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326話 立場が逆転しているような?

「……はい?」


 シフォンは何を言っているんだろう?

 理解することができなくて、思わず間の抜けた声をこぼしてしまう。


「あう……」


 そんなこちらの反応を見て、シフォンが恥ずかしそうに顔を赤くした。


 しかし、手に持った色紙とペンはこちらに差し出したままだ。

 そのままの状態で、期待半分不安半分という感じで、もう一度言う。


「あのぉ……サイン、くれませんか?」

「えっと……いや……え?」

「だから、サイン……ほしいな」

「サインって……あのサイン? 有名人なんかが名前を書くっていう、あのサイン?」

「うん、そうだよ」

「……なんで?」


 シフォンの行動がまったく理解できず、ぽかんとしてしまう。


 どうして俺のサインなんて欲しいのか?

 もしかして、連帯保証人になってほしいのか?

 あるいは、筆跡鑑定をするために、適当な理由をでっちあげているのか?


 そんなよくわからないことを考えてしまうが……

 シフォンはあくまでも真剣らしく、差し出した色紙とペンを引っ込めない。


「あのね、その……私、レイン君のファンなの!」

「え? ファン?」


 どういうことだ……?

 もっと意味がわからない。


「どういうことなんだ? ちょっと、言っていることの意味が……」

「だから、私、レイン君のファンなの! 勇者になる前から……冒険者の頃から、レイン君のファンなんだ」

「……なんで?」


 シフォンはAランクというだけではなくて、冒険者歴も俺よりも長い。

 一応、俺もAランクだけど、それは最近のことだ。

 あと、冒険者歴は一年にも満たない。


 俺に憧れる要素なんて、ないと思うんだけど……?

 そう伝えると、シフォンはとんでもないと言うように、さらに口調を強くする。


「レイン君はすごいと思うよ!」

「お、おう……?」

「まず最初に、レイン君は盗賊団漆黒の牙を壊滅させたよね? あれ、当時の私達も手こずるような相手だったのに……でも、レイン君は冒険者になってすぐに壊滅させた。それからホライズンの領主の悪行を暴いて、魔族も討伐した。それから、パゴスの悪魔を退治して……」


 なんで、シフォンはこんなに俺のことに詳しいのだろう?

 ストーカー? なんて失礼なことを考えてしまう。


「えっと……それらは事実と言えば事実なんだけど、俺一人でやったことじゃないから。仲間がいたからこそのもので、俺の力なんて大したことないよ」

「でも、レイン君がリーダーなんだよね? それで、パーティーの行動を決めたんだよね?」

「そうなるかな」

「なら、やっぱりレイン君はすごいと思うよ」


 シフォンはとても温かい表情をして、ゆっくりと語る。


「盗賊団を壊滅させたとか、魔族を倒したとか、もちろん、そういうところもすごいと思うよ。すごい力があると思う。でもね、そういうことは私にとって、些細なことなんだ」

「と、言うと?」

「どんなことを成し遂げたか、じゃなくて、何を思い行動したか、っていうところが一番のポイントかな」

「何を思い……」

「レイン君は、誰かのために行動したんだよね? 自分のためじゃなくて、誰かのために動くことができる……それは、なかなかできないことだと思うよ。私は近くで見ていたわけじゃないけど、でも、レイン君が誰かのために行動していることがわかる。すごく伝わってくる。だから、そんなレイン君に憧れているの」

「えっと……あ、ありがとう」


 とてもまっすぐな目をしてそんなことを言うものだから、かなり照れた。

 ただ、うれしくもあった。


 時にダメな行動をとってしまう俺だけど……

 それでも、あなたは間違っていないと、そう言われているみたいだった。


 誰かに自分のことを肯定してもらえるのは、とてもうれしいことだ。

 そうしてもらえるだけで、これからもがんばろう、という気持ちになれる。


「俺も……ありがとう。シフォンにそう言ってもらえて、うれしいよ」

「ううん、こちらこそ」

「いやいや、俺の方が……」

「私の方が……」

「あのー」


 よくわからない譲り合いに発展したところで、カイズさんがそっと口を開いた。


 しまった。

 カイズさんのことをすっかり忘れていた。


「シフォン様。レインさんに会えてうれしいということはわかりましたが、そのことは内密にしていただけると……勇者様が一般の冒険者を贔屓している、という風にとられかねないので」

