307話 作戦会議と母親の力
レゾナさんの案内でクリオスの領主の屋敷へ移動した。
今はここがスタンピードの対策会議室として利用されているらしい。
広い部屋の方が使いやすいだろうと、領主が提供してくれたらしい。
以前のホライズンの領主とは大違いだ。
「はじめまして。私がこのクリオスの領主、カイズ・スペリアといいます」
「はじめまして。レイン・シュラウドです」
クリオスの領主はかなりの高齢で、杖を手にしていた。
髪もほとんどが白髪だ。
しかし、普通の老人とは思えないほどに鋭い目をしていた。
口調こそ穏やかではあるが、歳を重ねてきたことで得られる独特の凄みがある。
伊達に領主は務めていないらしい。
「レインさんですか……もしかして、ホライズンの英雄と呼ばれている?」
「え? 知っているんですか?」
「もちろんですとも。あなたのことは有名ですからね。私のような立場になると、自然と耳に入ってくるものですよ。色々と……ね」
含みのある言い方が気になる。
俺のこと、どこまで知られているのだろうか?
勇者の血のことも知られていそうだけど……まあ、それをここで口にするような人じゃないだろう。
「レインさんのような方が助っ人に来てくれたというのなら、我々も希望が持てるというものです」
「おうっ、期待しているぜ!」
カイズさんとレゾナさんにそう言われて、俺はしっかりと頷いてみせた。
「まずは状況を聞かせてくれませんか? 一応、リファから説明は受けていますが、改めて確認しておきたくて」
「ああ、そうだな」
今回の作戦会議の管理進行はレゾナさんが務めるらしく、一歩前に出て説明を始める。
突然スタンピードが発生して、数え切れないほどの魔物に街が襲われていること。
一回だけではなくて、複数回発生していること。
人為的なものと判断して、高い魔力反応があったところに有志の鬼族が向かったものの、返り討ちに遭ったこと。
……それらのことを説明された。
事前に聞いたリファの情報と同じだ。
ただ一つ違う点は、リファから聞いていたよりも状況が切迫しているということ……だ。
スタンピードはすでに四回目に突入していた。
籠城戦に徹しているものの、着実に被害が積み重なっている。
疲労も溜まり、食料も少なくなってきていた。
あまり長くは保たない、という悪い知らせを聞かされた。
「なら早く元凶を叩かないといけないな……敵の位置はどこですか?」
「少し前は他所に移動してたみたいだけど、また戻ってきたぜ。ここだ」
レゾナさんが大きいテーブルの上に地図を広げて、その一角を指差した。
「クリオスの南……森林地帯?」
「にゃー……この中から敵を探すの大変そうだね」
「そうかしら? レインのとんでもテイマー能力を使えば、わりとなんとかなると思うけど」
「あん? なんだ、そのとんでもテイマー能力ってのは?」
「ん、後で教える」
レゾナさんが妙なところで興味を示して、娘のリファがやんわりと話を受け流していた。
「まあいいか。敵はこの森林地帯にある古城に潜んでいる」
「こんなところに城が?」
「歴史あるっていう城らしいが……あー……俺は詳しくは知らん。っていうか、どうでもいい。ここに俺らの同胞をぶっ殺したクソヤローがいるっていうことは確かだ」
「お母さん、口悪い」
「おっと、すまねえな。つい」
なにがつい、なのだろうか……?
