308話 包囲網
アルさんに転移魔法を使ってもらい、俺達は一気に森林地帯の手前に移動した。
「ここか」
人の手は入っておらず、道らしい道はない。
せいぜいが獣道だ。
草木が鬱蒼と伸びていて、上からの日差しを遮っている。
視界がかなり悪く、まだ昼なのに夜みたいだ。
あちらこちらに蔓も伸びているため、足元にも気をつけないといけないだろう。
「めんどくさそうなところね……草木がうっとうしそう。いっそのこと……」
「焼き払う?」
タニアの台詞を横取りするような感じで、リファがそんな物騒なことを口にした。
「にゃー……タニアだけじゃなくて、リファもそんな物騒なことを言うなんて……」
「脳筋ウイルスが感染したのか? むう、適切な治療が必要なのだ」
「あんたら、後で覚えてなさいよ……?」
タニアに睨まれて、カナデとルナは揃って明後日の方向を向いて口笛を吹いた。
「焼き払わないの?」
「それはなしだ。そんなことしたら逆に進みづらくなるし、そもそも、この森にいるのが魔物だけとは限らないからな。普通の動物もいる。そんな彼らの住処を奪ったり、殺したりするようなことは絶対にしたくない」
「なるほど。レインは優しい」
なぜかリファにいい子いい子された。
褒められたのだろうか?
「では、どのようにして進みますか? クリオスに来た時と同じように、ソラが明かりを用意しましょうか?」
「うち、索敵とかするでー」
「わたし、も……なにかあれば、亜空間にぽい、って……できる、よ?」
「うーん」
みんなの意見を聞きつつ、しっかりと作戦を考える。
ここから先は敵陣だ。
鬼族が返り討ちに遭ったという情報もあるし、敵はのんびりと構えているわけじゃないだろう。
それなりに防備を固めているはず。
視界が悪く移動も難しい場所を、さらに敵を警戒しながら進まないといけない。
なかなかに難易度が高い。
返り討ちに遭ったという鬼族も、ここで体力を削られて……それが原因で敗北したのかもしれない。
できる限り、ここで余計な体力は使いたくない。
この森を攻略することがメインの目的じゃない。
あくまでも最深部の古城に潜む魔族と思わしき敵を討伐することが第一目標だ。
「となると……アレでいくか」
「「「アレ?」」」
――――――――――
彼の名前はアグニ。
古い時代の技術で作られた兵器であり、その種類の名前はゴーレムという。
ランクはAではあるが、その力は一部Sに匹敵すると言われている。
そんなアグニは、魔物ではあるものの、彼を使役する主により名前を与えられた。
アグニはそのことを誇りに思っていた。
主に対する忠誠心を疑いようのないものとして、日々、励んできた。
主な任務は主の警護だ。
現在は、主は森の奥の古城にいる。
アグニは部下を森のあちらこちらに散らして、さらに罠も設置した。
トドメとばかりに、森に侵入した敵の力を削ぐという結界も展開している。
最後に自身が城の門兵となる。
これで森は完全な要塞と化していた。
並の者では奥にたどり着くことはできないだろう。
最強種などはさすがに話は別になるが……
それでも無傷というわけにはいかず、多くの体力が奪われることになるだろう。
消耗した最強種など主の敵ではない。
あるいは、自分が倒してしまってもいい。
ここの守りは鉄壁だ。
アグニはそう考えていた。
「アグニさま、侵入者です!」
ある時、そんな報告が部下からもたらされた。
クリオスの連中だろうか?
