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314話 VSモニカ

「リファ、やれるか?」

「うん。大丈夫」


 お兄さんがあんなことになっていてショックだろうが、しかし、リファは強い子だった。

 悲しみに涙を浮かべながらも、まっすぐ前を向いて、戦う意思を見せている。


「じゃあ、リファはタニアと組んで雑魚の相手を頼む。それから……」

「待って。ボクは……お兄ちゃんと戦う」

「リファ? いや、しかしそれは……」

「ボクがお兄ちゃんを解放してあげないと……ボクじゃないと、ダメ」

「……わかった」


 誰よりも辛いはずなのに。

 泣きたいはずなのに。

 それでもなお、前に進もうとしている。


 そんなリファを止めることはできない。

 できることといえば、サポートをするだけだ。


「タニア。ソラ」

「ええ、あたしらに任せておいて」

「きっちりとリファのサポートをしてみます」


 二人共、すぐに察してくれたみたいだ。

 力強く、頼もしくうなずいてくれる。

 その顔は怒りの感情で満ちている。

 二人もヴァイスの人を人と思わぬ外法に憤っているのだろう。


「じゃあ、リファとタニアとソラは、ヴァイスに操られている鬼族の人達の相手を頼む」

「うん。任せて」

「カナデとルナは、モニカを。あいつはどこか不気味だ。くれぐれも注意してくれ」

「らにゃー!」

「ふふんっ、愚かな行いを後悔させてやるのだ!」

「ニーナとティナは、周りの雑魚を頼む」

「まか……せて」

「やったるでー!」


 ご丁寧にも、こちらが指示を出すまでヴァイスは待ってくれていた。

 わざわざ能力を解説するなど、こちらを侮っている節がある。


 侮るなら侮るで構わない。

 ふざけた行いごと、まるめて後悔させてやる。


「みんな……いくぞ!」

「「「おうっ!!!」」」




――――――――――




「うにゃんっ!」


 カナデは、モニカが不気味な相手というレインの言葉をよく理解していた。

 ただの人間であることに間違いはない。

 しかし、底が見えない。


 どれだけの力を持っているのか?

 どんな能力を持っているのか?

 穏やかな笑みに隠されているかのように、まるで見当がつかない。


 なので、カナデは遠慮なしに行くことにした。

 最初から全力全開、フルパワーだ。


 残像が残るではないかと思うほどの超高速で突撃する。

 石でできている床にヒビが入るほどの衝撃が広がる。

 そのままの勢いで、さらに拳を振りかぶる。


「これでも……くらえええええっ!!!」


 インパクト。

 カナデの拳がモニカの胸元を捉えた。


 モニカは笑みを浮かべたままで……

 そして、次の瞬間、その体がバラバラに砕け散る。


「にゃっ!?」


 勢いあまりすぎてやってしまった……?

 思わずカナデは硬直してしまう。

 たらりと嫌な汗を流して、ついつい混乱するカナデ。


 ただ、ルナの方は冷静だった。


「カナデっ、そいつは幻覚なのだ!」

「えっ」

「ふふ、正解です」


 声はカナデの右側からした。

 反射的に拳を振るうが、虚しく宙を薙ぐだけだ。


「え? なんで……あうっ!?」

「今度は外れですね」


 モニカはカナデの左側から現れた。

 なにもないところからにじみ出すように、モニカの姿が現れて、カナデの肩を剣で切り裂いた。


 カナデは瞬間的に体を退いたことで、大きな怪我を避けることはできた。

 しかし、文字通り神出鬼没なモニカの動きに、カナデは大きく混乱していた。


「声は右からしたのに……!」

「カナデ、落ち着くのだ! そいつ、おそらく幻覚系の魔法を使っていると思うぞ」

「阻害できないの?」

「できん!」

「胸を張って堂々と言われた!?」


 無駄口を叩いているように見えるルナではあるが、そんなことをしつつも、状況を冷静に観察して、必死に頭を回転させて分析していた。


「どういうことなのだ……? 最初の体は魔法で作った幻覚……しかし、その後の声は? 幻聴を作り出した上で、己の姿を消して、さらに……むむむ? 人間にそれほどの幻覚を作り出す魔力なんて……魔力だけではなくて、技術も……」

