表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

346/1167

346話 勇者が望む幸せ

「イリスはシフォンのことを知っているんだな」


 街を歩いてシフォン達を探す中、隣を歩くイリスにそんなことを尋ねてみた。


「え?」

「だって、シフォンっていう名前を出しても、そうですか、という感じでなにも反応しないだろう? だから、知っているんだよな」

「あー……わたくしとしたことが、なんていうつまらないうっかりを」


 イリスが気まずそう顔をして、ふいっと視線を逸らした。

 ものすごく怪しい。

 なにか企んでいたのだろうか?


「シフォンが次の勇者になったこと、ほとんど知られていないはずなんだけど」

「……」

「偶然、目的地が同じだった……っていうのは、ちょっと無理があるよな」

「……」

「シフォンのことを調べていたとか、あるいは、なにかしらの目的を抱いていたとか」

「わかりました、わかりましたわ……わたくしの負けですわ。はぁ……そういう風にネチネチと尋問するなんて、レインさま、意外と意地悪なのですね」

「イリスのことだから気になるんだ。その……また戦うようなことは、できれば避けたい」


 イリスと命を賭けて争った時のことを思い出す。

 あの時は他に手がなくて、仕方なく戦ったけれど……

 できることなら、もう二度と、イリスと争いたくない。


「……レインさま……」

「だから、頼むよ。なにかしら考えているのなら、教えてほしい。それが、もしも困っていることなら、教えてほしい。力になるから」

「こうして顔を合わせるのは久しぶりになりますが……ふふっ、レインさまは、本当になにも変わらないのですね。あの頃と同じ、とんでもなくお人好しで、どこか危なっかしくて……でも、とても優しい心を持っていらっしゃる」


 イリスは若干頬を染めつつ、こちらをじっと見つめてきた。

 その瞳に宿る感情は……信頼?

 それと、優しさだろうか?


 やっぱり、イリスは変わった。

 以前、戦った時とはぜんぜん違う。

 性格とかはそのままなんだけど、丸くなったというか……憑き物が落ちたような感じだ。


「わかりました。わたくしのことはぼかしていたのですが、今までになにが起きて、なにを考えるようになったのか。全てをお話いたしますわ」

「本当か!?」

「ええ。わたくし、約束は守る方なのですよ?」

「気に入った相手なら、なんだよな?」

「ふふっ、それ、覚えていたのですね」


 イリスがいたずらっ子のように笑う。

 こういうところは変わっていないみたいだ。


「ご安心ください。以前も言いましたが、レインさまのことは気に入っていますから。約束はきちんと守りますわ」

「それじゃあ……」

「ただ……今は、わたくしのことよりも優先することがあるみたいですわ」


 ちらりと、イリスが離れたところに視線を飛ばした。

 その視線を追いかけると……


「シフォン!」


 行方不明になっている勇者の姿があった。




――――――――――




「ふふっ、ドキドキしますわね」

「えっと……」


 楽しそうなイリスとは対照的に、俺はひたすらに困っていた。


 シフォンは今、どういう状況に陥っているのか?

 それを確かめるために、まずは離れたところから観察しよう、という話になり、尾行をしているところだ。


 その際、なぜかイリスとぴったりと密着をするハメに。

 物陰に隠れて、体を重ね合わせるようにしていて……

 これじゃあまるで、こっそりと逢い引きをする恋人じゃないか。


「どうしたのですか、レインさま? 顔が赤いですわよ」


 イリスは、とても楽しそうな感じでニヤニヤしていた。

 くっ……確信犯だな。


「尾行はともかくとして、なんでこんなに密着しないといけないんだ……?」

「あら、当然でしょう。堂々としていたら、すぐに見つかってしまいますわ。わたくし達は、尾行スキルなど持っていないのですから。ならば、素人考えですが、こうしていた方がわかりにくいと思いませんか?」

