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312話 兄

「うにゃー……にゃんっ!」

「これでも食らいなさい!」

「「ドラグーンハウリング!!」」


 カナデの拳が、タニアの尻尾が、ソラとルナの魔法が魔物達を迎撃した。


 古城に突入して、中を探索すること三十分ほど。

 未だ黒幕と思われる魔族は見つからない。

 その代わりに、散発的に魔物が現れて襲ってくるが、その全てをみんなが撃退していた。


 その活躍っぷりを見て、リファが感心したような顔になる。


「すごいね」

「みんな、頼りになるからな」

「同じ最強種なのに、ボクよりも強い気がする。経験の差? でも、それだけじゃないような……」


 そう言うリファは、どこかうらやましそうな目でみんなを見ていた。


「リファは強くなりたいのか?」

「うん」

「即答か。何か理由が?」

「お兄ちゃんみたいになりたい」

「リファは兄弟がいるのか?」

「うん。上に一人。自慢のお兄ちゃん」


 いつも無表情なリファだけど、今はどことなく誇らしげな顔をしていた。

 それだけ兄のことを大事に思っているのだろう。


 しかし、すぐに暗い顔になってしまう。

 ともすれば泣き出しそうな顔だった。


「どうしたんだ……?」

「ごめん。ちょっとだけ、お兄ちゃんのことを思い出して、感傷的になった」

「もしかして……」

「ん。お兄ちゃんは……もういない。ここで死んだ」


 俺達に声がかかるよりも前に、鬼族が攻撃をしかけて、返り討ちに遭ったという話を思い出した。

 その時の参加者というのが……リファの兄なのだろう。


「そうだったのか……そんなことが」

「お兄ちゃんはボクの誇り。だから、ボクが仇を討つ」


 リファはそう言いながら、血で生成された鎌の柄を強く握りしめた。


 リファの気持ちはわからないでもないが、それでも少し気負いすぎているような気がした。

 少し肩の力を抜いた方がいい。

 とはいえ、この状況でそれはなかなかに難しいことだと思う。

 なにかうまい方法は……


「……よかったら、リファのお兄さんのことを聞かせてくれないか?」


 ふと思いついて、そんなことを尋ねてみた。

 お兄さんのことを口にする時のリファは、とても優しい顔をしていた。


「どうして?」

「なんとなく。思い返すのが辛いなら無理にとは言わないけど……」

「ううん、大丈夫。お兄ちゃんが死んだことは辛い。でも、思い出はうれしいもの。問題ない」

「なら、いいかな?」

「ん。構わない」


 軽く前を見ると、こっちは任せて、というような感じでカナデがウインクをした。

 なにか言うよりも先にこちらの事情を察してくれていたらしい。

 ホント、頼りになる仲間だ。


 ここはみんなの好意に甘えることにして、俺はリファとの話に集中しよう。

 そうすることで、彼女の心を解きほぐしていきたい。


「お兄ちゃんはすごく賢い。それだけじゃなくて強い。ボク達の中でもトップクラス」

「鬼族の中でもトップクラスか……うーん、いまいち想像できないな」

「なんで?」

「最強種の強さって桁外れだから、身近に想像することができないんだよ。そうだ。リファと比べると、お兄さんはどれくらい強いんだ?」

「1000倍」

「え?」

「お兄ちゃんはボクの1000倍は強い」


 どことなく誇らしげな顔をしつつ、リファはきっぱりと言い切った。


 たぶん、スズさんとかアルさんとか、そういうクラスなのだろう。

 それくらい強いんだろうな、っていうことはなんとなく理解した。


 まあ、さすがに1000倍は言い過ぎだろうが……

 逆に言うと、リファがそれだけお兄さんのことを慕い、いかに誇りに思っているという証になる。


「お兄ちゃんに憧れて、ボクも強くなろうとした。特訓した」

「だから、リファは強いのか」

「でも、まだまだ。お兄ちゃんには全然届かない。お兄ちゃんは、ボクの10000倍は強いから」


 桁が増えたぞ。


「なら強くなれるようにがんばらないといけないな」

「うん」

「俺達にできることがあるなら手伝うよ」

「本当に?」

「もちろん」

「なら……ううん。やっぱりいいや」


 なにかを言いかけて、リファは言葉を飲み込んでしまう。


 なにを言いかけたのだろうか?

