327話 東方
「にゃん? 剣の修理?」
シフォンとの話を終えた後、俺は宿に戻った。
けっこうな時間が経っていたらしく、みんなすでに起きていた。
黙って一人で出かけたことを怒られて……
それから、みんなに事情を説明した。
「伝説の装備の修理なんて、レイン、できるの? レイン、鍛冶屋じゃなくて、ビーストテイマーだよね?」
「いや、カナデよ。レインならば、案外できるかもしれぬぞ」
「そうね。特殊な動物とかをテイムして、これくらい普通だぞ? とか言って、なんてことない顔で修理しちゃいそうよね」
「あのな……いくらなんでも、それが非常識であることくらい、俺も理解しているぞ。それに、そんなことはできない」
テイムすれば鍛冶仕事ができるようになるなんて、そんな動物はいない。
「よくわからない」
リファがこてんと顔を横に倒しながら、そう言った。
事件が解決した後なのに、リファが一緒にいるというのは、どこか不思議な気分だ。
改めて、リファがパーティーに加わったんだなあ、と思う。
そのうち、リファがいるのが当たり前になるかもしれない。
そんな日が早く来てほしいな、と思う。
「というか、新しい勇者が来てるなんてね……そいつ、大丈夫なの?」
タニアが訝しげな顔をしつつ、そう問いかけてきた。
アリオスの件があるから、軽く人間不信になっているみたいだ。
俺は笑いながら答える。
「大丈夫だと思う。アリオスの失敗を繰り返さないために、今回は、厳重な審査が行われたはずだ。それに……」
「それに?」
「軽く話しただけだけど、とても良い人に見えた。アリオスと比べたら、彼女は天使だろうな」
「なるほど。まあ、レインがそこまで言うなら安心してもいいわね」
「しかし……新しい勇者は女性なのですね」
「しかも、仲が良さそうではないか?」
ソラとルナが、なぜかジト目でこちらを見た。
なにも悪いことはしていないよな、俺?
「ああ、そうだよ。新しい勇者は女性だ。名前は、シフォン・ノクス。俺より少し上かな。仲間もいるらしいけど、そっちはまだ会ったことはないな。まあ、後日、一緒に打ち合わせをするから、詳しい紹介はその時で」
「レインは、その女勇者に心を奪われてしまった、ということはありませんか?」
「え? なんだ、それ?」
「我らというものがありながら、女勇者に手を出すようなことは、許さぬぞ?」
「なにを言いたいのか、よくわからないが……そんなことはないよ」
知り合って間もないのに、男女の仲になるなんて、そんなことはありえない。
まあ、世の中、一目惚れっていうことはあるが……
俺はそんなことになっていないし、シフォンもそんな様子はない。
「とりあえず、シフォンについての話はこれくらいにして……剣の修理についての話をしたい」
「伝説の……剣?」
「うち、知ってるでー。確か、彗星の剣、っていうんやろ?」
「博識だな」
「伊達に長く幽霊やっとらんでー」
「にゃあ……ティナに知識で負けた」
「なんか、ものすごいがっくり来るわね……」
「どういう意味や!? うち、おバカキャラじゃあらへんよ!?」
みんなで話をしていると、ついつい、こんな風に脱線してしまう。
でも、それはそれで楽しいと思う、今日この頃だ。
「話を戻すけど……シフォンは彗星の剣を見つけたらしいが、かなりひどい有様なんだ。実際に俺も見たが、とても伝説の装備とは思えない」
「どういう、状態……なのかな?」
「錆だらけで刃こぼれしてて、剣として使ったら、すぐに折れそうな感じかな」
「伝説の装備、台無し。なんでそんな風に?」
「どうなんだろうな? そこはわからない」
シフォンに話を聞いたけれど、彼女も心当たりがないらしい。
アリオスの前の勇者……つまり、前代の勇者と前魔王との戦いから、かなりの年月が経っている。
真実の盾は精霊族がきちんと保管していた。
天の指輪はイリスの封印のために使用されて、祠で保管されていた。
ただ、彗星の剣は野ざらしで、かなりずさんな状況で放置されていたらしい。
たぶん、長い年月によって朽ち果てる寸前だったのだろう。
「普通、剣も保管しない?」
「リファの言うことも、もっともなんだけどな。ただ、勇者が使う伝説の装備って、色々と厄介で、取り扱いが難しいんだ」
