352話 本当の幸せはどこに
その後、タニアとソラと話した。
二人の反応はカナデ達と大体同じ。
夢に囚われているものの、完全に浸りきっているわけではない。
なにかしら違和感を覚えているようだった。
信じている。
その言葉を残して、タニアとソラと別れて……
続けて、俺達はニーナを探すことにした。
「さてと……ニーナはどこかな?」
「確か、神族の女の子でしたわね。彼女はどのような夢を?」
「母親と一緒にいる夢だな」
「ニーナさんの本当の母親は?」
「……行方不明だ」
「そう、ですか……」
普段のニーナは、母親を恋しく思っているようには見えなかったんだけど……
俺の目はとんだ節穴だ。
子供が……しかも、ニーナのような小さな子が、母親と離れて平気なわけがない。
表面上はなにもないとしても、心の奥底では母親を求めていたに違いない。
そのことに、今の今まで気づかないなんて……俺はなにをしてきたんだか。
「レインさまが気負う必要はありませんわ」
「また俺の考えてること、読んだのか?」
「わかりやすいので」
「まったく……」
イリスは茶化すようなことはしないで、真面目な顔で言う。
「仲間だからと、なんでもかんでも背負ってしまうところはレインさまの欠点ですが……しかし、美徳でもあります。ほどよい距離を保ち、加減を間違えないよう」
「そう言われてもな……おせっかいとか気にしすぎとか、そういうのはわかっているつもりなんだ」
仲間だからといって、その人が抱えている悩みを自分のもののように扱うことは、いきすぎた行為ではある。
言い換えれば、なんでもかんでも自分が解決してみせるという、増長した思い上がり、ということになる。
それでも。
そうだとしても。
やっぱり、俺はニーナのことを気にかけてしまう。
仲間のことを気にしてしまう。
だって……
それが、仲間っていうことだと思うから。
「やれやれ」
俺の思いを伝えると、イリスは苦笑してみせた。
ただ、嫌な感じの苦笑ではなくて……
親が子を見守るような、どこか優しさのあるものだった。
「レインさまらしいですわね」
「そう、かな? 思い上がりと言われても、仕方ないとは思っているんだが……」
「ですが、それを貫き通してこそ……ですわ。そのようなレインさまだからこそ、皆があなたと一緒にいることを選ぶのです。わたくしも……そんなレインさまと、一緒にいたいと願いますわ」
「……イリス……」
「ふふっ、おしゃべりがすぎましたね」
話はここまでというように、イリスが一歩先を行く。
今、イリスの心に触れることができたような気がするんだけど……
まだ、完全に心を開いてくれていないのだろうか?
あるいは……
イリスは迷いを抱いている?
「レインさま? 置いていってしまいますわよ」
「あ、ああ……悪い。ちょっと、ぼーっとしてた」
「ふふっ、しっかりしてください。ぼんやり猫のカナデさんではないのですから」
そのフレーズ、流行ってるのか……?
「さてと」
イリスのことは気になるものの……
二兎を追う者は一兎をも得ず、と言うし、今はニーナのことを優先させないと。
「どちらを探してみましょうか?」
「そうだな……公園とか露店が並ぶ通りとか、そういうところを探してみよう。母親と一緒に散歩をするなら、そんな場所がセオリーだろうし」
「了解いたしました。ただ……」
イリスがこちらを見た。
その鋭い視線を受け止めて、頷き返す。
それから、周囲を見た。
「囲まれているな」
「ええ、ですわね」
四方八方から刺すような殺気が飛んでくる。
霧のせいで視界が悪く、敵らしい姿は見えない。
でも、なにかがいて、俺達を狙っていることは間違いない。
「アルファさんの刺客でしょうか? わたくし達のことを疎ましく思い、実力で排除を試みた……と考えるのが妥当なところですね」
「いや、俺は違うと思う」
「そうなのですか?」
「アルファさんは、しばらくは俺達に手を出すようなことはしない、って言っていた。その約束を破るような人には見えなかったんだよな」
「レインさまの言いたいことはわかりますが……しかし、わたくしとしては、アルファさんの刺客という方がわかりやすく、また、話が簡単になってうれしいのですが」
今、俺達を囲んでいる何者かがアルファさんの刺客でないとしたら……
敵対勢力が他にもいることになる。
なかなかに厄介な事態だ。
「イリスに心当たりは?」
「わたくしに力を貸している魔族……かもしれませんわね。ここ最近のわたくしは、自分で言うのもなんですがフラフラとしていまして……裏切られたと判断して、排除を試みようとしたのかもしれませんわ」
元より味方になった覚えはないのですが、と言いつつ、イリスはさらに言葉を重ねる。
「どちらにしても、まずは相手を確認いたしましょう。レインさま、半分をお任せしても?」
「ああ、任せてくれ」
しっかりと頷いてみせた後、お互いの死角をカバーして背中合わせになる。
すると、後ろから小さな笑い声が聞こえてくる。
「ふふっ」
「どうしたんだ?」
「あの時、殺し合いをしたわたくし達が、まさかこうして、背中を預けることになるなんて。人生は奇妙なものですわね」
「そうだな……でも、悪くないだろ?」
「ええ、悪くありませんわ」
ほぼ同時に構えて……
敵の襲来と共に、俺達は迎撃に移行した。
「来たれ。異界の炎」
イリスは紅蓮の炎を召喚して、襲い来る黒い影を迎撃した。
炎に飲み込まれた黒い影は、ギャンという悲鳴をあげる。
そのまま塵となり、魔石と化した。
「魔物ですの……?」
「ああ、間違いない!」
こちらもカムイを抜いて、黒い影を両断した。
濃い霧の中で、見えた敵の姿は……猿だ。
もちろん、普通の猿ではない。
体のあちこちに角らしきものが生えていて、口は不均等な牙で埋め尽くされている。
猿のような姿をした魔物、ナイトモンキーだ。
「アルファさんが魔物を使役している……? いえ、さすがにそれは……」
「ないと思う。そこは同感だ」
カグネを覆うほどの夢を見る結界を作り出して……
その上、魔物を使役するなんてこと、やりすぎだ。
いくら最強種でも、完全にキャパシティオーバー。
「考えづらいことですが、この魔物は偶然による産物か……」
「あるいは、別の敵の仕業、ってことだな」
アルファさんの問題だけでも、かなり厄介なのに……
その上、他に敵が潜んでいるかもしれない。
頭が痛い話だ。
「とにかく、今、わたくし達がすべきことは……」
「街の人に被害が出ないように、ここで魔物を殲滅する!」
イリスが味方というのは、本当に心強い。
息もぴったりで、うまく連携も機能していた。
しかし、敵の数が多い。
霧のせいで正確な数が把握できず、どうしても受け身に回ってしまう。
それでも戦い続けるのだけど……
「ふぇ?」
騒ぎを聞きつけたのか、視界の端に小さな子供が見えた。
「まずい!?」
「きゃあああああっ!?」
子供の悲鳴に反応して、魔物達が一斉にターゲットを変更する。
ここからだと、走っても間に合わない。
最悪の展開を想像してしまうが……
「はぁっ!」
ヒーローはピンチに現れるもの。
どこからともなく姿を見せたシフォンが、子供に襲いかかる魔物を斬り捨てた。
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