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333話 ガールズトーク

「んっ……ふにゃあああああぁー」


 湯船に肩まで浸かるカナデは、尻尾をぷるぷると震わせた。

 そして、とろけるような顔をして、全身を脱力させる。


「お風呂、気持ちいいねー」

「そうね。こんなに大きなお風呂に入れるなんて、うれしい誤算ね」


 同じく風呂を堪能するタニアが、湯の熱で頬をほんのりと染めつつ、にっこりと笑う。


 一同がカグネを目指して、クリオスを出て、旅をすること一週間が経過していた。

 その間、野宿が五日。

 街道の間にある小さな街や村の宿に泊まること、二日。


 野宿をしている間は、当然、風呂などには入れない。

 湖が近くにあるとも限らないので、水浴びもできない。

 どうしてもという時は、水で濡らしたタオルで体を拭くことくらいしかできない。


 また、宿に泊まることができたとしても、小さなところなので風呂がない場合が多い。

 一回目の宿は風呂がなく、ただ寝ることしかできなかった。


 ただ、二回目の宿はきちんと風呂が設置されていて……

 女性陣は満面の笑みで、久しぶりの風呂を堪能している、というわけだった。


「ふう……良いお湯ね」

「そうですねー、とろけてしまいそうですー」

「風呂は女の命だ」


 シフォン、ミルフィーユ、ショコラの勇者パーティーも一緒に、久しぶりの風呂を満喫していた。

 他に客はいないものの、これだけの人数が一緒に入れる風呂は、なかなかに珍しい。


「ほほう」


 ルナが勇者パーティーの三人を見て、なにやら納得したように頷いた。


「松、竹、梅……か」

「ショコラは、ソラ達の仲間ですね」

「あのなー……二人は、そんなに大きさにこだわりがあるん?」

「当たり前なのだ!」


 ルナが外にまで響きそうな大きな声で言いつつ、がしっとポーズをとる。


「胸の大きさは母性の現れ! 故に、世の男は、皆、胸の大きさを求めているのだ! なればこそ、女に生まれたからこそ、大きくならねばならないと、そう思わないか!?」

「おー……」


 ルナの勢いに感心したように、ニーナがぱちぱちと手を叩いた。


「おー、同士だ」


 ショコラも感銘を受けたらしく、ルナに握手を求めた。

 ルナは無言でその手を握り、しっかりと応える。


「我ら、貧乳同盟。憎き脂肪の塊を持つ連中を駆逐してやろうぞ!」

「するぞー」

「……あれ? ボクも仲間?」


 いつの間にかリファも手を掴まれていて、仲間に引き込まれていた。

 ただ、手を振りほどいて拒否するほどでもないらしく、されるがまま、のんびりとお湯に浸かっている。


「あんさんところのパーティーも、色々あるんやなあ」

「そちらもー」


 ティナとミルフィーユは意気投合したらしく、隣に並んで、一緒に風呂を堪能している。

 ティナは幽霊ではあるが、なんとなく、気分でお風呂を堪能していた。


 その隣で、ニーナがやはり同じように、ほっこりとしていた。

 三本のふわふわの尻尾が、お湯の中で静かに揺れている。


「ねえねえ」

「うん?」


 そっと、カナデがシフォンに話しかけた。

 それにタニアも続く。


「あんた、レインのファンなのよね?」

「あんた、じゃなくて、シフォンって呼んでほしいかな。ちょっと距離を感じるし、一緒に旅をする仲なんだから。まあ、私からの依頼でもあるんだけど」

「えっと……それじゃあ、私のこともカナデって呼んで」

「あたしは、タニアでいいわよ」


 シフォンのまっすぐな感情を感じたのか、カナデとタニアはそう言った。


「うん、ありがとう。カナデ、タニア」

「それで……シフォンは、レインのファンなんだよね?」

「そうだよ」

「よくレインのことを知っていたわね?」

「レイン君くらい活躍していると、離れていても、武勇が届いてくる場合があるからね。私の場合は、Aランクとしてあちこちで活動していたし、そういう話を聞く機会も多くて。それで、そんな話を聞いているうちに、いつしか憧れに変わっていったんだ」

「にゃー……それは、憧れだけ?」


 カナデが警戒するような目をシフォンに向けた。

 タニアも同じような目をしていた。


 シフォンもレインのことが好きなのでは?

 新しいライバルの登場では?


