表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

330/1097

330話 影の中で

「……馬鹿な勇者ですわね」


 アリオスとリースが密談する中……

 その様子を、こっそりと覗いている者がいた。


 イリスだ。


 魔法を使い、こっそりと室内の様子を覗き見ていた。

 ちなみに、召喚魔法ではない。普通の魔法だ。

 最強種なので、それくらいの魔法は使える。


「まったく……自分が騙されている、ということは考えないのでしょうか? いえ、さすがに考えてはいるでしょうね。騙されていたとしても、相手を利用すればいい……あの勇者の考えは、このようなところでしょうか?」


 だとしても愚かだ、とイリスは思う。


 相手を利用するのだとしても……

 逆に自分が利用される可能性を考えていないのだろうか?

 相手の方が上手であるという可能性を考えていないのだろうか?


「まあ、考えていないのでしょうね。考えているのだとしたら、リースの提案に乗るわけがありませんもの」


 イリスはやれやれと、呆れたため息をこぼした。


 リースが人間との共存を目指している、なんていうものは真っ赤なウソだ。

 そんな魔族いるわけがない。

 あくまでも、アリオスを味方にするための方便。

 そんな簡単なウソを見抜くことすらできないとは……


 あの勇者、思ったよりも長くないかもしれない。

 イリスはそんなことを思った。


「あんな勇者のことはどうでもいいですわね。問題は……わたくしのこと。そろそろ、わたくしも自分の行先を決めないといけませんね」


 人間を皆殺しにしようという感情はない。

 人間が憎いという気持ちは消えていないが……


 しかし、中にはレインのような人間もいる。

 温かい人間もいる。

 そのことを知った今、今までのように復讐だけに生きるつもりはなかった。


 故に、リースの味方になることはない。

 今一緒にいるのは、レインに対する恩返しとして、リースに関する何かしらの情報を掴むためだ。

 それ以外の理由なんてない。


「とはいえ、そうそう、うまくいきませんわね」


 リースはイリスのことを完全に信用していない。

 仲間になるかどうかの返事を、イリスが保留しているからというのもあるが……


 それ以上に、イリスの態度が変わっているからだ。

 以前は、人間を殺すことにためらいなんて覚えていない。

 むしろ、喜んで手にかけてきた。


 しかし、今のイリスは違う。

 人間を殺すことは一切していない。

 それどころか、関わることすら避けている。


 そんな態度では、リースからの信用を得られなくても仕方ないが……

 とはいえ、どうしようもないのだ。

 イリスの中にあった復讐心は、レインとの戦いで綺麗に消えていた。

 もう以前のように、人間を無差別に殺す気なんてない。


 レインに会い、イリスは変わった。

 いや。

 変えさせられた、というべきか。


 最強種の心を変えてしまう。

 それだけの力がレインにはある。

 イリスはそう考えていた。


「とはいえ、悩ましいですわね」


 リースの味方をすることはないが、かといって、レインに仲間にしてほしい、なんてこと言えるわけがない。

 もちろん、本心ではレインと一緒に行動したい。

 そうすればとても楽しそうだ。


 しかし、あれだけのことをしておいて、どんな顔をして言えばいいのだろうか?

 それに……


「わたくしは……レインさまとは違いますからね」


 すでに何人も殺してきた。

 レインとは違い、この手は血に汚れている。


 以前は、そのことについてなんら気にすることはなかったけれど……

 今はひどく気になっていた。

 レインと比べると、自分がどうしようもない存在に思えてきた。


「ふぅ……ままなりませんわね。とはいえ、もう猶予はない、と考えた方がいいですわね」


 リースのところに身を寄せて、それなりの時間が経っている。

 リースとしては、そろそろイリスの返事を聞きたいところだろう。

 急かすようなことは言わないが、それでも、待っていることに間違いはない。

 それと、イリスの本心にある程度感づいているだろう。


 自分達の味方にならなければ、どんな行動に出るか?

