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313話 マリオネットマスター

 最深部は玉座の間になっていた。

 朽ち果てているものの、ところどころに豪華な装飾が施されていた跡が見える。


 玉座の間は広く、ちょっとした運動ができるほどだ。

 その奥にボロボロに果てた玉座。

 そこに一人の男が座っていた。


 歳は俺達よりも遥かに上……初老といっていいくらいだ。

 白髪混じりの髪は後ろに流している。

 その身にまとうのは黒のコートだ。


「レイン、気をつけて」

「わかっているよ」


 リファの忠告を聞くまでもなく、あれは侮ってはいけない相手だと本能が告げてきた。

 見た目は老人だけど、中身はまったくの別物だ。

 こうして対峙しているだけで背中に汗が流れてしまいそうだ。


「お前達が侵入者か」


 老人が口を開いた。

 その声はしわがれているものの、魂を震わせるような威圧感に満ちていた。


「最低限の自己紹介くらいはしておくか。儂の名前はヴァイス」

「レイン・シュラウドだ」

「ふむ? リースが言っていたヤツか」

「リース?」

「……失言だな。まあいい。どうせ、ここでお前達は消えることになる」


 ヴァイスが立ち上がる。

 みんながそれぞれ構えた。


「鬼族の娘がいるところを見ると、儂の邪魔をしに来たのだろう?」

「ということは、お前がスタンピードを発生させているという認識で間違いないか?」

「ああ、そうだ」

「やけにあっさりと認めるんだな?」

「無駄なやりとりは好かん。それに、隠しておくようなことでもないからな」

「お前はいったい何者だ? なぜ、こんなことをしている?」

「察しているかもしれんが、儂は魔族だ」

「お前が……?」


 普通の人間じゃないとは思っていた。

 リファから話を聞いていたが……それでも、この老人が魔族だなんて。

 以前、ホライズンに出現したヤツと比べると、色々なところが違う。


「ふむ。その顔は、以前に魔族を見たことがあるという感じだな? 大方、そいつと儂が違うことに戸惑いを覚えている、というところか」


 俺、そこまでわかりやすい顔をしているのか……?

