表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

342/1167

342話 幻の夢

「ティナ? その体は……?」


 足がちゃんとある。

 体が透けていない、ふわふわと浮いていない。


 今のティナは、どこにでもいる普通の人のように見えて……

 なぜか、そこにものすごい違和感を覚える。


「どうしたんや、レインの旦那? うち、なんか変?」

「えっと……いや、なんでもないよ」


 俺、なにを考えていたんだ?

 ティナが普通の人であることに違和感を覚えるなんて……

 それじゃあまるで、ティナが普通の人じゃないみたいじゃないか。

 それが正しいことのようじゃないか。


 いかんいかん。

 また失礼なことを考えてしまうなんて……

 やっぱり、まだ寝ぼけているのかもしれない。


「ティナはなにをしているんだ?」

「レインの旦那のおとんを手伝っていたんや。やっぱ、タダで寝泊まりさせてもらうのは悪いからなー。うちにもなにかできんかな、って考えて……それで、ごはんの手伝いをすることにしたんや」

「そっか。ティナのごはんなら、期待大だな」

「任せとき! ……って言いたいところなんやけど、レインの旦那のおとんとおかんもいるからな。プレッシャーや……うぅ、あまりハードル上げんといて」

「期待していますよ、ティナ」

「期待しているのだ、ティナ」

「うちの話聞いてたん!?」


 後ろの方で、こっそりと話を付け加える双子に、ティナが鋭いツッコミを入れた。

 そんなやりとりを見ていると、自然と笑ってしまう。


 なんていうか……

 穏やかで、のんびりしてて、心が安らぐ。

 幸せっていう言葉は、まさに、こんな光景にぴったりと当てはまるものなんだろうな。


「ところで……」


 キョロキョロと一階を見回した。


「ニーナとリファは?」


 二人の姿が見当たらない。

 まだ寝ているのだろうか?


「ニーナとリファなら散歩に行ったよ。ついでに、カグネの観光もしてくるんだって」

「それなりの時間が経つから、そろそろ戻ってくるんじゃないかしら?」


 カナデとタニアが言うように、ほどなくしてニーナとリファが姿を見せた。


 ただ、一人じゃない。

 ニーナは大人の女性に抱っこされていた。


 その人は、ニーナによく似ている。

 目とか鼻筋とか瓜二つという感じで……おまけに、狐耳と尻尾が生えていた。

 以前、ニーナが覚醒して大人バージョンを披露したことがあるけれど……

 あの時の状態に近い。


 覚醒したニーナを、さらに5歳ほど成長させて……

 その上で色気をプラスすれば、こんな感じになるのではないか?


 リファは、同じ鬼族の男性と手を繋いでいた。

 リファのお兄さんのカルスさんだ。


「レイン……起きた、の?」

「ただいま」


 ニーナとリファに笑顔を向けられて、俺も笑顔で応える。


「おはよう。二人共、散歩に?」

「ん……お母さんと、いっしょ……に」

「ボクはお兄ちゃんと」

「なるほど……なる、ほど……?」


 なぜか、ものすごい違和感に襲われた。


 ニーナが母親と一緒に散歩?

 リファがカルスさんと一緒に散歩?


 なぜか、そんなことはありえないような気がした。

 なんでそんなことを思う?

 事実、二人は目の前にいるのに。

 幻なんかじゃなくて、確かにそこにいるのに。


「にゃー……レイン? どうかしたの? 難しい顔をしているよ」

「え? あ、いや……」


 カナデに問いかけられて、我に返る。

 それと同時に、違和感が急速に消えていく。


「……なんでもないよ。まだ寝ぼけていたみたいだ」


 ニーナのお母さんがいる。

 カルスさんがいる。


 それは、間違っていることじゃない。

 正しいことだ。

 幸せなことだ。

 だから、問題ない。

 そんな判断をして、俺は、生まれでた違和感を追求することなく、そのまま忘れ去ることにした。


「シフォン達も見えないけど、散歩?」

「にゃん?」

「え?」


 カナデとタニアが不思議そうな顔をした。

 二人だけじゃない。

 ソラとルナも、ティナも、ニーナとリファも……みんな、怪訝そうな表情を作る。


「にゃー……シフォンって誰?」

「ちょっとレイン、またどこかで女の子を引っ掛けてきたの?」

「俺がいつもそういうことをしているように言わないでくれ……というか、ホントに知らないのか? シフォンだぞ?」

「シフォンですか……ルナは知っていますか?」

「む……知らないのだ。聞いたこともないぞ。レインよ、それは誰なのだ?」

「誰って、もちろん……」


 ……誰だ?


 自分で言っておいてなんだけど、答えることができない。

 さっきまでは、確かな記憶が、情報が頭の中にあったはずなのに……

 それらが急速に消えていき、なくなってしまう。

 頭の中に濃い霧が立ち込めて、記憶を探るのを邪魔しているかのように……

 なにも思い出すことができない。


「にゃー……レイン、大丈夫? 今日は、なんか様子がおかしいよ?」

「もしかして、まだ疲れているのかしら? 昨日、カグネに着いたばかりだものね。もう少し寝ていたら?」


 カナデとタニアが心配してくれている。

 申し訳ないと思うのだけど……でも、なんだろう? この感覚は?

 目が覚めているはずなのに、だけど、今も夢を見ているような……夢の中にいるような……そんな曖昧で、心地いい感覚。


 いったい、これは……


「……ふう」


 考えても答えなんて出てくるわけがなくて、なんともいえないもどかしさだけが残る。


「ちょっと、俺も散歩してくるよ」


 自分でも自分の気持ちがよくわからない。

 それを整理するために、ひとまず外の空気を吸うことにした。


 宿を出てゆっくりと歩く。

 心を落ち着けるための散歩だから、特に目的地なんてものはない。

 ふらふらと、気の赴くままに街中を歩いて、朝の新鮮な空気を吸い込む。


「ふう……少し落ち着いたかな?」


 いくらか心が軽くなったような気がした。

 でも、片隅に張りついている違和感のようなものは、いつまで経っても消えることはない。

 ホント、どういうことなんだろう?


「ふふっ」


 ふと、聞き覚えのある笑い声が聞こえた。

 そちらの方に目をやると……


「ごきげんよう、レインさま」

「……イリス?」

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[一言] 最初から読み直して合計10時間と5日間かけてここまで行きました。 いやー!やはり、このストーリーは素晴らしい!
[一言] ティナが普通の人間になってて、レインに続き死んだ者がいる状態はあり得ないですね。 前話の感想で書いたが本当に偽りで儚いが理想郷ですね。 シフォンたちは別のところで同じような状態になってる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