最強種の母親は皆一癖も二癖もあるけれど、リファの母親も例外ではないらしい。
「わりぃが、俺らは街を守らないといけねえから手伝うことはできない。罠って可能性も拭いきれないから、全員で突撃するわけにもいかねえんだ。わかってくれるとうれしい」
「大丈夫です」
「助かるぜ。なにしろ、敵は強いだけじゃなくて狡猾なヤツでな。ついこの前も……」
「くくく」
レゾナさんの言葉を遮るように、ひどく耳障りな笑い声が響いた。
声の主は部屋の端で控えていた領主の兵だった。
うつむいているため表情はわからない。
ただひどくおかしそうに笑い、肩を揺らしている。
「くはははっ、まだ愚かなことを企んでいるとは。おとなしく我が主に滅ぼされればいいものを!」
「あなたは……何者ですか!?」
己の部下ではないことに気づいて、カイズさんが鋭い声をあげた。
その声に反応するように、兵の姿が変わる。
体が膨れ上がり、鎧が溶ける。
肌は黒く染まり、翼が背中から生える。
その姿は悪魔そのものだ。
「バカなっ、グレーターデーモンだと!?」
「Aランクの魔物が街中に!?」
他の兵が慌てて武器を構えるが、それよりもグレーターデーモンの攻撃の方が早い。
「地獄の炎に焼かれ、あの方に逆らう愚かさを後悔するがいい!」
漆黒の炎が放たれる。
前に出たのはソラとルナ……それとニーナだ。
ソラとルナは魔法で。
ニーナは亜空間を開いて、それぞれ漆黒の炎を防ごうとする。
ただ、それよりも早く動いた人達がいた。
アルさんとレゾナさんだ。
「ディメンションテリトリー」
アルさんが瞬間的に魔法の構造式を構築して、力を解き放つ。
ありえないほどに早く、そして精密だ。
解き放たれた魔法は空間に干渉するものらしい。
ぐにゃりと空間が歪み、その中に漆黒の炎を閉じ込める。
最後にアルさんがパチンと指を鳴らすと、空間の歪みが元通りになり、最初から何もなかったかのように漆黒の炎が消えた。
「ブラッドアクス!」
レゾナさんは乱暴に親指を噛むと、そこから流れる血を操作して真紅の斧を精製した。
そのまま風のような速度でアークデーモンに迫り、真紅の斧を振り下ろす。
「……あ?」
アークデーモンはなにが起きたかわからない様子で、ぽつりと間の抜けた声をこぼした。
やがて、その体がゆっくりと左右に分かれて……
絶命して、魔石に変わる。
「はんっ。この俺を倒したいっていうのなら、AランクじゃなくてSランクの魔物をよこすことだな!」
「なんじゃ、あっけないのう。不意打ちをしてその程度とは、情けない限りじゃ」
勝ち誇る二人を見て、なんというか……あなた達は例外ですからね? というツッコミを入れたくなってしまうのだった。
――――――――――
「とまあ、そんなわけでな」
会議を仕切り直して……
レゾナさんがもうしわけなさそうに言う。
「今見たように、人間に化けて街に潜り込むヤツもいてな。他にも、あれこれと小賢しい手を考えて俺らを揺さぶってくるんだよ。だから、俺はここを離れることができねえ」
「なるほど……厄介ですね」
レゾナさんの力なら、そこらの魔物なら敵ではないだろう。
スタンピードを引き起こしているという黒幕を倒すことも、ひょっとしたら可能かもしれない。
しかし、それ以前に守るべき街が落とされては意味がない。
レゾナさんが街を守るために残るのは当たり前のことであり、納得できる話だった。
「ふふん、問題ないぞ。なにしろ、こちらには母上がいるからな」
「そうですね。母さんがいれば百人力です」
「ん? 何を言っておるのじゃ、娘達よ。妾もクリオスに残るのじゃ」
「「なんですと!?」」
ソラとルナが驚きの声をあげた。
若干、ソラの口調が崩壊しているような気がした。
「母上はついてこないのか? サボる気か? ははーん、さては面倒になったのだな? 母上らしい理由なのだ。なにせ引きこもり筆頭軍であり、だらだらニート一直線あだだだだだだだだぁ!?」
アルさんにこめかみの辺りをグリグリとやられて、ルナが涙目で悲鳴をあげた。
あれは痛いぞ……
「人聞きの悪いことを言うでない。妾が残るのは、クリオスの防衛のために決まっておるじゃろうが」
「しかし母さん。レゾナさんがいるのでは?」
「レゾナだけではうまく回っていないから、妾が力を貸す必要があるのじゃ。問題ないのなら、そもそもここまで大きな問題にはなっておらぬ」
「そう言われてみるとそうですね……」
「同じ最強種を見捨てるなどしたくないし、人間も……まあ、好かぬがいなくなられると困る。妾が力を貸してやるのじゃ」
「助かるぜ。アルがいれば、街の防衛はかなり楽になるだろうからな」
その後……
敵の情報を聞いたり、移動手段を考えたり、街の防衛について話し合ったり……
2時間ほどかけて作戦を詰めた。
本当ならもっとじっくりと、数日かけて考えたいところだけど、そこまでの時間はない。
できることなら、一分一秒でも早く黒幕を倒したい。
「レインって言ったな?」
「はい」
「俺ら鬼族とこの街の人間の運命……お前に託すぜ。任せた!」
「任せてください」
この信頼に絶対に応えてみせる。
強い決意と共に、俺はしっかりと頷いてみせた。
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