339話 カグネの噂
旅は順調で……
予想よりも数日早く、カグネの一つ手前にある街にたどり着くことができた。
ここからカグネまでは、歩いて一日ほど。
馬車で半日。
俺達なら、無理をすれば今日中にたどり着けないことはないが……
やはり無理は禁物。
一つ手前の街でしっかりと休養をとることにした。
「十一人なんですけど、部屋、空いてますか?」
「はい、空いてますよ。一人一部屋にしますか? それとも、二人、三人部屋などをご利用されますか?」
宿の受付に尋ねてみると、意外な返事があった。
この街はカグネに近く、様々な人が行き交う、交易の拠点とされているらしい。
宿も混んでいるんじゃないかと思い、最悪、野宿も覚悟していたんだけど……
まさか、全員が一部屋ずつ使えるほど、部屋が空いているなんて。
「三人部屋を二つ。四人部屋を一つ。一人部屋を一つ。それでお願いします」
「我はレインと同じ部屋でよいぞ?」
「ソラもそれで構いませんよ?」
「ぐにゃにゃにゃ……あの二人、隙あれば攻めるね」
「侮れないわね……あの度胸、只者じゃないわ」
たまに、よくわからない争いが勃発している。
ケンカとかそういうわけじゃなさそうだから、放っておくことにしているんだけど……なんだろう?
「どうする? すぐに休むか?」
「我はちょっと疲れたのだ。引きこもり族だから、部屋で休むことにするのだ」
「引きこもり族言わないでください。ソラも同じく、部屋で休むことにします」
ソラとルナを先頭に……
カナデ、タニア、ティナ、ニーナ。
それと、ミルフィーユとショコラが、宿の二階にある部屋に向かう。
この街に到着するまで、野宿が続いていたからな。
みんな、疲れているんだろう。
今日一日、ゆっくりと休んでほしい。
俺はまだ体力が残っているから、カグネについての情報収集をしておこう。
「リファとシフォンは休まなくていいのか?」
「ん、大丈夫」
「私も平気だよ。伊達に勇者はやっていないからね。なにかするなら手伝うよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
リファには食料と水の補充を頼んだ。
残りは一日くらいの行程だけど、何が起きるかわからないのが旅というものだ。
何も持たずに外に出るなんてことはしたくない。
俺とシフォンは二手に分かれて、カグネについての情報を集めることにした。
どんな街なのか?
今、どのようなことが起きているのか?
気をつけることはあるか?
色々なことを調べて……気がつけば、そこそこの時間が経過していた。
あらかじめ決めておいた待ち合わせ場所に行くと、すでにシフォンの姿があった。
「おまたせ。待たせたか?」
「ううん、そんなことないよ。気にしないで」
シフォンがそう言った後、くすりと笑う。
「なんだか、今のやりとり、デートみたいだね」
「……言われてみれば」
急に恥ずかしくなってきた。
「ふふっ、照れてる?」
「からかわないでくれ……」
「レイン君、けっこう初心なんだね。あんなにかわいい女の子達が近くにいるのに」
「よしてくれ。みんなはただの仲間だよ」
「はぁ……レイン君は誠実っていうことはわかるんだけど、鈍感なのは、時に罪になるんだからね?」
「えっと……なんのことだ?」
「なんでしょう。これ以上は私の口から言えないから、後でじっくりと考えてみて」
「あ、ああ」
逆らいがたい圧を感じて、俺はほぼほぼ無意識のうちに頷いていた。
女の子って、たまに怖いな。
「それじゃあ、情報の整理をしようか」
「そうだな」
聞き込みで得た情報を交換する。
その結果……
少し前から、カグネからの旅人が激減した。
また、カグネに行ったまま帰ってこない人もいる。
ただ、街道が封鎖されているわけでもないし、カグネで誘拐事件などが起きているわけでもない。
あくまでも、カグネの住民、あるいは旅人が自主的に留まっている。
……そんな情報が並べられた。
「なにか厄介事があったらまずいと思って、念の為に調べてみたんだけど……」
「見事なまでに、厄介事が起きているかもしれないね……」
今のところ、ハッキリとした事件性は感じられないが……
それでも、なにかあるのでは? と疑うような事は起きている。
「カグネに向かった人が帰ってこない……カグネから外に出る人もいない……うーん、これってどういうことなのかな?」
「カグネの領主が街を封鎖しているとか……でも、そんな話は聞かないんだよな。カグネからの人がゼロっていうわけでもないし」
「なら、望んで留まっている?」
「そう、なるのかもしれないが……」
この現象は、少し前から起きているらしい。
なので、一過性のものなのかもしれない。
もう少ししたら、いつものように人の行き来が再開されるのかもしれない。
「ダメだ、なんともいえないな」
カグネの現状を見ていない俺達では、ここであれこれと話し合っても結論は出てこない。
「即、危険があるっていうわけじゃなさそうだけど……念の為に、注意しておいた方がいいかもな」
「うん、私もそう思うかな」
あとは、実際にカグネに行ってみるしかない。
俺達の杞憂なら、それでよし。
なにか事件が起きているとしたら、臨機応変に対応する。
「レイン、ただいま」
「おかえり、リファ」
ちょうどいいタイミングで、リファが戻ってきた。
「食料や水は?」
「手配しておいた。明日、出発する前に届けてくれる」
「そっか。ありがとな」
「ん」
撫でろ、というような感じで、リファが頭を差し出してきた。
リクエスト通り、なでなでする。
「はふぅ」
リファが気持ちよさそうな顔になった。
それを見たシフォンが、うずうずとした顔になる。
なでたいのだろうか?
「ん」
なでたいならいいよ、という感じで、リファがシフォンの方に頭を差し出した。
「え、えっと……えいっ」
シフォンは恐る恐るという感じで、リファの頭を撫でた。
すると、顔がとろけるような感じになる。
「はぁ……こう言うのもなんだけど、いいね。リファちゃんの撫で心地、最高だよ」
「そう?」
「うん。昔飼っていた猫を思い出すよ」
「ボク、猫と同じ……?」
そこはちょっと不満らしく、リファが微妙な顔になった。
幼く見えるけど、最強種だからな。
猫と一緒に扱われるのは、さすがにプライドが許さないのだろう。
「あ、ごめんね。かわいい、っていう意味で同じに見ているだけで、けなすつもりとか、そういうことは一切ないんだ」
「ん、構わない」
「ふう……ありがとうね、リファちゃん」
「どういたしまして」
満足したらしく、シフォンは、どことなく満たされたような顔をして離れた。
「シフォンって、猫を飼っていたのか?」
「うん、そうだよ。かわいかったんだよ」
過去形であるということは、もういないのだろう。
「なんだか、あの子を思い出しちゃった」
そう言うシフォンは、ちょっとだけ影のある表情を浮かべていた。
「あの子にも……みんなにも会いたいな」
「みんな?」
「あ、ううん。なんでもないの。ごめんね、変なこと言っちゃって」
シフォンは、そう言ってごまかしてしまうのだけど……
その態度が妙に気になるのだった。
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