318話 VSヴァイス・その2
「おおおおおぉっ!!!」
「ふん……バカの一つ覚えのように突撃あるのみ、か」
こちらの行動を見て、ヴァイスが失望したような声をこぼす。
哀れむような視線をこちらに向けて、右手を上げる。
「少しはやるとモニカから聞いていたが……所詮、人間か。戦いの最中に怒りに囚われるなど、愚かとしか言いようがないな。もう飽きた。死ぬがいい」
ヴァイスが右手を振り下ろした。
複数の魔力の糸がギロチンのごとく迫る。
今の俺の心は怒りで満ちていた。
ヴァイスに対する怒りで全てが支配されていた。
そんな状況だ。
普通に考えて、冷静な判断、対処なんてできるわけがない。
できるわけがないのだが……
「なっ!?」
ここにきて初めて、ヴァイスが驚きの声をあげた。
俺は複数の魔力の糸をカムイで絡め取るようにして、全て防いでいた。
力だけではなくて、精密な作業が要求される。
「バカなっ!? そのような真似が……怒りに支配された貴様にできるわけがない!!!」
「侮るなよ」
確かに、怒りに心を支配されてしまうのは厄介なことだ。
以前、アリオスと戦った時のように……
視野が狭くなり、集中力も落ちてしまう。
戦う時において、怒りは邪魔にしかならない。
しかし、今の俺はまったくの別の状況にいた。
怒りが……あまりにも激しい怒りが、逆に心を鋭く研ぎ澄ませていた。
激しい怒りが、これ以上ないほどに、俺に力を与えていた。
リファの心を傷つけて、お兄さんの魂を嬲り……
そんなヴァイスを許せるわけがない。
燃え上がる心が、今までにないほどの力を俺に与えていた。
一定のラインを超えた怒りは、弱点ではなくて、力を与えてくれる。
そのことがよく理解できた。
「うぉおおおおおっ!!!」
痛みを無視して、ヴァイスの懐に飛び込んだ。
ヴァイスは慌てて魔力の糸で盾を形成するが、構わずに拳を打ち込んだ。
鉄を殴ったような衝撃。
こちらの拳が砕けて、血があふれるが……
それでも止まらない。
魔力の糸の盾を打ち破り、ヴァイスの腹部に拳が深くめり込んだ。
「がはっ!? ば、ばかな……!?」
「いい加減にしろよ……リファの心を傷つけて、好き勝手して……お前は絶対に許さないっ!!! これ以上、好き勝手できると思うな!!! いつまでも笑っていられると思うな!!! そのニヤケ顔、消し飛ばすっ!!!」
「くっ……人間ごときが! まぐれで調子に乗るなっ」
己が傷つけられたことで、ヴァイスは憤怒の表情で両手を振るった。
その動きをなぞるようにして、魔力の糸が収束……左右から竜巻のごとく、俺に襲いかかる。
魔力の糸の集合体は高速で回転して、触れるもの全てを切り刻み、塵に帰す。
普通に考えて、俺は避ける術を持たないし、防ぐこともできないだろう。
最強種と契約しているとはいえ、基本的に、俺は人間だ。
秀でた能力があるわけではないし、特殊な力もない。
これほど威力のある攻撃を受け止めることはできない。
できないはずなのだけど……
「なっ!?」
ヴァイスが驚愕の声をあげた。
その答えは至極単純。
魔力の糸の集合体に触れた俺の姿が、蜃気楼のように消えたからだ。
「跡形もなく粉々に消し飛んだ? いや、まさか……いったいどこに!?」
「ここだよ」
「っ!?」
ヴァイスの後ろに回り込んだ俺は、その背中をカムイで斬りつけた。
動揺しているせいか、ヴァイスの動きは鈍い。
もたもたとしていて……
その間に、さらにカムイを振り抜いた。
さらにナルカミを密着させるようにして、ゼロ距離で針を射出してやる。
「ぐうううっ!?」
ヴァイスは魔族で、攻防共に優れた能力を持っている。
しかし、これだけの攻撃を立て続けに受けると、さすがに無傷とはいかないらしく、苦しそうな顔をしていた。
「貴様……さっきのはいったい……なにをした!?」
大した手品じゃない。
自身の幻影を生み出し、天敵から逃げるという虫の性質を利用して、俺の幻影を作り出しただけだ。
最初は俺も、こんな回避の方法があるなんて知らなかったが……
リファが無数のコウモリに変身して攻撃を避けるところを見て、もしからしたら俺も……と思い、閃いたものだ。
もっとも、そんなことをヴァイスに説明してやる義理も義務もない。
ヴァイスの問いかけを無視して、俺はさらに攻撃を叩き込んだ。
近距離ではカムイの斬撃をメインに、合間に蹴りを混ぜ込み、連続攻撃を叩き込む。
距離が開いた場合は、ナルカミの針やワイヤーで牽制しつつ、魔法を打ち込む。
戦闘は俺がペースを掴んでいた。
ヴァイスは押される一方だ。
しかし、さすが魔族というべきか。
その耐久力は抜群で、百に届く攻撃を与えたというのに、未だに健在だ。
「これは……分が悪いな」
「ずいぶんと冷静に状況を分析できるんだな」
「儂は魔物のような下等生物ではなくて、きちんとした知性があるのだよ」
そういえば、以前に戦った魔族も、状況が悪化すると素直に退こうとしていた。
なるほど、確かに魔物と違うようだ。
きちんと自分が置かれた状況を分析できる能力がある。
でもな?
