305話 仲間になりたそうに見ている
昼過ぎに目を覚まして……
それからやや遅いごはんを食べた。
続けて改めて買い出しに出て、荷物をまとめる。
軽いミーティングをした後、全会一致で、すぐにクリオスに出発するべきという結論になった。
そうして……全ての準備が調ったのは夜だった。
「にゃー、こんな時間になっちゃったね」
「どうする? さすがにこんな時間に出るのは危ないと思うんだけど……精霊族の里を経由できるといっても、入り口は迷いの森でしょ? 日が暮れた中、あそこを突き進むのはまずいと思うわ」
「ふふんっ、その点なら問題ないぞ」
タニアの懸念を払拭するように、ルナが自信たっぷりに言う。
「こっちに来てほしいのだ」
そう言われて案内されたのは廊下の端だ。
観賞用の花瓶が置かれているくらいで、他になにもない。
「えっと……どういうことなんだ?」
「一見するとなにもない。しかし、こうして我が魔力を流し込めば……」
ルナの手が淡く光る。
目に見えるほどに魔力が収束されているのだろう。
その光る手でなにもない空間をなぞるようにすると、空間が水面のようにゆらいだ。
ぼんやりと壁一面が光り……
ほどなくして、その向こうに夜の闇の中、静かに生える木々が見えた。
どこかで見た景色だ。
「って……これ、精霊族の里の……?」
「うむ! うむうむうむ、そうなのだ! この家と精霊族の里を魔力で繋げたのだ」
「そ、そんなことができるのか? いや、実際にできているんだけど……」
「転移門を一つ増やして、その行き先をここに設定するだけなので。ソラ達精霊族にとっては、わりと簡単な作業ですよ」
「問題……ないの?」
「せやで。ニーナの言うとおりや。勝手にこんなことしたら、怒られるんちゃうか?」
「勝手になんてしていませんよ。ちゃんと許可はとりました」
「里に行くために、いちいち迷いの森まで行くのは面倒なのだ。だから、母上と長に話をして、許可をとってきたのだ。ただ、すぐにニーナに呼ばれたため、設置は後回しになってしまったが」
許可が下りたというが……本当にいいのだろうか?
精霊族の里に繋がる門を我が家に設置してしまうなんて。
ここは街中で、下手をしたら他の人が侵入する可能性もあるんだけど。
「これ、街の人間に不法侵入される可能性があるけど、それはいいの?」
同じ懸念を抱いたらしく、タニアがそんな質問をした。
するとルナは、その可能性は考えていたぞというような感じで、得意げに胸を張る。
「ふふんっ、まるで問題ないのだ! 里に繋がる門を開くことができるのは、我ら精霊族のみ。他の種族……人間がいくら魔力を注ぎ込んでも反応なんてしないのだ」
「それに普段は透明で家の一部と同化しているので、まず気づかれることはないかと」
「なるほど」
それなら安心だ。
「じゃあ、さっそく出発しようか。色々と時間をとられたから、急いだ方がいいだろう」
「んっ」
リファは意気込むように頷いた。
それから転移門の前に移動して、足を踏み出す……その前に足を止めてくるりと振り返る。
そのままみんなを見て、ぺこりと頭を下げた。
「お願い。ボクの仲間とクリオスの人を助けて」
リファのまっすぐな想いが伝わってくる。
そんなリファの肩を、カナデはぽんぽんと軽く叩いた。
顔を上げるリファに、にっこりと微笑んでみせる。
「もちろんだよ! 私に任せてっ」
「この街で起きたスタンピードも、おそらくリファ達の敵だろうし……落とし前はつけさせてやるわ」
「同じ最強種同士、ソラは協力を惜しみません」
「ふはははっ、我らを敵に回したこと、後悔させてやるのだ!」
「うちもがんばるでー!」
「うん……がん、ばるっ」
みんな気合は十分だ。
「行こう!」
最後に俺がまとめて、転移門をくぐった。
――――――――――
転移門を抜けると、そこは精霊族の里だった。
時間や距離の概念はなくて、一瞬で移動してしまう。
こんなものを作れるなんて、改めて精霊族のすごさを実感する。
「おー、すごい」
リファは転移門をくぐるのは初体験らしく、そのすごさに目を大きくしていた。
ただ、あまり表情は変わっていない。
喜怒哀楽の感情があまり表に出ない子みたいなので、これでも驚いている方なのだろう。
