345話 それぞれの幸せ
「あっ、レイン! おか……えり?」
宿に戻ると、カナデが迎えてくれた。
最初は笑顔を浮かべているのだけど、一緒にいるイリスに視線が移ると、尻尾がハテナマークになる。
続けて、ビックリマークに変化した。
「えええっ、い、イリス!? えっ、なんで!? なんでイリスがこんなところにいるの!?」
「おひさしぶりですわね、カナデさん。元気にしていましたか?」
「うん、私は元気だよー……って、話を逸らさないで!」
今、話を逸らしていただろうか?
イリスは普通に挨拶をしただけに見えたんだけど……
むしろ、カナデが話に流された?
「ホント、久しぶりだよね! えっと……どれくらいぶりかな? 元気? 旅は順調?」
旅、か……
どうやら、カナデの中ではイリスは旅に出たことになっているらしい。
死んだかもしれないとか、そういう記憶は上書きされているみたいだ。
「……レインさま、適当に話を合わせてください」
イリスがそっと、小声でそう言う。
「ええ、旅は順調ですわ」
「そっか、よかったね! でも、なんでこんなところに?」
「ただの偶然ですわ。たまたま立ち寄ったところでレインさまを見かけて……ふふっ、運命的ですわね」
「うにゃー……イリスと再会できたことはうれしいけど、でもでも、運命的とか言われちゃうともやっとくる……レイン!」
「うん?」
「えっと、あの、その……れ、レインは、私達の旦那さんなんだからね!? 他の女の子と仲良くしたらいけないんだからね!?」
「あらあら」
イリスが楽しそうに笑う。
そういえば、そういう設定なのを忘れていた。
この数時間で色々なことがことがあったからな……
わりと本気で覚えていなかった。
「にゃー……でもでも、お嫁さんは私だけじゃなくて、タニアとソラとルナもそうだし……うーん、そこにイリスが加わるのもアリ?」
「あら、わたくしも仲間に入れていただけるので?」
「イリスがレインのことを本気で好き、っていうのなら……うん、私はいいよ。イリスなら歓迎」
「あらあら。それはありがとうございます、ふふっ」
話に乗らないでくれ……
イリスのヤツ、絶対に楽しんでいるだろう。
「ちょっとカナデに聞きたいことがあるんだけど……」
「うん? にゃーに?」
「今、幸せか?」
「どうしたの、突然。えっと……うん、もちろん幸せだよ! なんと言っても、レインと、け……けけけ……結婚できたからね!」
とても晴れやかな笑顔でカナデが言う。
心の底から幸せそうで、見ているこちらも温かい気持ちになるような、そんな笑顔だ。
カナデは未だ、夢の中にいるらしい。
そのことは理解したのだけど……
「どうしたのですか、レインさま?」
こちらが微妙な顔になっていることに気がついて、イリスが小声で問いかけてきた。
「いや、なんていうか……俺と結婚する夢を見ているということは、カナデが望むことは……そういうことなのか?」
「あら……ふふっ、そういうことというのは、どういうことなのでしょうか? わたくし、察しが悪い方なので、ハッキリ言っていただかないとわかりませんわ」
「絶対にわかっているだろう……」
「なんのことでしょう」
くすくすとイリスが笑う。
ちょっと意地の悪いところは変わっていないらしい。
「まあ……レインさまとしてはとても気になるでしょうが、今は置いておきましょう。まずは、みなさんの現状を確認するべきですわ」
「そうだな」
考えるのは後回しだ。
今は、イリスが言うように、とにかく現状を知りたい。
「カナデ。他のみんなは?」
「タニアは、部屋でティナに編み物を教わるんだって。ソラとルナは、お義父さんとお義母さんに料理を教わるんだって」
「……あらあら、愛されていますわね」
「……誰のために、なんてことは言っていないだろう」
後回しと言ったくせに、イリスが茶化してくる。
イリスの背中の翼は、本当は悪魔の羽じゃないか?
なんてことを、ついつい考えてしまう。
「ニーナとリファは?」
「うーん……その二人はよくわからないや。どこかに行くとは言ってたような気がするんだけど、どこだっけ?」
「適当だな……」
「でも、心配することないよ。ニーナはお母さんと一緒だし、リファはカルスと一緒だからね!」
「ニーナのお母さんとカルスさん……か」
少し顔をしかめてしまう。
ニーナのお母さんは、本当は行方不明だ。
生きているのか死んでいるのかさえわからない状態。
カルスさんの方は……
すでにこの世にいない。
俺もこの目で見たから、それは間違いない。
ニーナとリファは、今はいない人の夢に囚われているみたいだ。
「ふむ……」
ひとまず、みんなの状況を確認することはできた。
ここにいない、カナデ以外のメンバーとも、直接顔を合わせて話をしたいところだけど、それは後でいいだろう。
それよりも、聞いておきたいことがある。
「カナデは……今、幸せか?」
「にゃん? 突然、どうしたの?」
「いいから教えてくれ。幸せか?」
「うん、もちろんだよ! だって……えへへ、レインと一緒になれたし」
「ずっとこうしていたい?」
「もちろん!」
「自分で掴み取ったものではないとしても?」
「え? それ、どういう意味?」
カナデがキョトンとなる。
不思議そうな顔をして……次いで、その表情は訝しげなものに変化する。
「あれ? そういえば私、いつ、レインとこんな風になったんだっけ……? いつもヤキモキしていたような……? あれ?」
もしかしたら、カナデは完全に夢を受け入れていないのかもしれない。
目の前の現実に小さな違和感を持っている様子で、落ち着かない感じだ。
「レインさま。よくわからない現状で、あまり刺激をするのは……」
「ああ、わかっているよ」
無理に目を覚まさせるようなことはしたくない。
だから……
「待っているよ」
その一言だけ残して、俺は宿の外に出た。
「レインさま、よろしいのですか? カナデさんは、わずかにこの現実に違和感を持っていた様子。理路整然とした話をすれば、気づいてもらえるかもしれませんよ」
「そうかもしれないけど……たぶん、それじゃあダメなんだ。自分で夢を打ち破らないと、また囚われてしまうと思う。それに……」
夢に浸ることが悪いことなのか。
それを断じることは、まだできない。
「次はどうされるので?」
「シフォン達のことが気になる」
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