334話 乙女の使命、すなわち……
「にゃーにゃーにゃー、にゃっ、にゃにゃにゃ! にゃ~ん♪」
カナデがものすごいご機嫌だった。
その理由は簡単。
食堂のテーブル席に着いたカナデは、山盛りの魚を、とても幸せそうに食べていた。
「よく食べるわね……」
一緒に昼食を食べているタニアは、カナデの食欲に呆れているようだった。
タニアもけっこう食べる方なんだけど……
魚を目の前にしたカナデには敵わないらしい。
「まあ、いいんじゃないか? 大好物なんだから」
カグネを目指して旅をしている俺達だけど……
食料や水がなくなりそうになり、途中に立ち寄った街で補充をすることにした。
分担して、色々と買い物をして……
その途中、いい時間になったのでごはんを食べることにした。
適当に食堂に入ったのだけど、そこには魚を使った料理が当たり前のようにあった。
東大陸は海にそれなりに近い。
だから、魚も普通に仕入れられるらしい。
そのことを知ったカナデは目をキラキラさせて、当然のように大量に注文して……
そして今に至る、というわけだ。
「にゃふー、幸せだよぉ……私、このままお魚に埋もれて生活したい」
両手で魚料理を口に運びながら、よくわからない夢を言い出した。
失礼だけど、大丈夫だろうか? なんてことを思ってしまう。
カナデはものすごいハイテンションで……
猫霊族にとって魚は、マタタビのような効果があるのでは? と考えてしまう。
「……」
ふと、タニアがじっとカナデのことを見つめた。
より正確に言うと、カナデの脇や二の腕の辺りを見つめている。
「にゃん?」
「じー……」
「な、なに、タニア? 私のお魚ならあげないからね?」
魚を狙われていると勘違いしたらしく、カナデは料理をかばうように自分の後ろにやる。
「違うわよ。魚なんてどうでもいいわ」
「ど、どうでもいい!? お魚の素晴らしさがわからないなんて……にゃあ。タニアはかわいそうな舌を持っているんだね」
「ちょっと、なんで魚ぐらいで哀れまれなくちゃいけないのよ。というか、あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて……」
次の瞬間、タニアは空気が凍りつきそうな、衝撃的な台詞を口にする。
「カナデ……あんた、太った?」
「っ!?!?!?」
声にならない悲鳴をあげて……
それから、ビシリ! とカナデが固まる。
その手から、ぽろりと魚の串焼きが落ちて……
って、危ない危ない。
慌てて皿でキャッチした。
「わ、わた、わたたた……」
カナデは壊れた人形のように震えつつ、タニアに恐る恐る問いかける。
「ふ……太った?」
「ええ」
「にゃあああああ!?」
あっさりと肯定されて、カナデは、本日二度目の悲鳴をあげた。
その悲鳴は、街中に響いたとかなんとか。
――――――――――
「ふんすっ!」
翌朝。
ラフな格好をしたカナデは、ハチマキを頭に巻いて、やる気たっぷりの様子だった。
食料品などの調達に時間がかかり、もう少し、街に滞在することになったのだけど……
その間に、カナデは……
「絶対に5キロ痩せてみせるんだから!」
と、ダイエットを決意した。
俺の目からしたら、カナデはぜんぜん太っていないし、むしろ痩せているように見えるんだけど……
それはそれ。
男にはわからない、女の子の感覚というものがあるのだろう。
下手に口を出すようなことはしないで、監督役として、俺はカナデのダイエットを応援することにした。
「それじゃあ、がんばろうか。俺も、できる限りの手助けはするから」
「はいっ、コーチ! カナデ、がんばります!」
「コーチ?」
「イエス、コーチ!」
……壊れた?
「まあいいや。えっと……じゃあ、まずはランニングをしようか。やっぱりダイエットといえば、運動が一番だと思うからな」
「イエス、コーチ!」
カナデのテンションが気になるものの、それでも気にしないことにして、ランニングに出発する。
街中だと迷惑をかけてしまうかもしれないので、街の外をぐるりと周る形で走る。
一周、十キロメートルくらいだろうか?
小さな街なのでそんなものだ。
「それじゃあ、スタート」
「うにゃあああああっ!!!」
カナデは全力ダッシュでスタートした。
当然、追いつけるわけもなく、俺は置いてけぼりになってしまう。
「……ほどほどになー」
聞こえるわけはないとわかっていても、ついつい、そんなことを口にしてしまう俺だった。
――――――――――
その後……
ランニングから始まり、筋トレ、食事制限、痩せると評判の健康食品……色々なダイエットを試した。
その結果、なんと!
「なんでぜんぜん痩せていないのぉおおおおお!?」
夜の宿で、体重計に乗ったカナデが、悲痛な叫び声をあげた。
「そりゃ、一日で痩せないわよ」
「私、あんなにがんばったのに!」
「これからもがんばりなさい。ダイエットは一日にしてならず。乙女の宿命なのよ」
「うわぁあああああーんっ!」
タニアの厳しい言葉に、カナデは涙を散らすのだった。
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