310話 守護者を打ち倒せ
「こいつ……! ソラの魔法を受けても無傷だなんて、どれだけ硬いのですか」
「ゴーレムはAランクオーバー……時と場合によっては、Sランクに匹敵する魔物だからな。特に防御力に優れている。並大抵の攻撃は通用しないと考えた方がいい。もっとも、ここまでとは俺も予想してなかったけど……」
俺やリファの物理攻撃が通じないのならば、ソラの魔法ならば……と思っていた。
しかし結果はこの有様だ。
どうするべきか?
「オォオオオッ!!!」
大地を揺らしながらゴーレムが駆けてきた。
まるで戦争で使われる重量級の馬車だ。
触れるもの全てをなぎ倒して、踏み潰すだろう。
「リファはソラを頼む!」
「うん」
体力が低いソラは迅速に動くことができないが、俺は位置が悪い。
俺は横に跳んでゴーレムの突撃を回避した。
リファもソラを抱えて跳躍して、門の上に着地してやりすごした。
「ちょこまかとネズミのように……逃げるなぁあああ!!!」
ゴーレムは力強く吠えると、近くの岩を殴りつけた。
岩が粉々に砕け散り、無数の破片が矢のごとく飛来する。
「ブラッドシュート」
リファは速やかに血の鎌を血の弾丸に変化させて、岩の破片を迎撃した。
しかし全てを撃ち落とすことは難しく、小さな傷が無数に作られてしまう。
「ぬぅんっ!!!」
続けてゴーレムは木を引き抜くと、それを軽々と持ち上げて、投げつけてきた。
「ウソだろっ!?」
なんて馬鹿力だ。
防御力だけじゃなくて、攻撃力も半端ない。
「ファイアーボール!」
「エアロブラスト!」
俺とソラはほぼ同時に魔法を放ち、投げつけられてきた木を迎撃した。
木が砕け、破片が飛び散り……
それを隠れ蓑にするように、ゴーレムが再び突撃を敢行する。
「パス」
「ひあああ!?」
リファがボールでも扱うような感じで、こちらに向けてソラを放り投げた。
慌ててキャッチする。
その間に、ゴーレムはリファを捉えて、その小さな体を蹂躙……
するかと思った時、リファの体が無数のコウモリに変わり、周囲に散った。
距離を置いたところにコウモリが集まり、再びリファが形を取る。
「リファ、大丈夫か!?」
「大丈夫だけど……」
リファが難しい顔をして駆ける。
再び血の鎌を生成して、ゴーレムを斬りつけた。
合わせて俺も距離を詰めて、カムイを直角に突き立てる。
無駄と言うように、ゴーレムは防御の構えをとることすらない。
鉄を遥かに超える高度を持つ装甲に二つの刃が弾かれてしまう。
「あの装甲を突破しない限り、ボク達に勝ち目はない」
「レイン、どうしますか?」
「そうだな……」
刃を交わした感触からすると、ゴーレムの装甲は特殊な鉱石でできているようだ。
ガラスと似ているような気がする。
「それなら試してみる価値はあるか」
「何か策が?」
「まず俺がしかける。合図で、ソラはありったけの魔法を叩き込んでくれ。最後にリファが決める」
「大丈夫なの?」
「たぶん、いけると思う。いいか? ソラが放つ魔法は……」
使う魔法を指定した後、まずは俺が前に出る。
「作戦会議は終わりか?」
「律儀に待ってくれているなんて、よほど自信があるんだな」
「貴様達の全力を受け止める。その上で、俺が打ち勝つ。そうすることで、俺は俺の存在意義をこれ以上なく証明することができる」
戦闘狂というわけではなく、戦うこと、力を示すことにこれ以上ないくらいの価値を見出しているみたいだ。
魔物でありながら、ここまでの心を持っているなんて……
敵として相対したことを少し残念に思った。
「いくぞ!」
「こいっ」
作戦通り、まずは俺が突撃する。
ゴーレムは真正面から受けて立つつもりらしく、後ろに残るソラとリファを狙おうとはしないで、俺に向けて豪腕を振るう。
ゴォッ! と嫌な音を立ててゴーレムの拳が迫る。
もしも直撃したら……と嫌な考えを振り払い、心を冷静に保ち、体を低くして避けた。
続く二撃目は前に転がるようにしてやり過ごして、そこで俺のターンだ。
「ファイアーボール!」
至近距離の一撃。
