355話 見えない悪意
あれから霧の街を散策して、ニーナ、ティナ、リファと話をした。
三人共、夢に囚われたままではあるけれど、しかし、違和感を覚えている様子だった。
なにかしらきっかけがあれば、自分を取り戻すことができるかもしれない。
ただ、そのきっかけを探すことは難しい。
どんな言葉がトリガーになるのか?
あるいは、言葉ではなくて行動か。
それとも、まったく予想外の、思いもつかないような方法でないといけないか。
それを判断できる材料は、まだ揃っていない。
できることなら、みんなの目を覚ましておきたいけれど……
状況が変化した中、あまり悠長なことは言っていられない。
おそらくではあるが、アルファさんとは違う、第三勢力が存在することが判明した。
その者は、魔物を街中に解き放つようなことを平然としてのける。
放っておいたら危険だ。
なので……
「アルファさんのことを、一時、放置して……魔物を操る者、あるいは、それに関連した行為を行っている者を探す。まったく……レインさまの甘いところは、なにも変わっていないのですね」
イリスが呆れたように言う。
イリスからしたら、なにも関係ない人のために奔走する俺が滑稽なのだろう。
そう思われるのも、仕方ないとは思う。
「まあ、なんていうか……これが俺だから」
「その他のことは、見ないフリをした方が効率的なのに?」
「そうかもしれないけどさ。でも、イヤなんだよ」
世界中の困っている人、全てを助けるなんてことはできない。
助けるなんて、傲慢なことも言えない。
でも。
手の届く範囲で困っている人がいたら?
俺が動くことで、助けられる人がいたら?
そういう場合は、なんとかしたいと思うんだ。
そうしないと、あの時ああしておけば……と、後悔することになるかもしれない。
それはイヤだ。
「まあ……言ってしまうと、俺の自己満足なんだけどな」
「そうですわね、自己満足ですわ」
「うぐ……」
「ですが……ふふっ、わたくしは、そんなレインさまのことは嫌いではありませんわ」
仕方ないから付き合ってあげるというように、イリスが笑う。
やっぱり、イリスは変わったように思う。
こうして、純粋な笑みを見せることは、以前もあった。
しかし、それはほんの少しだけ。
でも今は違う。
そうすることが自然のように、ちょくちょくと無邪気に笑う。
どんな心境の変化があったのか、それはわからないが……
今のイリスは、とても綺麗に見えた。
「ですが、レインさま。どのようにして、第三勢力を探し出すのですか? さきほど犬を使役していましたが、なにも見つけられませんでしたよね?」
犬の探知能力を逃れる相手となると、かなり厄介だ。
魔法かなにか、特殊能力を使用して隠れている可能性が高い。
「イリスの力を借りたい」
「わたくしの?」
「イリスの召喚魔法で、アールビー、っていうハチを召喚できないか?」
「ハチ……ですか? ええ、ええ。それは可能ですが、そのようなことをしてどうするのですか?」
「まあ、見ていてくれ」
「はあ……」
イリスは釈然としない様子ながらも、頼まれたまま、召喚魔法を行使する。
魔法陣が空中に展開されて、そこからハチが姿を見せた。
どこかに飛んでいってしまう前に、素早く仮契約を済ませた。
「これでよし、と」
「そのハチをどうされるのですか? そのハチに探してもらうので?」
「半分正解」
ハチは、犬のような驚異的な探知能力は持っていないが……
でも、空を飛ぶことができる。
平面的な探索から、立体的な探索に変更。
そうすれば、なにかしら新しい発見があるのでは? と考えたわけだ。
「よろしく」
俺の合図でハチが空に飛び立つ。
その速度はかなりのもので、あっという間に見えなくなる。
「あとは待つだけですか?」
「いや。合わせて、もう一つ、手を打っておきたい」
――――――――――
人気のない裏の裏の路地。
そこに、リーンとモニカがいた。
人目を忍ぶようにコソコソと動いている。
どこからどう見ても怪しいのだけど、それを気に留める人はいない。
