置されていた。
俺達は、その見張り台……のさらに上の屋根に跳ぶ。
「お、おい。あんたら、なにやってるんだ?」
見張り台の憲兵がこちらに気がついて、困惑気味に尋ねてきた。
それに対して、イリスが笑みで返す。
「お気になさらず。ちょっとした休憩ですわ」
もう少しまともな言い訳はないのだろうか?
たらりと汗を流しつつも、街を見回す。
霧のせいで視界はかなり悪いが、それでも、見えるものは見えた。
街の中央に塔が見える。
幅はそれほどでもないが、高さは相当なものだ。
なにしろ、雲を突き抜けている。
あんなものがあれば、いくら霧があろうと気づいたと思うが……
それはそれ。
たぶん、アルファさんの力で巧妙に隠されていたのだろう。
それを解除したということは、俺達を迎えるということ。
決着をつけよう、という意思表示なのだろう。
「行きましょう、レインさま」
「ああ」
アルファさんは、かなりの覚悟を持ち、今回の事件を引き起こしたのだろう。
しかし、覚悟はこちらも負けていない。
こんなことは間違っていると、ハッキリと断言できるから……
だから、真正面からそれを打ち破る。
ほどなくして、塔の近くにたどり着いた。
元は公園なのだろう。
豊かな自然の中に、不自然に塔がそびえ立っている。
見張りはいない。
門番もいない。
いつでもどうぞ、というアルファさんの意思表示なのだろう。
とはいえ、それを完全に信じるほど、こちらはお人好しではない。
すでに、アルファさんに敵認定されているはずだ。
なにかしら妨害されるのは確実であり、慎重に進んだ方がいい。
「こんな時に、カナデさん達がいないというのは、なかなかに痛いですわね」
「たぶん、大丈夫だ」
「それは、どういう……?」
「今は夢を見ていたとしても、きっと目を覚ましてくれる。そう信じているから」
「仲間を信じているのですね」
「もちろん」
不安になるところは、まったくないとは言い切れないのだけど……
でも、こんな時だからこそ。
仲間を頼り、信じていたいと思う。
「素敵ですね。そのような関係を築いているレインさまとその仲間が、少しうらやましいですわ」
「褒め言葉?」
「もちろん」
「えっと……ありがとう?」
「ふふっ、どういたしまして」
いざ、塔に踏み込んで……
「っと、そうだ」
「どうかしたのですか?」
「今の話の続きなんだけど……俺は、イリスのことも信じているからな」
「え?」
「以前、戦ったことはあるけど……でも今は、頼りになる味方として、信頼しているから」
「……」
「本当は仲間って言いたいんだけど、それはまだイリスが了承していないし……って、どうしたんだ? ぽかんとして」
今までに見たことがないような、おもしろい顔をしていた。
いや。
おもしろいというのは失礼だろうか?
そんなことを真面目に考えていると、イリスがクスクスと小さく笑う。
「ふふっ……本当に、レインさまはもう……」
「ど、どうしたんだ?」
「いえ。なんでもありませんわ」
「そう言われても……」
なんでもあるように見えるんだけど。
「レインさまはレインさま、ということですわね」
「さっぱり意味がわからないんだけど」
「それでいいのですわ。さあ、行きましょう」
困惑する俺の手を引いて、イリスはどこか楽しそうにしながら、塔の扉を開いた。
これからアルファさんと決着をつけるとは、微塵も感じられない。
まあ……深くは考えないようにしよう。
「レインさま」
「ああ」
気持ちを切り替えた後、イリスと一緒に塔に足を踏み入れる。
塔はとてもシンプルな作りだ。
縦横二十メートルほどで、高さは五メートルくらいだろうか?
部屋の端に、上層へ繋がる階段が見える。
その他、特にこれといったものは見当たらない。
「シンプルな部屋ですわね」
「ただ、それだけに罠の類が疑わしいよな」
ネズミなりをテイムして、部屋を探らせたいところなのだけど……
残念ながら、小動物の気配はしない。
「レインさま。ここは、わたくしにお任せください」
「どうするんだ?」
「簡単ですわ」
イリスは、にっこりと良い笑顔を浮かべると、
「来たれ。異界の炎」
いきなり部屋全体を焼き払う。
「イリス!?」
「どうやら、罠はないようですわね」
「い、いきなりなにをしているんだ……?」
「いちいち調べるのは手間でしょう? ならばと、手っ取り早く部屋を焼き払ったのですわ」
「……」
タニアなんかが、ちょくちょく焼き払うとか言うものの……
まさか、実行に移す子がいるなんて。
イリスって、実はタニアと気が合うのかもしれない。
「まさか、一階登る度に焼き払うのか?」
「ええ、そのつもりですが?」
「……疲れないか?」
「問題ありませんわ。わたくしの召喚魔法に制限なんてものはありませんし、魔力の燃費もとても効率的なのですよ」
「……そっか。任せるよ」
反論を諦めて、成り行きに任せることにした。
「ですが……」
イリスは目を鋭くして、階段へ視線を移す。
それに合わせて、俺はカムイを抜いた。
「お客さまみたいですわ」
「ああ、そうだな」
階段を降りてきたのは、無数の魔物だった。
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