爆炎がゴーレムを飲み込むが……
しかし、それがどうしたと言うように、ゴーレムは無傷で炎の中から姿を見せる。
「ファイアーボール・マルチショット!」
「ほう? 同じ魔法を複数同時に放つとは器用な真似をするな。しかし、その程度の魔法で俺を倒すことはできないぞ」
「ファイアーボール・マルチショット!」
繰り返し炎の雨を降らせる。
何度も何度も火球がゴーレムに直撃して、その体を炎で包み込む。
しかし、ダメージはゼロだ。
ゴーレムは余裕を見せるように、悠然と佇んでいる。
「ファイアーボール・マルチショット!!!」
「バカの一つ覚えのように……好敵手と認めたのは間違いか?」
同じ行動を繰り返す俺に、ゴーレムは苛立たしそうな声をこぼした。
それでも俺は火球を連打した。
ゴーレムの攻撃を避けて、あるいはみんなと契約したことで得た能力で防いで……
全部で十回近く、ファイアーボールを叩き込んだ。
やはりダメージは与えられない。
しかし何度も何度も火球を浴びたことで、ゴーレムの装甲は赤く熱せられていた。
そろそろいいだろう。
「ソラ、今だっ!」
「はい、わかりました」
合図を出すと、ソラは迅速に魔法を唱える。
「ブリザードストーム!!!」
吹雪が吹き荒れた。
無数の氷の粒が竜巻のように渦を巻いて、ゴーレムに襲いかかる。
氷の嵐の抱擁を受けて、ゴーレムの装甲がみるみるうちに凍りついていく。
「ぐっ……こ、これは!?」
「リファ、トドメだ!」
「任せて」
リファは親指を噛んで血を流した。
その血はリファの右腕に集まり、巨大な杭と化す。
「ブラッドバンカー、いくよ」
リファが一気に駆け抜けて、ゴーレムの胸部に拳を叩き込む。
その動きと同調するように、血の杭がガコンッと大きく動いて、超速で前方に射出される。
ガァッ!!!
ガラスを数十枚まとめて叩き割るような音が響いて、血の杭がゴーレムの胸部を貫いた。
背中から赤い先端が突き抜ける。
リファが血の杭を引き戻して、後ろに跳んで距離をとる。
「ぐっ、おおお……!?」
ゴーレムの胸部に空いた穴は、ビシビシというひび割れの音と共に周囲に広がる。
やがてそれは手足にまで広がり……ついに決壊して、全身が砕け散る。
ほぼほぼ頭部のみを残したゴーレムは地面に崩れ落ちた。
「勝利」
トドメを刺したリファは、どことなく誇らしそうに∨サインを決めた。
いつもとあまり表情が変わらないが、喜んでいるのはなんとなくわかった。
「ぐっ……なぜだ……なぜ、俺が負ける……?」
まだ活動は停止していないらしく、ゴーレムがうめくようにそう言った。
「貴様達の攻撃では……俺の装甲を貫くことは……ましてや、あの鬼族の攻撃は防いでいたはず……」
「その自慢の装甲が仇になったんだ」
「なん、だと……?」
「ガラスに似た性質みたいだからな。急激な温度変化にはもろい。なんだっけな……熱膨張だっけ? ガラスは熱伝導率が低いから急激な温度変化に耐えることは難しい……どこかで、そんなことを覚えたことがある」
小さい頃はビーストテイマーの訓練ばかりしていたけど、たまに、今言ったような雑学が書かれた本などを読まされていた。
なんの役に立つのかと当初は不思議だったけど、今、ものすごく役に立ったな。
もしかして、こういう未来を想定してのことだったのだろうか?
だとしたら、俺の両親はどこまで勇者の血のことを知っていたのだろう?
今更ながら気になってきた。
とはいえ、もう確かめる術はないが。
「なるほど……俺は自分の力を過信していた、ということか……」
「それも仕方ないさ。あんたは十分に強い。好敵手だった」
「そうか……敵ではあるが、そう言われることはうれしく思うぞ……」
ゴーレムの目から光が消えていく。
「さらば、だ……強き人間よ……」
そして、守護者は完全に沈黙した。
敵であり、魔物でありながら、見事なヤツだったと思う。
その力を称えて、軽く黙祷をした。
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