350話 暴露
ひとまず、イリス勧誘の話は終わりに。
今は、みんなを夢から覚ます方法を考えないといけない。
そのための対策を話し合う。
「ところで……カナデさん達は、どのような夢を見ているのですか?」
「えっと……」
それぞれの様子を思い返しながら、一つずつ言葉にしていく。
「ニーナは、お母さんと一緒にいたな。普段、表には出していなかったけど、母親が恋しいんだと思う。ずっと前に離れ離れになって、今も行方が知れないみたいだから」
「なるほど……それで間違いないでしょうね。神族のあの子は、まだ幼いですから。母親を求めてしまっても、無理はないでしょう」
「ティナは……足があったから、生き返っていたのかな? 幽霊であることを受け入れてはいるみたいだけど、でも、やっぱり生きていたら、って思うところがあるんだろうな」
「納得ですわね。誰しも、生きていたいと願うものですから」
「リファは……死んだはずのお兄さんと一緒にいたな。お兄さんが死んだのは少し前のことだから、まだ心の整理ができていないんだろう」
「わたくしは、その方は存知あげないですが……レインさまがそうおっしゃるのなら、そうなのでしょう」
ひとまず三人を挙げて……続けて、残りの四人のことを考える。
ただ、四人は同じ夢を見ているような感じだ。
「カナデとタニアとソラとルナは……よくわからないんだよな」
「わからないのですか? 目に見えた変化はないと?」
「いや、あるにはあるんだけど、なんでそんな夢を見ているのか……」
「そんな夢?」
怪訝そうにイリスに、カナデ達の現状を説明する。
四人が四人、揃って、なぜか俺と結婚している夢を見ている……と。
「おかしな話だよな。四人、全員が……っていうところもあるけど、そんな夢を見ていることもよくわからない。アルファさんの話だと、幸せな夢を見るはずなんだけど」
「……はぁあああああっ」
なぜか、イリスが深いため息をこぼした。
それから、やたら鋭くて、こちらを責めるような目を向けてくる。
「レインさまには鈍いところがあるとは思っていましたが、まさか、ここまでとは……」
「い、イリス? えっと……俺、なんで睨まれているんだ?」
「……レインさまは、バカなのですか?」
いきなり罵声をぶつけられて、たじろいでしまう。
「鈍感も度が過ぎると、相手を傷つけることになるのですよ? もう少し、相手のことを考えてくださいませ。レインさまのような態度をとっていると、あちらこちらで女性が泣くことになりますわ」
「え、えっと……どうしてイリスは怒っているんだ?」
反射的にごめんなさいと言ってしまいそうな迫力があるが……
ただ、言葉だけで謝罪しても意味がない。
原因を探り、きちんと理解しないと。
「はぁ……まったくもう。仕方ありませんわね。このようなこと、本来ならわたくしが口にしてはいけないのですが……レインさまに自覚していただかないことには、事態を前に進めることはできそうにありませんし」
「その……できることなら教えてくれないか?」
「ヒントをさしあげます。カナデさん達は、レインさまと結婚している夢を見ている……間違いありませんね?」
「あ、ああ。その通りだ」
「ならば、答えは他になく、とてもシンプルなものなのですわ。レインさまと結婚をする……それこそが、彼女達の夢なのですわ。幸せなのです」
「えっと……もしかして、それは……」
ここまで言われたら、さすがに理解した。
なるほど。
とんでもなく鈍いと言われて、イリスに怒られるのも仕方ない。
むしろ、怒られて当たり前だ。
……なんて、冷静に分析してみるものの。
本当のところは、えええええ、と叫びたくなるほどに動揺していて。
頭の中がぐるぐるで、うまいこと言葉が出てこない。
それでもなんとか心を落ち着けて、言葉を表に出す。
「カナデ達は……俺に……恋愛感情、を?」
「ええ、その通りですわ」
「……」
「どうしたのですか、レインさま?」
「……」
「レインさま? レインさま?」
「……」
「驚きのあまり、軽く意識が飛んでいるみたいですわね……はぁ、やれやれ。いったい、どのようにしたら、ここまで鈍感で、それでいて純粋な方ができあがるのやら」
イリスがなにか言っているような気がしたが、今の俺にはなにも聞こえないのだった。
――――――――――
「すまない、少し……いや。かなり取り乱した」
五分ほどして我に返った俺は、呆れ果てているイリスに頭を下げた。
「まったく……このようなことは言いたくありませんが、レインさまはだらしないですわね。とてもわたくしを打ち負かした方とは思えませんわ」
「いや、その……すまない。今まで、そういう方面の経験が皆無だったから、どうしていいかわからず……」
子供の頃に故郷を失い、その後は生きることに必死で、恋愛なんてしているヒマはなくて……
アリオスのパーティーに加わった後は、別の意味で必死になっていたし……
そのため、まるで経験がない。
って、これは言い訳だな。
いつからなのか、それはわからないが……
カナデ達は、俺にそういう想いを抱いてくれている。
そのことに気づけなかったことは申し訳なくて、ひたすらに俺が悪い。
「今後、俺はどういう顔をしてカナデ達と接すれば……」
「レインさま、話がズレていますわ。今は彼女達の気持ちとどう向き合うか、ではなくて、どのようにして目を覚まさせるか、ですわよ」
「そ、そういえばそうだったな……ホント、すまない。まだ混乱しているみたいだ」
「ホント、恋愛は苦手なのですね」
「面目ない……」
「まあ、いいですわ。その方が、わたくしにもチャンスがありそうですし」
「今、なんて?」
「なんでもありませんわ。それよりも、カナデさん達の目を覚ます方法を考えないと」
イリスの言う通りだ。
そちらを優先して、行動していかないといけない。
もしも失敗したら……
カナデ達は、ずっと夢に囚われたままだ。
「もしも……彼女達が夢を見続けることを望んでいたら、その時は、レインさまはどうされますか?」
ありえない話ではなかった。
俺も最初は夢に囚われていたし……
あそこは、なによりも心地よく、とても幸せだ。
幻だとしても、留まりたくなる。
俺は夢を否定したが、もしかしたら、カナデ達は受け入れてしまうかもしれない。
その時は……
「カナデ達には悪いが、無理矢理にでも目を覚ましてもらう」
「あら。少し意外な答えですわね……レインさまなら、みなさんの気持ちを尊重して、その時は仕方ないと言うかと思っていましたが」
「本当に幸せになれるのなら、そうしていたかもしれないが……そんなことはない。今なら断言できる。アルファさんの夢は、夢でしかない。ただの幻だ」
イリスと話をして、直接、アルファさんと話をして……
最初、抱いていた迷いはもう消えた。
アルファさんのしていることは、間違っている。
そう言い切ることができた。
「では、カナデさん達の目を覚まさせるという方針で動いていくことにしましょうか」
「ああ、そうしよう」
「さっそく、会いにいきましょう。レインさまの時と同じように、じっくりと話をすれば目が覚めるかもしれませんし」
「あー……すまない。少し待ってくれ」
「なにか問題が?」
「いや、その……カナデ達の気持ちを知った以上、どういう風に顔を合わせていいかわからなくて……もう少し、気持ちを落ち着ける時間がほしい」
「……乙女ですか」
やれやれ、とイリスが深いため息をこぼすのだった。
ごめんなさい。
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