335話 怖い話と大失態
その日は、とても暑い夜だった。
夕食時に冷たいドリンクを飲んで体を冷やすものの、その効果は長続きしないで……
なにもしていないのに、しっとりと汗をかいてしまう。
「はぁあああ……暑い、暑いのだ。我、溶けてしまうぞ……」
「暑いと思うから暑いんですよ。気持ちをきちんと整えて、ぴしっとしていれば問題ありません」
「気持ちで気温は変わらないのだ。ソラはバカなのか?」
「……殴ってもいいですか?」
「ドメスティックバイオレンス!?」
ソラとルナがじゃれあい……
そして、ほどなくしたところで、汗をかいて、ぐったりとした。
なんだかんだで仲が良いため、外の宿でも二人は同じ部屋だ。
「暑いのだ……」
「ソラも暑くなりました……ルナのせいですよ」
「我は知らん」
「むう……」
「お邪魔やでー」
ソラとルナがベッドの上に寝ていると、扉が開いてティナがやってきた。
扉は念動力で開けたのだろう。
「む? どうかしたのか?」
「今夜は特に暑いやろ? だから、こんなんどうかな、って思うて。厨房を借りて、作ってきたんや」
澄んだブルーの液体の入ったグラスが、ふわふわと浮いてきた。
それぞれ、ソラとルナの手に収まる。
これもティナの力によるものだろう。
「おー、冷たくて甘くて冷たいのだ!」
「冷たいを二回言っていますよ」
さっそく、双子はドリンクを口にした。
冷たく、スッキリとした味わいらしく、ダラダラとしていた顔がシャッキリとしたものに変わる。
ただ、それも少しの間。
絡みついてくるような暑さに負けてしまい、すぐにしおれてしまう。
「うだー、暑いの嫌いなのだ。今すぐ、気温が50度くらい下がらないか?」
「それでは、氷漬けですよ……」
「二人共、暑いの苦手なん?」
「見ての通りなのだ……」
「ふーん……せや、良いこと思いついた!」
ティナがにひひと笑い、二人にそっと顔を近づけてきた。
「怪談せん?」
「「怪談?」」
「ヒヤッと肝を冷やすような話をして、涼を得るんや。これから行くカグネでは、そうやって夏を乗り切っている、っていう話もあるくらいやで」
「ほほう……おもしろそうではあるが」
「怪談くらいで、ソラ達は驚いたり怖がったりしませんよ?」
「ふふん。なら、本気を出してもええんやな? こう見えても、ウチ、怪談は得意やで。生きてる頃は、『恐怖の使者のティナちゃん』と呼ばれていたんや」
「幽霊が言うと、微妙に説得力がありますね……」
「まあ、物は試しなのだ。聞かせてくれ」
「オッケーやで」
ティナがパチンと指を鳴らした。
それに合わせるようにして、ふっと、部屋の明かりが消える。
「うお!?」
「ひゃ!?」
早くも驚いているソラとルナだった。
「じゃあ、始めるでー……」
ティナの顔の辺りだけを照らすように、火の玉が宙に浮かび上がる。
また、どこからともなく寒い風も吹いてきた。
これも、ティナの魔力によるものだ。
なかなかに芸が細かい。
「これは、ウチの友達から聞いた話なんやけど……」
「「ごくり」」
雰囲気たっぷりのティナの口調に、思わず場に飲まれてしまい、ソラとルナは顔をこわばらせた。
そして……怪談が始まる。
――――――――――
結論から言うと、ティナの怪談はとんでもなかった。
ソラとルナは何度も悲鳴をあげて、もうやめてください、と泣いて頼んだ。
脅かしすぎた、とティナは謝り、二つ、怪談をしたところでお開きとなった。
怪談でたっぷりと肝を冷やしたからなのか、暑さはそれほど感じなくなっていた。
怖い思いをしたものの、これでゆっくりと寝ることができる。
ソラとルナは心地いい顔をして、ベッドに横になった。
……その30分後。
ソラとルナは、未だに寝ることができず、ベッドの上でもじもじとしていた。
「我が姉よ」
「なんですか?」
「我は……トイレに行きたいぞ」
「奇遇ですね。ソラもトイレに行きたいです」
そう言いながらも、二人はベッドから降りようとしない。
「トイレに行かないんですか?」
「行きたいぞ。でも……こ、怖いのだ」
「ですね……」
ソラとルナが考えていることは、さきほどのティナの怪談だ。
暗闇に潜む怪物が自分と瓜二つの姿になり、いつの間にか本人と入れ替わるという話だった。
当然、廊下は暗い。
暗闇と言ってもいい。
もしも、怪談に出てきた怪物が潜んでいたら?