俺から言わせたら、お前は魔物となにも変わらない。
己の欲望のためだけに他者を傷つける。
魔物と同じレベルの存在だ。
だから……逃げるなんてこと、絶対に許さない。
ヴァイス……お前は、ここで倒す!
「人間にしてはやる。貴様は儂の想像の上をいく存在であったこと、素直に認めよう。次はこうはいかないぞ」
「次があると思うなよ!」
「ふん。ここで増長するか。儂を倒せるなどと、そのようなことを本気で……なっ……あっ、ぐぅ……!?」
突如、ヴァイスが悶え、苦しみ始めた。
体をくの字に折り曲げて、腹部の辺りに指を突き立てる。
えずくような動作を繰り返して、大量の脂汗を流し始めた。
「な、なんだ、これは……!? 儂の体が……体が、燃えるように熱い……!?」
「ようやく効いてきたか」
「効いてきた、だと……!? 貴様、なにかしたのか……!?」
こいつはもう終わりだ。
だから、素直に教えてやることにした。
ナルカミから針を取り出して、ヴァイスに見せてやる。
「その針は……先端が濡れている? まさか……!?」
「毒と同じようなものかな。この針には、リアクターアントの体液が塗られている。リアクターアントっていうのは、魔力を妨害する効果を持つアリのことだ。まあ、妨害するといってもたかがしれているから、普通は害はない」
「貴様……!」
「しかし……だ。体内に取り込めば別だ。人でもかなり苦しい思いをするし……より高い魔力を持つ魔族なら、その効果は倍増だ。どうだ、効くだろう?」
「貴様ぁっ!!!」
いいようにしてやられて、激高したヴァイスが飛びかかってきた。
ヤツは、ただ単純に、自身を傷つけられたことで怒っているだけだ。
底の浅い怒りに過ぎない。
そんなものでは、自らの首を絞めることにしかならない。
「来い」
俺は真正面からヴァイスを迎え撃つ。
獣のような鋭い動きを見せるヴァイスは、まずは右腕を一閃させた。
その動きに従い、魔力の糸が斜め上から襲い来る。
毒に侵されているような状態なので、ヴァイスの動きが鈍い。
そのおかげで、俺はそれを余裕を持って回避した。
ただ、それはヴァイスも予測済みらしい。
続けて左腕を振り、避けた直後を狙ってくる。
こちらが避けられないタイミングを狙ったのだろう。
しかし、そんな行動に出ることは、こちらも予測している。
あれこれと数十パターンくらい、ヴァイスの攻撃を予測したが……
その中でももっとも単純な攻撃だ。
怒りに駆られて、毒に侵されて、かなり思考能力が低下しているのだろう。
そろそろ引導を渡してやる。
「重力反転!」
俺は自分にかかる重力を反転させて、空に浮き上がり、ヴァイスの攻撃を避けた。
ちょうど、俺は宙で逆さまになり……
その状態でヴァイスと目が合う。
その瞳に向けて、ナルカミから針を射出して、視界を潰す。
ヴァイスが悶えて……
その間に、重力を正常な方向へ。
地面に着地すると同時に駆けて、距離をゼロにした。
「これで……」
「き、貴様ぁっ……!?」
「終わりだぁあああああっ!!!」
カムイの刃をヴァイスの腹部に深く突き刺して……
さらに、その状態で刃を反転させて、直上に切り裂いた。
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