347話 対話・その1
数頭の野良犬と仮契約をして、イリスの体についたアルファさんの匂いを頼りに、街中を探してもらったのだけど……
「……見つかりませんわね」
「……だな」
目の前には、困り果てた様子で、クゥンクゥンと鳴く犬達が。
対象を見つけることができず、戻ってきたのだ。
「よしよし。がんばってくれてありがとうな。ほら、報酬だ」
犬達の頭を撫でて、あらかじめ買っておいた骨付き肉を渡す。
いいの? というような顔をしつつも、パクリと骨付き肉を咥えると、うれしそうに駆けていった。
「失敗したのに、ご褒美を与えるんですの?」
「仕事はしてもらったからな。失敗したらなにもなし、なんてひどいことはしないさ」
「これから、どうされますの? 次は、野鳥でも使役いたしますか?」
「野鳥は目は良いけど、犬みたいに鼻が優れているわけじゃないからな。成果が期待できるかというと、なかなかに微妙なところだと思う」
「では、他の手が?」
「そうだなあ……」
今まで使ってきたような方法では、アルファさんを見つけることはできないようだ。
なにかしら絡め手で行く必要がある。
そうなると……
「……よし、試してみるか」
「そのように簡単に次の策を思いつくところ、レインさまは規格外ですわね……」
イリスが呆れたような感心したような様子で言うが、別に俺は規格外なんてことはない。
一人でできることなんて、たかがしれているし……
いつも誰かの力を借りている。
それだけなのだ。
だから、驕ることなく自惚れることなく……
誰かに対して、誠実に向き合い続けないといけないと思っている。
――――――――――
「よし、準備完了。悪いな、また力を貸してもらうぞ」
さきほどの犬達と、もう一度、仮契約を交わした。
犬達に問題はないらしく……むしろ、汚名返上してみせるというように、やる気たっぷりに尻尾を振っていた。
「また犬を使いますの? しかし、一度失敗しているのに……」
「今度は、ちょっと方法を変える。アルファさん本人じゃなくて、その足跡を辿るんだ」
「足跡を?」
「夢はカグネ全体を包み込んでいる。これだけのことを、さすがに遠隔操作はできないと思うから、アルファさんはこの街のどこかにいると思う。ここまでは?」
「ええ、異論はありませんわ」
「もちろん、見つからないように身を潜めている。ただ、ずっと隠れ家にいるというわけにはいかない。食料などを買うために、どうしても外に出ないといけない。どこかで、誰かに接触しないといけない。俗世との関わりを絶ち、完全自給自足で暮らす人もいるけど……夢を維持しつつ、そんなことをする余裕はないと思う。だから……」
「なるほど。外に出た際に、どうしても残ってしまうアルファさんの足跡を辿る、ということですわね?」
「正解」
少し遠回りになってしまうが、これならアルファさんを見つけることができるはずだ。
犬達にもう一度がんばってもらい、足跡を辿る。
まず最初は、色々な店が立ち並ぶ繁華街へ。
その端の端の方にある小さな飲食店に犬達に案内される。
そこからさらに足跡を辿るのだけど……
街の外れに来たところで、再び犬達が迷ってしまった。
困惑した様子で鳴きながら、右へ左へウロウロしている。
これ以上は匂いが辿れないみたいだ。
「川とか、匂いが途切れるような場所じゃない。ということは……」
「結界……でしょうか?」
「たぶん、それが正解だな」
道理で犬達が二度も失敗するわけだ。
というか、結界の可能性くらい考えてしかるべきなのに……うーん。
みんなが夢に取り込まれているせいか、焦り、細かな可能性を見逃していたのかもしれない。
落ち着いて、冷静にいかないといけないな。
そう自分に言い聞かせつつ、犬達に報酬を与えて別れた。
「この先は、自分達の足で探す必要があるな」
「幸いというか、途中までは来れたと思いますわ。あとは、結界をなんとかできれば……」
「イリスは、結界の解除なんかは?」
「防御結界など、戦闘で使用されるものならば、力任せに打ち破ることはできますが……場所を惑わすような幻覚系の結界となると、難しいですわね。辺り一帯を爆撃してもよいというのなら、まとめて吹き飛ばすことはできますが……」
「ダメだからな?」
「ですわよね。そう言われると思っていましたわ」
タニアもそうだけど、どうして最強種は発想が物騒な方向に傾くんだ……?