というか、他に人がいない。
開発の及んでいない地域のため、滅多に人が訪れないためだ。
二人は周囲を気にしつつ、とある家の中に入った。
その家は廃屋という言葉以外で表現できないほど、ボロボロに朽ちていた。
壁は傾いて、窓は割れて、戸には大きな穴が空いている。
そんな廃屋に移動した二人は、一つ、吐息をこぼす。
息を整えて……
それから、魔力を手に集中させる。
その魔力に反応して、空間に渦のようなものが出来上がる。
別の空間と繋がり、一つの穴が形成。
そこから溢れ出たものは……魔物だ。
一匹、二匹、三匹……
魔力が練り上げられて、次々と魔物が生まれていく。
その光景を見たリーンは、ニヤリと凶悪な笑みを口元に貼り付けて……
「来たれ。異界の炎」
そんな声が響いた。
直後、ゴォッ! という轟音と共に、魔物と一緒に廃屋が吹き飛ばされる。
――――――――――
崩れ落ちる廃屋を目の前にして、俺は頬を引きつらせてしまう。
対するイリスは、満足そうに微笑んでいた。
「なあ、イリス……いきなり吹き飛ばすのは、やりすぎだったんじゃないか?」
「あら。魔物を生み出すような相手に、遠慮なんて無用ですわ」
「まあ、そうかもしれないが……うーん」
悪役になったような気分で、ちょっと複雑だ。
「それにしても……さすが、レインさまですわね。このように簡単に、敵を見つけてしまうなんて」
「イリスの協力あってこそだよ」
もう一つの策というのは、とてもシンプルな内容だ。
身体能力強化の魔法をイリスにかけて、その上で、気配を探ってもらう。
アールビーの探知と……
イリスの探知で得た情報を重ね合わせて、敵の居場所を導き出した、というわけだ。
街中をしらみつぶしに探すような、あらっぽい方法なのだけど……
イリスの基本能力が高すぎるから、時間をかけることなく、かなり早く答えに辿り着くことができた。
「イリスの協力がなければ、もっと時間がかかっていたし、それ以前に、見つけることもできなかったと思う」
「まあ、そこは否定しませんが……ですが、そんな策を考えたのはレインさま。そこは、評価されてもよろしいかと」
「とりあえず、その話は置いておいて……いざ、対面といこうか」
敵らしき人物が、廃屋で魔物を生み出していることは確認した。
しかし、その詳細な外見は確認していない。
どこの誰なのか?
いったい、どんな目的があるのか?
しっかりと確認しないといけない。
俺とイリスは、いつでも動けるようにしっかりと身構える。
その状態で、崩れた廃屋に少しずつ近づいていく。
敵は、魔力を使い魔物を生み出すような相手。
今の一撃で倒れたとは思えない。
「……」
倒れたわけではないと思うのだけど、なぜか姿を見せない。
もしかして、逃げられた?
いや。
周囲は、テイムした昆虫、動物で包囲網を形成している。
逃げられたとしても、すぐに報告が入るはずだ。
それがないということは……先の一撃で死んだ?
廃屋の瓦礫に埋もれている?
そんなにあっけない、なんてことはないと思う。
あの人影……見覚えのあるものだ。
俺の知る二人なら……モニカとリーンならば、しぶとく生き残っていると思う。
「ふむ」
イリスが一歩、前に出る。
右手を廃屋の跡に向けて、なにやら魔法陣を展開させた。
ソラやルナの魔法のように、なにかを探っているみたいだ。
「……なるほど」
「なにかわかったのか?」
「敵は逃げたみたいですわね。わずかですが、魔力反応がありました。おそらく、なにかしらの魔法を使用したのでしょう」
「魔法……か」
俺の知るリーンは、逃走用の魔法なんて習得していない。
ただ、別れてから相当な時間が経っているし、新しい力を手に入れていても不思議ではない。
警戒する必要があるな。
「レインさま、もしかして、第三勢力に心当たりが?」
「ああ。ミスリードを誘う罠っていう可能性もあるから、断言はできないが……たぶん、アリオスの仲間だな」
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