いつの間にか、入れ替わられてしまったら?
普段ならありえないと笑い飛ばすところだが、ティナの演技力が相当なもののため、そうすることができないでいた。
むしろ、気になりすぎてしまい、どうしても廊下に出ることができなかった。
「うぅ……も、漏れてしまいます……」
「や、やばいのだ……」
とはいえ、二人も限界を迎えつつあった。
このままでは、いずれ決壊してしまう。
ならば、行動するしかない。
「我が姉よ……幸いにも、我らは二人だ。互いに互いを見張ることができる。それならば、例の怪物がいたとしても問題はあるまい?」
「そうですね……では、手を繋いでトイレに行きましょうか」
「うむ」
ソラとルナはベッドから降りると、ものすごい勢いで手を繋いだ。
そして、恐る恐る廊下に出る。
窓から月明かりが差し込んでいるため、完全な暗闇ではなかった。
しかし、光が行き届かない場所もあり、やはり不安ではあった。
「うぅ……ぶっちゃけ、めっちゃ怖いのだ」
「怪談は、二度と聞かないようにしましょう……」
二人は身を寄せ合うようにして、薄暗い廊下をゆっくりと歩いていく。
トイレは一階の廊下の端だ。
普通に歩けば、1分とかからない。
ただ、今の二人は尿意を我慢しているため、刺激を与えないために急ぐことができず……
なおかつ、怪物を警戒しているため、よたよた歩きになってしまっていた。
それでも、なんとかトイレまでたどり着くことができた。
「ふう……ミッションコンプリートなのだ」
「油断はいけませんよ。用を済ませて、初めて終わりなんですから」
「うむ、そうだな。最後まで気をつけることにしよう」
いざ、トイレにゆかん。
ソラとルナが手を伸ばして……
ドアノブを掴もうとするが、その手前で、二人の手がぶつかる。
「「……」」
バチバチと、暗闇の中で二人の視線が激突する。
「我が先なのだ」
「いいえ、ソラが先です」
譲り合いの精神はないらしく、ソラとルナはにらみ合う。
二人共、すでに限界だった。
「我は妹なのだ。ならば、我に譲るべきが道理だと思わないか!?」
「いいえ、思いませんね。ルナこそ、妹であるならば、姉に譲るべきなのです!」
「横暴なのだ! そんなことは許されないのだ!」
「絶対に譲りませんよ! ここはソラが先なのです!」
夜中だということも忘れて、二人は大きな声で言い争うが、それが失敗を招いてしまう。
「「むむむっ!!!」」
「……あのさ」
「「ぴゃあああああぁっ!!!?」」
突然、第三者の声が響いて、それに心底驚いたソラとルナは、びっくりしてそのまま腰を抜かしてしまう。
涙目で顔を見上げると、携帯用の明かりを手にしたレインの姿があった。
なんだ、レインか。
二人はほっとして、体の力を抜いて……
ついでに、色々と我慢していた下半身の力も抜いてしまう。
「「あっ」」
……その夜、なにが起きたのか。
一部始終を目撃したレインは、二人の名誉のため……
あと、泣きながら口外するなと頼まれたため、固く口を閉ざして、誰にもしゃべることはなかった。
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