戦闘種族なのか……?
「まあ、無理して結界を打ち破る必要はないさ」
「と、いいますと?」
「アルファさんが足を運んでいると思われる店は突き止めた。なら、持久戦になるけど、あとはそこで待ち伏せすればいい」
「なるほど。言われてみれば、そうですわね」
イリスも納得してくれたところで、繁華街に戻り、小さな店の近くで張り込みをする。
イリスと二人、物陰に隠れて、アルファさんが来るのを待つ。
「なかなか現れませんわね」
「まだ張り込みを開始して、少しだからな。気長に待とう」
「わたくし、地味な作業は嫌いですわ……」
「いや……どうやら、待たされることはないみたいだ」
一人の女性が姿を見せた。
額から角が一本、生えている。
その角を中心に、髪を左右に分けて、肩に流していた。
やや控えめな雰囲気をまとっているものの、かなりの美人だ。
十人中十人が、彼女に見惚れると思う。
幅が広く、ゆったりとした服を着ている。
服……なのだろうか?
ほとんど見たことのないタイプだけど……そうか、これがカグネに伝わる着物というヤツか。
その女性は、まっすぐこちらへ。
俺達の前で立ち止まると、軽くお辞儀をして、優しい笑みを見せた。
「こんにちは」
「あ、はい……こんにちは」
あまりに普通の態度に、ついつい反射的に礼を返してしまう。
ただ、隣のイリスは厳しい顔をしている。
「ごきげんよう、アルファさん」
イリスは棘のある声色で、そう言う。
やっぱり、この人がアルファさんか……
一目見て、直感的に理解したものの……
ただ、こうも簡単に姿を見せたことについては、戸惑いを隠すことはできない。
そんな俺の心を読み取ったかのように、アルファさんが口を開く。
「すみません。私、姿を隠そうとしていたわけではなくて……さきほどまで結界の維持に集中していたため、自然と人も動物も遠ざけるようなことをしてしまいました。お詫びします」
「えっと……つまり、あなたがこの現状を作り出している、ということを認めるのか?」
「はい、そうですね」
あっさりと認められてしまった。
普通、こういう時は、否定するとかとぼけるとか、そういう展開があるものでは……?
それに、アルファさんからは悪意というものが一切感じられない。
今までやりあってきた相手とは、色々な意味で違うタイプのようだ。
これはこれで危ないかもしれない。
気を引き締めて、話を続ける。
「色々と聞かせてほしいことがあるんだけど、いいか?」
「はい、構いませんよ。あなた達と話をするために、私は、こうして姿を見せたのですから」
「俺達と話を? それは……どんな目的で?」
「あなた達は、私の夢から覚めた人。なぜ、そのようなことをしているのか? なぜ、辛い現実を歩いていくのか? そのことを尋ねたいと思いました。あと、できることならば、もう一度、私の夢を受け入れてほしくて」
それは敵対宣告と変わらないのだけど……
でも、こんな時でも彼女からは敵意や悪意が感じられない。
逆に、俺達に対する気遣いや優しさなどを感じた。
自身の行いを、絶対的な善と思っている……ということだろうか?
でなければ、この態度は説明できない。
「えっと……」
アルファさんは、ふと、困った顔になった。
何度か俺の顔を見て、口ごもり……ああ、そういうことか。
「悪い。そういえば、自己紹介をしていなかったな」
どんな相手であれ、最低限の礼儀は通さないと。
「俺は、レイン・シュラウド。冒険者だ」
「ありがとうございます。私は、アルファ。夢見鬼という種の鬼族です。そして……幸せな夢の案内人です」
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