世界を救った勇者の装備となれば、希少価値は高い。
欲をかいて、己のものにしようとした人が、少なからずいたらしい。
もちろん、国は厳重な管理をしたのだけど……
欲をかいた者の中に、それなりの立場の者がいたという。
結果、その愚か者の手によって、彗星の剣は紛失された。
過去の記録を見ると、真実の盾も天の指輪も、何度か紛失しているらしい。
それらも人の手によって行われていた。
なかなかに面倒で、厄介で、救えない話だ。
「修理ということは、研ぐのですか? それとも、打ち直すのですか?」
「打ち直しだろうな。ちょっと研いだくらいじゃ、あれはどうにもならない」
「む? それなら、なぜ我らが関わってくるのだ? 鍛冶スキルなんて、誰も持っていないのだ」
「伝説の元鍛冶屋が、今は落ちぶれて飲んだくれていて、その息子と再会させることで立ち直らせるとか?」
「カナデ、あんたなに言ってるの?」
「アホを見る目を向けられた!?」
カナデの言う話は、物語によくある定番だ。
ただ、今回は違う。
「俺というよりは、みんなの力が必要になってくるんだ」
「にゃん? 私達の?」
「剣を打ち直すには、東大陸のさらに東……最東端の街、カグネに行かないといけないらしい」
「かぐ……ね?」
「独自の文化がある街なんだ。中央とかなり離れているから、そういう風に発展したらしい。俺も行ったことはないから、言葉で言いあらわすのは難しいんだけど……アクスが使っているカタナを生み出したところでもある」
他にも、キモノと呼ばれている変わった服があったり。
夏は、ハナビと呼ばれている火の花が咲いたり。
趣のある、変わった文化があるらしい。
今回の件がなくても、いつかは行ってみたいと思っていた場所だ。
「彗星の剣は、カグネで作られたと言われている。だから、修理をする時もカグネに行かないといけない」
「ふむふむ、にゃるほど」
「でも、あたしらの力が必要っていうのは?」
「伝説の剣だから、単純に打ち直せばいい、っていうわけじゃないんだ。剣に宿る力が抜けているみたいだから、新しい力を宿す儀式を行わないといけない」
「もしかして、その力っていうのは……」
「ああ、みんなの力を頼りにしているらしい」
前回、彗星の剣を作った時は、千人以上の人が魔力を注ぎ込んだらしい。
その結果、魔王を討ち滅ぼすことができる力を持つ、伝説の装備が誕生した。
今回も同じような方法で打ち直せばいいと思うかもしれない。
しかし、それはあまり現実的な方法じゃない。
それなりの魔力を持つ人を千人も集めるなんて、簡単にできるわけがない。
かなりの時間が必要になるだろう。
仮に集められたとしても、大規模な活動になる。
シフォンのこと、彗星の剣のこと。
それらを隠しておくことはできない。
魔族が活発に動いている中、それらの情報が渡れば?
まず間違いなく、妨害を受けるだろう。
「……などなど。そういう事情から、たくさんの人を集めて、っていう方法は現実的じゃないんだ」
「なるほどね。その点、あたしらなら数人で済むから、特に問題なく修理できる、っていうわけね」
「というか、ぶっちゃけ、我とソラがいれば問題ないぞ?」
「そうなのか?」
「うむ。以前、母上がちらっとこぼしていたが、伝説の剣に込められた魔力とやらは、母上一人分の魔力らしい」
「ソラ達は、母さんほどの魔力はありませんが……ルナとまとめてセットにしていいのなら、同じだけの出力は得られると思います」
ソラとルナがいつも以上に頼もしく見えた。
「ホライズンからさらに離れることになっていいわけ?」
「一応、連絡はしてあるから問題ないよ。勇者からの依頼ってことなら、断ることも難しいし。あと……個人的に、この依頼は請けておきたいんだよな」
「なん……で?」
「勇者がかわいい子やからか? レインの旦那も男やなー」
「ち、違うから」
みんなにジト目を向けられて、慌てて弁明する。
「さっき問題ないだろう、って言っておいてなんだけど……一応、シフォンがどんな人なのか確認しておきたいんだ」
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