 普通に考えて、そのまま始末されるだろう。


「負ける気はありませんが……いえ。あの人間は厄介な気がしますわね」


 イリスはリースよりも、モニカを危険視していた。


 単純な戦闘力で言えば、リースの方が圧倒的に上だろう。

 人間一人が魔族を上回る戦闘力を持つなんてこと、ほとんどない。


 ただ、モニカには不気味なものを感じた。

 敵に回したくないと、本能的に思ってしまうような……

 そんな危機感。


「こんにちは」


 あれこれと考えていると、リースがやってきた。

 アリオスとの会談が終わったらしい。

 満足そうな笑みを浮かべているところを見ると、アリオスを仲間にすることに成功したようだ。


「ごきげんよう。勇者はどんな感じでした?」

「ええ。私達の仲間になってくれると、約束をしてくれました」

「口約束では?」

「その様子はありませんでしたが……まあ、どちらにしろ、もうアリオスさんは引き返すことができませんからね。私達と一緒にいる以外の道はありませんよ」

「……そうですか」

「それで……そろそろ、イリスさんの返事も聞きたいのですが?」


 来た。

 イリスは内心で苦い顔をした。

 もちろん、それは表に出さない。


「そうですね。おまたせしてしまっていますが、そろそろ答えを出せると思いますわ」

「期待しても?」

「ええ、もちろんですわ」

「安心しました。ただ……その前に、一つ、仕事を頼みたいのですが」

「仕事、ですか?」

「ええ、仕事です」


 リースがにっこりと笑う。

 イリスは嫌な予感を覚えた。


「最近、新しい勇者が現れたようです」

「新しい勇者……? アリオスさんではなくて?」

「いえ、別の人間ですね。聞くところによれば、女性の勇者だとか」


 世代交代が行われたのだろうか? とイリスは考えた。

 勇者の交代なんて、よほどのことがない限り行われないが……

 まあ、あれだけのことをやらかしたのだから、それも当然か、とイリスは納得した。


「それで、その新しい勇者がどうかしたのですか?」

「殺してきてください」

「……はい?」


 あまりにストレートな要求に、イリスは思わず間の抜けた声をこぼした。

 しかし、リースの表情は変わらない。

 笑みを携えたまま、同じセリフを繰り返す。


「新しい勇者を殺してきてください」

「……どうしてですの?」

「決まっているじゃないですか。我々魔族にとって、邪魔な存在だから、ですよ」

「それは……」

「もちろん、他の勇者候補もいるでしょうけどね。殺したところで、また新しい勇者が出てくるでしょう。しかし、次に回されていたということは、質は劣るはず。それと、時間もかかるはず。ここで殺しておいて、損はないんですよ」


 納得のいく話だ。

 イリスはそう思う一方で、苦い思いを味わっていた。


 試されている。


 リースは、なかなか積極的になろうとしない自分に、ついに業を煮やしたのだろう。

 新しい勇者を殺せば、それでよし。

 ダメならば、そこで見限る。


 そんなことを考えたイリスは、答えに迷う。


「わたくしは……」


 イリスはしばらく迷った末に、そっと口を開いた。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
[一言] リースは新勇者がレインに合流したことをまだ知らないのかな? 知ってるとしたら イリスがまだ決めてないがほぼ確実に味方にならない →実害がないから害せない(騎士道的観点) →レインと合わせれ…
[良い点] 最初から読んでいますが、とても面白いです。 [気になる点] イリスの今後の行動がかなり気になります。 リースの依頼を受けてシフォンを襲撃するか、 リースの依頼を断って、レインに想いを伝える…
[一言] リースにとって答えは聞く前から分かっているだろうから、 イリスは無事逃げられるかが焦点か。 リースにとって結果はどちばでもいいのかもしれないが特に手を抜くわけでもないし。 無限召喚しまくれば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