 気になるけれど、問いかけるよりも先に話は次に移ってしまう。


「ボクはお兄ちゃんみたいに強くなりたいけど、お兄ちゃんはボクが強くなることは良く思っていなかったみたい」

「そうなのか?」

「うん。ボクは女の子だから、戦うとかそういうことではなくて女の子らしいことをするべきだ、って言ってた」

「なるほど。まあ、理解できる話だよな」

「レインもボクは女の子らしくするべきだ、って思うの?」

「うーん……思うかなあ」


 時代錯誤な考えかもしれないが、女の子は女の子らしくあるべきだと思う。

 まあ……みんなを見ていると、そんな考えも吹き飛んでしまいそうになるんだけど。


「むう。レインもお兄ちゃんと一緒」


 ふてくされたような感じで、リファが頬を膨らませた。


「ボク、お兄ちゃんみたいになりたいのに。それなのに、お兄ちゃんはそうなるな、って言う。意地悪」

「意地悪じゃないと思うぞ」

「なんで?」

「俺も男だからわかるんだけど……男ってちょっとわがままというか、女の子にこうあってほしいって思うところがあるんだよ。自分の大切な人ならなおさらなんだ」

「そう……男心は複雑」


 あまり納得していないみたいだ。

 それも仕方ないか。

 こうあってほしい、というある種、押しつけているところがあるからな。


「レインはお兄ちゃんと似ているかもしれない」

「そうなのか?」

「ん」


 リファがじっと俺を見つめてきた。


「……頭撫でて」

「え? なんで?」

「お兄ちゃんはボクの頭をよく撫でてくれた。だから、レインも撫でて」


 どういう理由なのか理解できないが……

 リファが望んでいるのならばと、そっと頭を撫でた。


「あふぅ」


 リファが恍惚とした顔になる。

 とても気持ちよさそうな顔をしているものだから、こちらもついつい撫でる手に力が入る。


 リファは瞳をとろんとさせて、ちょっとよだれを垂らしそうになっていて……

 ほどなくして、ハッと我に返った様子で視線の焦点が合う。


「危ない。虜にされるところだった」

「えっと……気に入ってくれたのか?」

「うん。レインのなでなでは気持ちいい。お兄ちゃんに勝るとも劣らない」

「ありがとう?」


 一応、褒められているんだよな、これ。


「もうちょっと撫でて」

「いいぞ」


 望むのならばいくらでも。

 これくらい大したことないので、続けてリファの頭を撫でてやる。

 ゆっくりと優しく。

 ぽんぽんと軽く。


 そうして、どれくらいの時間が経っただろうか?


「……お兄ちゃん……」


 リファは一筋の涙をこぼした。

 お兄さんのことを思い出しているのだろう。


 俺はいたたまれない気持ちになり、リファの涙をそっと指先で拭う。

 その感触を受けて、リファが驚いたようにこちらを見た。


「あ……レイン」

「ごめん。辛いことを思い出させちゃったか?」

「ううん……辛いことだなんてこと、ない。お兄ちゃんのことだから。でも……ボク、泣いていたんだ。そっか……泣いていたんだ」


 今、自分が泣いていることに気がついた様子だ。

 リファは俺の指先の涙を見て……次いで、自分の頬に手をやる。

 涙がリファの手に触れた。


「……っ……」


 リファは濡れた手を見つめるように、再びうつむいた。

 そのままの体勢で固まり……

 やがて、ぎゅっと手を閉じる。


 それは決意を固めているような、そんな光景だった。

 きっと、心の中ではお兄さんや仲間のことを想っているのだろう。

 彼らに対してどう向き合うべきか、どんな言葉を捧げるべきか、どう接するべきか。

 そんなことを考えて……そして、それらの想いを強い信念へと変えている最中なのだろう。


「レイン」


 ややあってリファが顔を上げた。

 その瞳は涙に濡れていない。

 代わりに強い強い決意に満ち溢れていた。


「行こう」

「ああ」


 リファの手を取り、俺達は仲間と一緒に古城の最深部へ向かう。


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― 新着の感想 ―
[一言] リファはお兄ちゃん子…そして、兄の面影を(何となく)レインに見てしまう…あげく、ダメ押しの頭ナデナデ…これで堕ちなかったら逆にスゴいな(笑)
[良い点] リファ、泣けて良かったね… 「思い出はうれしいもの」いいと思いました [一言] 「女の子は女の子らしく」本当に時代錯誤で笑いました ある種も何も押し付け以外の何でもないよレインさん
[気になる点] リファ曰く自分より兄は1000倍強いのに、しかも仲間がそれなりにいたのにヴァイスにやられるのって、ヴァイスの策にやられたのか、若しくは吸血鬼が真祖じゃない限り鬼族や最強種のなかで弱いの…
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