「それは……」


 一理あるような、ないような……


「まあ本音を言うと、わたくしと密着してあたふたするレインさまがかわいらしい、という楽しみもありますが」

「おいこら」

「ふふっ、失礼しました」


 やれやれとため息をこぼすものの、イリスを責める気にはなれない。

 変な意味じゃなくて、なんだかんだで、この時間を楽しんでいた。

 以前は、こうしてイリスとゆっくり語る時間なんて、ほとんどとれなかったからな……

 異常事態に巻き込まれているのだけど、でも、この時間を楽しいと感じていた。


 とはいえ、本当に楽しんでばかりではいられない。

 やることは、きっちりとやらないと。


「シフォンは?」

「ご安心を。こちらに気づく様子はありませんわ」


 俺達はシフォンの尾行を続けて……

 ほどなくして足を止めた。


 シフォンが年老いた夫婦らしき男女と合流した。

 とても楽しそうに、親しそうに話をしている。


「ご家族でしょうか?」

「たぶんな。普通に考えるなら、おじいちゃんおばあちゃんなんだろうけど……」


 それにしては、シフォンは気さくすぎるような気がした。

 コロコロと笑っているし、時折、ぽんぽんと老夫妻の体に触れている。


 俺達くらいの歳になると、祖父祖母相手には、それなりに敬意を持って接するようになる。

 子供の頃は遠慮がないけれど、大人になると礼節が身につくからな。


 でも、シフォンの態度は、祖父母に対するソレではない。

 どちらかというと、実の両親に対するようなものだ。


 子供っていうのは、いつまで経っても子供で……

 親に対しては、わりと気さくに接し続けるものだ。

 まあ、一般論で、誰も彼もに当てはまるわけじゃないが。


 どういう関係なのか、いまいち確信が持てず、そのまま様子を見ていると……

 シフォンは老夫妻と一緒に歩き出した。

 後を追うと、食事専門の店に入るのが見えた。


「食事……みたいですわね。レインさまは、どう思いましたか?」

「祖父母か両親か、そこはよくわからないが……普通に考えるなら、家族で一緒に食事、っていうところだよな」

「そうですわね。わたくしも同意見ですわ。どこにでもあるような、ありふれた普通の光景ですわ」

「そうだな。普通の光景だ」


 つまり……

 シフォンは、そんな普通を幸せに感じている、っていうことだ。

 たぶん、当たり前のことを過ごすことができなかったのだろう。


 いったい、どんな過去があるのか?

 どんな経験を経てきたのか?

 彼女のことが強く気になる。


「ひとまず、勇者についてはこんなところでしょうか。あの様子では、完全に夢に囚われている様子。それは痛いですわね……それに、勇者の仲間も見えないところを考えると、同じく夢に囚われているのでしょうね。これから、どうなさいます?」

「そうだな……」


 なにはともあれ、一度、この事態を引き起こしたアルファさんと会い、話をしてみたい。

 彼女のことを知らなければ、どうするべきか、どう動くべきか、判断がつかない。


「アルファさんと話がしたい。イリスは、彼女の居場所は?」

「わからないですわ。わたくしが力を貸した後は、どこかに姿を消して……その後、一時的にですが、わたくしも夢に囚われてしまいましたからね。そこで、完全に行方がわからなくなってしまいましたわ」

「なるほど……じゃあ、アルファさんを探すことを次の目的にしようか」

「ですが、どうなさるので? カグネは広い街。周辺地域も含めると、捜索範囲は膨大ですわ。とてもではありませんが、わたくし達だけでは手が足りません」

「なら、手伝ってもらえばいいさ」

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[一言] シフォンも故郷を滅ぼされましたよね。それは、レインと同じ5年前なのでしょうか。それとも、5年前よりももっと前になるのでしょうか? 今更ですが、こういう簡単な質問ですみません。 シフォン …
[一言] レインイリスとイチャイチャしてますね。今は夢に囚われているからいいが、カナデたちに見つかったら重傷レベルまでボコられそうですね。そして、夢に囚われているうちにリースからの命令であるシフォン殺…
[一言] これがバカリオス、リーン、ミナだったら、確実にろくでもない夢に囚われていそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