 こんな時になんだけど、ついつい考え込んでしまう。


「色々な最強種がいるように、魔族にも色々といるのだよ。まあ、この姿は魔法で作り出した仮初のものだがな」

「なるほど……」

「さて……講義はこの辺にしておくか。そろそろ始めようじゃないか」


 ヴァイスの体から魔力と闘気が放たれる。


「まずは戦力差を互角にさせてもらおうか」


 ヴァイスが指を鳴らした。

 その音に反応するかのように、ヴァイスの影が円形に広がる。

 影の中から次々と魔物があふれ出していく。

 BランクとAランクの魔物が半々ずつ、という感じか。


 それと……


「おひさしぶりです、レインさん。私のこと、覚えてくれていますか?」

「確か、モニカだよな?」


 奥から一人、騎士の鎧を身にまとった女性が現れた。

 抜き身の剣を手にしていて、妖しい笑みを浮かべている。


「覚えていてくれたみたいですね。よかったです。忘れられていたら、少々間抜けなので」

「なんでお前がこんなところに?」

「簡単な答えですよ。というか、他に答えはないですね。私が魔族の味方だから……です」

「お前も魔族なのか?」

「いいえ。私は人間ですよ」

「人間が魔族の味方を……? モニカ、あんたはいったい……」

「ふふっ。レインさんとおしゃべりをするのも楽しそうですが……それはまた今度に。今の私は、ヴァイス様の駒の一つなので」


 モニカはそう言うと、ヴァイスの一歩後ろに並び、剣を構えた。

 隙のない構えだ。

 剣も普通のものではなくて、刀身に文字が刻まれているところを見ると、なにかしらの魔法剣のようだ。


「さて……これで戦力差は互角かな?」

「にゃー……私達を見くびらないでよね。それくらい、なんてことないし。」

「あたしらに勝てるつもりなのかしら?」

「立ち向かうのならば、容赦はしないのだ!」

「その言葉、そのまま返そう」


 ヴァイスは自信たっぷりに言う。

 これだけの最強種を相手にしないといけないというのに、動揺したり、臆している様子が欠片もない。

 絶対的な自信を持ち、己の勝利をまるで疑っていない。

 なにか隠し玉があると考えた方がいいだろう。


「みんな、油断はしないように。あいつが持っている自信はただの蛮勇から来るものじゃなくて、それなりの計算に基づいているような気がする」

「それって、あたしら全員を相手にしても勝てる、っていう策があるってこと?」

「罠かもしれませんね」

「わからないが、最大限の警戒を。罠があったとしても、すぐに対処できるように気をつけていこう」

「ふむ。人間にしては、なかなかに冷静で知的だな。少し感心した。以前、無策にイノシシのごとく突っ込んできた鬼族とは違うみたいだな」

「っ!!!」


 リファが鋭く伸びた犬歯を剥き出しにして、ヴァイスに噛み付くような勢いで睨みつけた。

 俺達と一緒でなければ、そのまま飛びかかっていたかもしれない。


 そんなリファの反応を見て、ヴァイスが思い出したように言う。


「ふむ。そういえば、その小娘の顔は見たことがあるな。先の鬼族に似ている」

「……ボクはお兄ちゃんの妹。お兄ちゃんの仇を討つ!」

「そうか、なるほど。あの鬼族の妹か……くくく」


 ヴァイスは楽しそうに笑う。

 まるで、おもしろいおもちゃを見つけた子供のような反応だ。


「喜べ、鬼族の娘よ。兄と合わせてやろう」

「なにを……?」


 ヴァイスが右手を振るう。

 みんなは咄嗟に身構えるが……なにも起きない。


 訝しげにヴァイスに視線をやると、ヤツはニヤリと悪意たっぷりの笑みを見せてきた。

 そして……その悪意が顕現される。


 玉座の左右から道が伸びていた。

 おそらく、王の個室などに続く通路なのだろう。

 そこから複数の人影が現れた。


「なっ……!?」


 現れたのは四人の男女だ。

 生気というものを感じられず、面をつけたような無機質な顔をしている。

 動きがぎこちなく、まるで手足の骨が折れているみたいだ。


 そして……全員、額の角が生えていた。


「まさか人質か!?」

「それはそれで有用な手ではあるのだがね。残念ながら、それはない。そいつらを殺した時点では、貴様達の襲撃は予測していなかったからな」

「なら、いったい……」

「あっ……あああぁ……」

「リファ?」


 リファの様子がおかしいことに気がついた。

 一人の鬼族の男を見て、愕然とした顔をして体を震わせている。


 その顔に浮かんでいる感情は、とても一言では言い表せない。

 ただ、あえて一つ、言葉にするのならば……

 喜び。


「……お兄ちゃん……」

「えっ!?」


 それじゃあ……まさか、あの鬼族の男がリファのお兄さん?


 しかし、男はこちらに……リファに気がついた様子はなくて、なんの反応も示さない。

 ただただ人形のようにぎこちなく動いて、そして、ヴァイスの後ろに付き従う。


「これは……」

「儂の能力を教えてやろう」


 ヴァイスは楽しそうな顔をして言う。

 本当に楽しそうで……

 そして、醜悪だった。


「魔族は鬼族と似ているところがあってな。個々がオリジナルの能力を持つのだよ。かつてお前達が倒した魔族は、己の身を獣として、無限に分裂を繰り返す能力……自己増殖を持っていた」

「お前、そのことをどこで……!?」

「さてな。そこまではサービスしないよ。だが、儂の能力についてはサービスしよう。儂の能力は……操作だ」

「操作……?」

「このようにして魔力の糸を繋ぎ、対象を自由自在に操ることができるのだよ」


 よく見てみると、ヴァイスの指先から五本……両手で計十本の光の糸が伸びていた。

 それらの糸は鬼族の人達に繋がっている。


「まさか……」

「察したみたいだな。そう……こやつらはすでに死んでいる」

「っ」

「そして今や、儂の操り人形だ。忠実な手駒として、なんでも言うことを聞くぞ。例えば、こんな風にな」


 ヴァイスが指を軽く曲げると、リファのお兄さんが動いた。

 ヴァイスとの戦いの痕なのか、その体のあちこちが傷ついていた。

 それでも構うことなく、リファのお兄さんは腕を振る。


 腕の傷口から血が飛び出して、それが小さな槍に生成される。

 それはまっすぐに飛び……


「っ!?」


 リファの頬をかすめた。

 頬が切れて、血がわずかに流れる。


「このように……実の妹を攻撃させることも可能だ。人形を操るように、どんなことも強制できる。故に、儂はこう呼ばれている。マリオネットマスター、とな」

「お前っ!!!」


 こいつは……絶対に許せない!!!


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[気になる点] うわぁ、悪い奴が出てきたなぁ…死者への冒涜を全く気にしていないとは。 [一言] …とは言え、これが奥の手だとしたら流石にショボ過ぎるので…レインがいつ、策を見破るかがカギか…問題は、妹…
[一言] マリオネットマスター、そしてモニカ… まさか「あの男」も!?
[気になる点] 個人的な予想が当たっていない事を祈りたいです。 [一言] この作品には初コメントです。
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