まだ無駄な抵抗を続けているのかもしれない。
心の中であざ笑いつつ、アグニは部下に問いかける。
「敵の人数は?」
「八……いえ、七人でしょうか」
「曖昧な答えだな」
「も、申しわけありません。人形が一体、混じっておりまして……そいつが動いたとの報告もあり、なんとも判断が難しく……」
「なるほど、そういうことなら仕方ない」
「それと……敵は最強種です」
「ほう」
最強種と聞いて、アグニは楽しそうな声をこぼした。
からくり仕掛けのゴーレム故に表情が変わることはないが、きちんと感情は宿っている。
アグニの口からこぼれた声には、愉悦の色が混じっていた。
彼は主の忠臣ではあるが、同時に武人でもある。
強い敵と戦うことを楽しみとするところがあった。
「猫霊族、竜族、精霊族、神族、鬼族です。精霊族が二人、他は一人。それと人間が一人。人形は一体です」
「なかなかの戦力だな……鬼族がいるところを見ると、クリオスの連中の助っ人というところか?」
「おそらく、そうではないかと。いかがいたしましょう?」
「我々は己の成すべきことを成すだけだ。いつものように敵を消耗させ、各個撃破せよ。撃破が難しい場合は、消耗させることを目的にするといい。最後は俺が出るか、あるいは、主が手を下すだろう」
「はっ」
部下が一礼して去る。
「複数の最強種達か……今回は、俺が出る必要があるかもしれないな」
アグニは戦うためだけに作られた存在だ。
故に、戦闘で力を示すことだけが己の存在意義となる。
強者と戦い、その首を打ち取るのはこれ以上ないほどの誇りになる。
アグニは心が高ぶるのを覚えていた。
いくらか前に鬼族の襲撃を受けたが……
その時は主が前に立ったため、力を示す機会がなかった。
しかし、今回は違う。
主はなにかしら用があるらしく、奥の古城にこもっている。
なので自分が戦わなければいけない。
それはむしろ望むところだ。
そして相手は最強種。
雑魚が来るよりも楽しく戦うことができそうだ。
敵に不足はない。
むしろ、これ以上ないくらいの最高の相手だ。
「さあ、早く来い。俺を楽しませてくれよ」
――――――――――
敵発見の報告から二時間ほどが経過した。
未だなんの進展もない。
敵を殲滅したという報告も、逆に返り討ちにされたという報告も……何もない。
さすがにアグニは怪訝に思い、部下を呼びつけた。
「報告にあった敵はどうした?」
「はっ、そ、それが……」
「どうした?」
「……申しわけありません! 見失いましたっ」
「なんだと?」
アグニは思わず語気を強くした。
その迫力に押されるように、部下がビクリと震える。
「なぜ見失った? 貴様、もしかして油断していたのか? それとも、相手を侮っていたか?」
「そ、そんな! 滅相もありません。人間ならいざしれず、相手は複数の最強種。最大限の警戒を持ち、挑んでいました」
「ふむ」
それもそうか、とアグニは若干怒りを鎮めた。
自分の部下はいずれも百戦錬磨の兵。
相手が人間ならば多少の遊び心を持つことはあるかもしれないが……
最強種を相手に、そのようなバカをすることはない。
それなのに姿を見失ったということは、相手の方が優れていたのだろう。
自分の部下を手玉に取るなんて、いったいどのような相手なのか?
アグニは敵と、その能力について興味を覚えた。
「その時の状況を教えろ」
「はい。まずは簡単に逃げられないように、最初は攻撃を控え、森の奥に誘いました。その途中、敵が足を止めたため様子を見ることにしました。その後、敵は煙幕らしきものを使用。こちらの意図を見抜いたと判断して、その場で一斉攻撃を行いました。敵は奥地に向けて撤退。偶然ではありますが、逃げ場のないところへ誘導することが叶いました。我らは万全をもって敵を包囲して、殲滅を行おうとしましたが……そこで敵の姿が消えました」
「消えただと? どのように消えたというのだ?」
「突如、体の輪郭が崩れ……水が弾けるような感じでした。思えば、偽物だったのかもしれません」
「なるほどな」
部下の推測通りなのだろうとアグニは判断した。
敵は自らの偽物を作り、それを囮にした。
その答えで間違いないだろう。
しかし、疑問が二つ残る。
最強種は猫霊族、竜族、精霊族、神族、鬼族の五種類と聞いていたが、この中に精巧な幻影を作り出せる能力を持ったものはいただろうか?
ただの幻影なら魔法で作り出せるだろうが、部下を長時間騙すほどの魔法となると、いくら精霊族でも厳しいはずだ。
神族が持つ特殊能力なら可能性はあるかもしれないが、そのような能力者がいるなんて話、長く生きているアグニでも聞いたことがない。
もう一つの疑問は、敵はどこへ消えたのか?
現場は部下が完全に包囲していたはずだ。
地上は元より、空を飛んで逃げることも叶わない。
それなのにどこへ……?
敵の行動が予測できず、アグニは部下と同じように頭を悩ませた。
その時だった。
ぼこりと、近くの地面から妙な音がして……次いで、大穴が空いた。
「ふう……うまくいったみたいだな」
そこから顔を出したのは……人間だった。
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