「にゃー、今度は四方八方からきた!?」


 モニカが八人に分かれて、一斉にカナデに斬りかかっていた。

 驚異的な身体能力を持つ猫霊族とはいえ、さすがにこれは避けられない。

 カナデの体のあちこちに傷ができていく。


「その程度なのですか? 最強種というのも、あまり大したことありませんね」

「むかっ! 頭にきたよ! 最強種の力、見せてやるんだから」


 カナデは跳躍して、真上に大きく上昇した。

 宙でくるっと回転して、頭から落ちる。

 その直前、拳を突き出して床を勢いよく殴りつけた。

 ゴォッ! と轟音が響いて、衝撃波が周囲に飛び散る。


「むっ!?」


 なにかに気がついた様子で、ルナは声を鋭くした。


「カナデ、今のもう一発なのだ!」

「え? あっ、うん!」


 言われるまま、カナデは宙に飛び上がり、再び地面を叩きつけた。

 衝撃波が広がり、モニカの幻影達が揺らぐ。


 それを見たルナは、自分の考えが間違っていないことを悟る。


「カナデっ、そいつらは全部幻影なのだ!」

「えっ、どういうこと?」

「そのモニカとかいうヤツ、この場にはいないのだ! 遠隔で幻影魔法を起動しているのだ! だから、本体を叩けばいい、とか考えても意味ないのだ!」

「そ、そんなことあるの!?」

「我も驚いているが……他に、今の現象を説明できる理由がないのだ。モニカとかいうヤツはこの場におらず、遠隔で幻影魔法を起動して、我らの相手をしているのだ。しかもその幻影、全てが実体を持つという厄介な性質。侮れないのだ!」

「むちゃくちゃすぎない!?」


 悲鳴じみた声をあげながら、カナデは迫りくるモニカを殴り倒した。

 しかし、手応えは感じられず、霧が朝日に溶けるように霧散してしまう。


 そのまま消えてしまえば楽なのだけど……

 柱の影から新しいモニカが現れる。

 その数は時間が経つごとにどんどん増えていき……

 カナデとルナは、今や十人以上のモニカに囲まれていた。


「あら、私の能力を見破りましたか。さすがですね。精霊族を相手にしては、どのような魔法を使っているか、簡単に丸裸にされてしまいますね」

「そう言う割には余裕たっぷりではないか」

「私に余裕がある理由、あなたならわかるのでは?」

「くっ」


 ルナが悔しそうな感じで奥歯を噛んだ。

 そんな仲間の様子に、カナデは嫌な予感を覚える。


「ね、ねえルナ。原理がわかったなら、打ち破れるんだよね? なんとかなるんだよね?」

「……ならないのだ」

「えぇ!?」

「幻影魔法を遠隔で使用している、ということがわかっただけで、どうしてそんなことを可能としているのか? という部分は謎のままなのだ。時間をかければ、どのようなカラクリなのかわかるかもしれぬが……」

「ふふ、そのような時間は与えませんよ」

「おわっ!?」


 ルナも攻撃の対象となり、慌ててカナデのところへ逃げた。

 魔法は得意だが、接近戦は苦手なのだ。


「うにゃん!」

「イグニートジャベリン!」


 カナデの拳とルナの魔法が三人のモニカの幻影を打ち砕いた。

 しかし、そんな抵抗を笑うように、新たに四人のモニカの幻影が現れる。


「き、きりがないよ、これ」

「とはいえ、やるしかないのだ。こんな厄介な相手、レインに任せるわけにはいかないのだ」

「そ、そうだね! うん……がんばらないとっ」

「やる気になっていただけたみたいで、なによりです」

「ずいぶん余裕だね!」

「我らを簡単に倒せるとでも!?」

「さすがに、そんなことを考えるほどうぬぼれてはいませんよ。私の役目は、あなた達の相手をすること。猫霊族に精霊族……どちらも厄介な相手ですからね。ヴァイス様の脅威にならないように、ここで足止めをさせていただきます」


 そう言いつつ、モニカの幻影が一斉に斬りかかってきた。

 カナデとルナはそれらをさばきつつ、なんとか隙を見つけようとする。

 しかし、モニカは狡猾な相手だった。

 弱点を晒すようなことはしないで、堅実な方法でカナデとルナと戦う。

 今言葉にしたように、倒すことが目的ではなくて、足止めをしておくことが一番の目的なのだろう。


 それがわかっているからこそ、わかるからこそ、カナデとルナは歯がゆい思いをした。

 今すぐにモニカを倒して、レインの加勢をしたいというのに。


「あーもうっ、こいつうっとうしいにゃ!」

「同感なのだ!」

「ふふ、私に付き合ってもらいますよ?」


 複数の幻影のモニカは妖しく笑い、それぞれに剣を振るうのだった。

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既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
[良い点] ラニャーが良いですね、 [一言] 一番好きなはタニアのこの〇〇猫がなので、そのフレーズ楽しみにしています。
[一言] モニカさん人間の限界を突破するような能力を持っていますね。 モニカはリースの眷族的な人間になったのか力を借りるか譲渡してもらったりしたのかどうなんでしょうね。
[気になる点] 規格外な魔力と技術の人間、もしかしてモニカもアリオスやレインと同じ勇者の血族!? 魔族側に付いているのもリースにそそのかされているとか?
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