「ふふんっ、そうだろうそうだろう! 我ら精霊族はすごいだろう」
「うん、すごい。驚いた」
「ふはははっ! リファは見どころがあるではないか! ういやつういやふぎゅっ!?」
ソラのげんこつがルナに落ちた。
「静かにしなさい、ルナ。もう夜なのですよ」
「お、おおぅ……我も寝てしまいそうなのだ……」
ちょっとかわいそうだけど、ソラの言っていることが正論すぎるので口を挟むことはできない。
「すでに長からは転移門を好きに使っていいと許可を得ています。クリオス方面の転移門へ行きましょう」
「えっと、確かクリオス方面は……うむ、こっちなのだ」
ソラのげんこつの威力から復活したルナの案内で、里の中を少し歩いた。
ほどなくして他の転移門らしき、光の扉が見えてきた。
「ここなのだ!」
「この転移門がクリオスに?」
「正確に言うと、クリオスの近くです。1時間ほど歩くことになりますが、馬車などで移動するよりは遥かに早いかと」
「そうだな。助かるよ、二人共」
「はぅ」
「ふはぁ」
ついつい反射でソラとルナの頭を撫でると、二人共恍惚とした表情を浮かべた。
それを見て、他のみんながうらやましそうにする。
「わたし……撫でてもらったこと、ない……」
「うちもや」
「気持ちよさそう」
ニーナとティナとリファにじっと見つめられてしまい、妙な焦りを覚えてしまう。
「えっと……今は急ぎだから、後でな?」
「うん、約束……だよ?」
「よっしゃ、楽しみやで!」
「なでなで」
三人のテンションが上がる。
こんなことくらいでいいなら、いつでもしてあげようと思う。
さすがに今は忙しいから、後回しになってしまうが。
「それじゃあ……」
「おっ、待っていたのじゃ」
さっそく転移門をくぐろう。
そう言おうとしたところで、聞き覚えのある声が後ろからした。
振り返ると……アルさんの姿が。
「母上?」
「どうしたんですか、母さん」
ソラとルナが驚いた顔をした。
転移門の使用の許可は得ていたらしいが、アルさんがここにいることは想定外のことらしい。
「大体の事情は娘達から聞いているのじゃ。お主ら、クリオスに行き、鬼族を助けるのじゃろう?」
「ええ、そうですけど……」
「なら妾もついていくのじゃ」
「ええっ!?」
突然の展開に驚いて、ついつい大きな声をあげてしまった。
ついていく、って……
アルさんが一時的にパーティーに?
そういう認識でいいんだよな?
「うむ、問題ないぞ」
「俺、何も言ってないんですけど……」
「お主は良くも悪くもバカ正直だからのう。簡単なことなら、魔法を使うまでもなく考えていることはわかるのじゃ」
少しは心を隠す努力をした方がいいのだろうか……?
「でも、母さん。どうしてですか?」
「うむ。めんどくさがりでひきこもりでダラダラマスターの母上が外に出るなんて、かなり久しぶりのことではないか?」
「ルナよ。お主、母に対する敬意と口使いをもうちと学んだ方がよいぞ?」
「みぎゃんっ!?」
今度はアルさんのげんこつを受けて、ルナが涙目になっていた。
「なに。鬼族のピンチということならば、力を貸すのはやぶさかではない。もっとも里の防衛もあるから、妾以外の者は動けぬがな」
「母さんがついてきてくれるだけでも頼もしいです」
「うむうむ。ソラは素直でかわいい子じゃのう」
「母上よ、大丈夫なのか? もうよい歳ではないか。はしゃぎすぎてぎっくり腰になんてなったら、我は子として恥ずかしぷぎゃ!?」
「ルナよ。お主、だから学習するのじゃ」
二度目のげんこつが落ちて、ルナはその場でひっくり返り、陸に打ち上げられた魚のようにピクピクと震えた。
この母娘、ワイルドだなあ……
「というわけで、妾もついていくぞ。無論、よいな?」
じっとアルさんがこちらを見た。
仲間にしてほしい……というよりは、仲間にしろ。
さもないととんでもないことになるぞ?
と脅迫するような感じだった。
「もちろん。反対なんてしませんよ」
突然の展開に驚いたものの、アルさんが味方してくれるのなら、これ以上ないほどに頼もしい。
こうして俺達はアルさんという最強の助っ人を味方に加えて、クリオスに向かうのだった。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