 二人はそんなことを考えていた。

 それは実にわかりやすい態度で……

 二人の気持ちをすぐに察したシフォンは、くすりと笑う。


「うーん……今はまだ、ただの憧れかな」

「そっか、良かった」

「って、今は……?」

「先のことは、誰にもわからないからね。私自身も。だから、どうなるかについては、確約できないかな」

「にゃー……シフォンって、けっこう意地悪?」

「ふふっ、ごめんね」


 そんな話をしつつも、カナデとタニアは、シフォンに対する警戒心が薄れていくのを自覚した。

 レイン関係のライバルという意味ではなくて……

 本当に正しい心を持つ勇者なのか? という疑惑が、少しずつ消えていく。


 前勇者のアリオスと長く接してきたカナデとタニアだからこそ、新しい勇者のシフォンをすぐに信じることはできなかった。

 もしかしたら、シフォンもアリオスと同じタイプの人間かもしれない。

 そんな疑惑を持ち続けていた。


 しかし、一緒に過ごして……

 一緒に風呂に入り……

 文字通り、裸の付き合いをすることで、その疑惑も消えてきた。


 二人は最強種なので、直感に優れている。

 その直感が、シフォンは正しい人間だと告げていた。


「まあ……シフォンがライバルになったとしても、いいや」

「え?」

「うーん、なんていうかな? シフォンなら、レインを任せてもいいっていうか……これ、ちょっと上から目線だよね? そういうつもりじゃなくて……きっと、どんな結果になっても、シフォンなら後悔はしないと思うんだよね」

「後腐れのない、良いライバルとしての関係を築けそうね。そこは、カナデと同感。あたしも同じことを考えていたわ」

「……ふふっ」


 シフォンは優しい笑みを口元に浮かべた。


「レイン君は、とても素敵な仲間がいるんだね」

「ふっふっふー、自分で言うのもなんだけど、私は、素敵だよ!」

「ほんと、自分で言わない方がいいわね、その台詞」

「くすっ」


 三人で笑う。

 裸の付き合いの効果は、バッチリと出ていたらしく……

 カナデとタニアとシフォンは、それこそ、長年の付き合いの親友のように見えていた。


「でもでも、あれ、すごいよね」

「あれ?」

「シフォンの、あれだよ、あれ」

「あれじゃわからないわよ。語彙貧弱猫」

「反論できない!?」

「もしかして……魔法剣のこと?」

「そうそう、それ! 魔法を剣に宿すなんて、聞いたことないよ」

「そうね……それは、あたしも同じ。けっこう、各地を巡ってきたつもりなんだけど、そんな技術があるなんて、聞いたことがないわ」

「……うん、そうだと思うよ」


 二人の言葉を受けて、シフォンの表情は憂いのあるものに変化した。


 なにか失言があっただろうか?

 シフォンの顔を見て、カナデとタニアは戸惑う。


「えっと……ごめんね。変な気を使わせちゃったかな」

「ううん。私達は気にしていないよ。ただ、シフォンに嫌な思いをさせちゃったのかな、って」

「ちょっと……ね。思い出しちゃったんだ」

「それは……なにを思い出したのか、あたしらも聞いていいの?」

「そうだね。それは……うん。聞いておいてほしいかな」


 過去を思い出すように……

 シフォンは視線を遠くにやりながら、そっと口を開く。


「私の魔法剣は、故郷に伝わるものなの。誰もが使えるっていうわけじゃないんだけど……故郷の一部の人に伝授されてきた、とっておきの必殺技」

「にゃー……?」


 故郷だけに伝えられる特殊な技術。

 どこかで聞いたような話だ……と、カナデは小首を傾げた。


 考えて、考えて……

 そして、レインと似たような話であると知る。


 隠されたビーストテイマーの里があるのと同じで……

 隠された魔法剣を継ぐ里があるとしても、おかしくはない。

 カナデはそう理解した。


 ただ、気になることはある。

 いつかのレインと同じように、シフォンは寂しそうな顔をしているのだ。


「えっと……聞いてもいいかな? 今、シフォンの故郷は……?」

「ないよ」


 悲しみ、後悔、苦悩、怒り……色々な感情を混ぜたような顔をして、シフォンは短く答えた。

 肩までお湯に浸かり、湯気が漂う天井を見上げて……

 目を閉じて、過去に起きた事実を告げる。


「ある日、魔物に襲われて……それで、ね」

「……そうなんだ」

「シフォンも……」


 カナデとタニアがなんとも言えない顔になる。

 それを見たシフォンは、慌てて笑顔を浮かべる。


「あっ、別にもう気にしていないからね? ずっと前のことだから、心の整理はついているし……私は大丈夫だから」

「にゃー……なんかあったら、私に言ってね? できる範囲で力になるから」

「あたしも、シフォンのためなら力になりたいって思うわ」

「うん、ありがとう」


 シフォンは二人にお礼を言い、再び風呂を堪能するように、広い湯船の中、手足を広げてくつろいだ。

 その顔には笑みが浮かんでいる。


「……にゃー」


 しかし、カナデから見たら、シフォンの笑みにはどこか影があり……

 レインとは違い、未だ、過去に囚われているように見えたのだった。


『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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[良い点] 作者様、妄想の時間となりました。 もしも、このあと、女の子によるバストの話になったら・・・ ルナ「我らで貧乳同盟でカナデ達に立ち向かうのだ!」 ソラ「胸がなくても、他の所の魅力で勝ちます!…
[一言] 「胸の大きさは母性の現れ! 故に、世の男は、皆、胸の大きさを求めているのだ! なればこそ、女に生まれたからこそ、大きくならねばならないと、そう思わないか!?」 ルナ(貧乳同盟)は母性がなく…
2021/06/06 00:27 退会済み
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