「私は贔屓なんていうことはしません」

「それはわかっていますが、世の中、そう受け止めない人もいますから」

「はぁ……面倒だなあ」


 普段のシフォンを知らないから、なんとも言えないが……

 カイズさんと話している時のシフォンは、わりとリラックスしているようだった。


 心を許しているというか、信頼しているというか。

 シフォンにとってカイズさんは、良い理解者なのかもしれない。

 そんな関係性がちらりと見えた。


「それと、レインさんのサインは後にしてくれませんか? 今は他に、話さなければいけないことがあるでしょう?」

「うん、そうですね。ごめんなさい。本物のレイン君に生で会えたから、すごくうれしくて、つい」


 カイズさんの台詞から察するに、本題は別にあるみたいだ。


 まあ、それもそうか。

 勇者とあろう人が、ただ単にサインを求めにやってくるなんて、普通はありえない。


 シフォンは、仕切り直すように咳払いをして、改めて本題に入る。


「サインは後でちょうだいね」


 ……まだだった。


「シフォン様……」

「わ、わかっているから。今のは、その……ちょっとした冗談だから」


 本気のように聞こえたが、ツッコミは入れないでおいた。


「えっと……実は、レイン君に頼みたいことがあるの。依頼ね」

「俺に依頼?」


 妙な話だった。


 シフォンの実力はわからないが……

 元Aランク冒険者で、現勇者というのならば、相当なものだろう。


 それなのに、わざわざ他の冒険者に依頼をする。

 人手が必要なのか……

 あるいは、自力で解決できないほどの問題に直面しているのか。


 できるなら、前者であってほしいが……果たして?


「これからする話は内密でお願い。もちろん、依頼を請けるか請けないかは、話の後で判断してもらっていいんだけど、内容は誰にも漏らさないでほしいの」

「わかった。約束するよ」

「うん、ありがとう。それで依頼の方なんだけど……まず最初に、私の今の目的を話しておいた方がいいかな? 私は今、伝説の装備を集めることを第一の目的に動いているの」

「もしかして、クリオスに装備が?」

「ううん、ないと思うな」

「あれ? じゃあ、なんでここに?」

「さっき言ったでしょう? スタンピードが多発するなんて異常事態だから、放っておけなかったの。王には止められたんだけど、無視しちゃった。はぁ……後で怒られるかも」


 まだ知り合って間もないんだけど……

 シフォンはとても良い人に思えた。

 王に止められているというのに、クリオスに駆けつけるなんて、なかなかできることじゃない。


 あと、こうして話していると、どことなく落ち着く。

 彼女の持つ雰囲気がそうさせているのだろう。


 アリオスと比べるのもおかしな話ではあるが……

 シフォンなら、とても良い勇者になれるような気がした。


「あ、ごめんね。また話が逸れちゃった」

「いいよ。それで、依頼っていうのは、装備に関係しているのか?」

「うん、そうなんだよね。今、私が手にしているのは、前勇者から引き継いだ真実の盾と天の指輪。残りの装備はあと一つ……彗星の剣」

「彗星の剣……か」


 アリオスと一緒に旅をしていた頃、なにかの話で聞いたことがある。

 空を流れる星の欠片を素材にして、とある最強種が鍛えたと言われている剣だ。

 その刃は全てを断ち切り、また、千回使っても刃こぼれ一つしないと言う。


 前回の魔族との戦争から数十年。

 戦後の騒動の際、彗星の剣はどこかに紛失してしまったと聞いているが、シフォンはそれを見つけたのだろうか?


「それで、これが彗星の剣」

「ん?」


 シフォンがテーブルの上に、そっと剣を置いた。


「もう見つけているのか?」

「うん」


 あっさりと答えられた。

 てっきり、探すのを手伝ってほしいとか、あるいは、場所は見つけたけど厄介なところだから手伝ってほしいとか、そういう話なのかと思っていた。


「ただ、ちょっと問題があって……抜いてみてくれる?」

「俺、勇者じゃないんだけど、抜けるのか?」

「レイン君も同じ血が流れているでしょう? 抜くのは問題ないよ」

「あ、そうか」


 とんでもないボケをかましてしまい、恥ずかしくなる。

 そんな俺を見て、シフォンは楽しそうにくすくすと笑う。


「それじゃあ……」


 言われるまま剣を抜いて……抜けない?

 いや、抜けないわけじゃない。かすかに動いている。

 ただ、これは……


「……ひどいな、これは」


 なんとか剣を抜くと、刀身は全体が錆びついていて、刃こぼれもしていてボロボロだった。

 とても伝説の装備とは思えない有様だ。


「なにがあったのかわからないけど、見つけた時はそんな風になっていたの」

「これ、どうするんだ?」

「もちろん修理するよ。ただ、そのためには、私達じゃ力が足りなくて……お願い。レイン君達の力を貸してくれないかな?」


 新しい勇者から舞い込んできた依頼。

 それは、伝説の剣の修理だった。


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◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
[一言] 前に伏線があったかな。 いろいろ読んでいるのでこれだったか忘れた。 特殊な石持ったおっさんがいたような
[一言] シフォンはモニカかアリオスが化けてたりするのかなと思いました。
[一言] 一先ずホライズンに戻ってガンツさんを頼る流れかな?
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