303話 黒幕の動揺
「……まさか、このようなことが」
崖の上でスタンピードの様子を観察していた魔族……ヴァイスは、驚愕に目を大きくした。
計画は順調に進んでいた。
問題なくスタンピードを誘発することができて、こちらが望むほどほどの規模に成長した。
万を超える魔物の群れはホライズンに進路を向けた。
援軍など間に合わない。
防衛なんて無意味。
ホライズンは今日この日、地図から抹消されるはずだった。
複数の最強種がいることをヴァイスは知っていた。
ただ、それは大した問題ではないと判断していた。
普通の最強種ならば、スタンピードを乗り越えることはできない。
最強種の中でも頂点に立つ者や……
あるいは天族のような戦闘に特化した種族ならば、あるいは話は別だったかもしれない。
しかし、猫霊族、竜族、精霊族、神族……
そして鬼族だけでは意味がない。
滅びまでの時間を伸ばすことはできるだろうし、死ぬこともない。
ただ、それだけだ。
ホライズンを滅びから救うことはできない。
そう思っていた。
そう判断した。
それなのに……この結果はどういうことだ?
目の前で起きていることは、いったいどういうことだ?
ヴァイスは眼下で起きている光景が理解できず、思わず頭を抱えてうめいてしまう。
「なんなのだ、あの人間は……? この儂の策を、あのような馬鹿げた方法で打ち破るなど……」
援軍として呼び出された動物達は魔物の群れを勢いよく蹴散らしていた。
オオカミなどがゴブリンなどの小型の魔物を噛みちぎり……
サイなどがオーガなどの中型の魔物を吹き飛ばし……
ゾウなどがキングリザードなどの大型の魔物を踏み潰す。
動物の群れに蹂躙される魔物の群れ。
冗談みたいな光景だった。
ただ、動物よりも魔物の方が優れている、強い力を持っていると決められているわけではない。
全ての動物が魔物を超えるというわけではないが……
一部の戦いに長けた動物は、魔物よりも優れた戦闘能力を有している。
でなければ、とっくに魔物に滅ぼされて野生の動物は絶滅してしまっている。
しかし。
だからといって。
本当に魔物に動物をぶつけようなんて、そんなことを考える者がいるだろうか?
スタンピードを動物で制圧するなんて、そんなことを考える者がいるだろうか?
ヴァイスの理解の範疇を超えていた。
信じられない。
信じられない。
信じられない。
目の前の光景を見ていると、頭痛でくらくらとしてしまいそうだった。
「……儂の策が失敗したこと、認めねばならぬか」
ホライズンはあくまでも保険だ。
本命はクリオス。
クリオスでは足りないかもしれないという話になり……
そこでホライズンも滅んでもらうことにした。
しかし、それは失敗に終わった。
まだ戦いは続いているが……
魔物の群れは完全に押されていた。
それなりの数はまだ残っているが、完全制圧されてしまうのも時間の問題だろう。
「やれやれ……このようなことではリースになんて言われるか。頭が痛いな」
ヴァイスは自分が加勢に入るかどうか考えた。
しかし、すぐにその案を却下した。
複数の最強種。
数百人の人間。
そして動物の群れ。
それらを相手にするなんてこと、いくら魔族といえど不可能だ。
簡単に敗れてしまうだろう。
とっておきを使えば、あるいは……という可能性もある。
しかし、それはあくまでもとっておきなのだ。
このような場面で気軽に出すことはできない。
「仕方ない……この街は諦めるとするか」
ヴァイスはため息をこぼして……
次の瞬間、その姿が幻のように消えた。
――――――――――
「これで……最後だよっ!!!」
カナデがぐるぐると右腕を回して、全力のパンチをキングリザードに叩き込んだ。
その巨体が砲弾のごとく空に打ち上げられて、そのまま星になる。
「残りは……」
魔力を四方八方に飛ばして魔物の反応を探る。
反応は……一つもなし。
全滅だろう。
「レイン! 空から見てきたけど、残りはいないわ」
「わたし、も……念の為に確認した、けど……もう大丈夫、だよ?」
タニアとニーナもそう言うのだから問題はないだろう。
スタンピードを制圧することができた。
「レイン、勝どきをあげてくれないか?」
ステラにそんなことを頼まれてしまう。
「え? なんで俺なんだ? ステラが総指揮をとっているのに……」
「私よりもレインの方がふさわしい。街の皆がそなたを認めているのだぞ」
「そう言われても……ああ、いや。わかった。俺がやるよ」
俺の柄じゃないんだけど……
でもステラがここまで言うのだから、素直に引き受けることにした。
門の前に移動する。
こちらを見る冒険者や騎士達の前で右手を突き上げて……
「俺達の勝利だっ!!!」
「「「おおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!!!」」」
――――――――――
みんなが力を合わせたことで、なんとかスタンピードを制圧することができた。
ただ、大変なのはこれからだ。
まずは怪我人の手当。
500人近くの人が戦い、その半数近くが重傷を負った。
動けないほどの重傷者は100人近くにおよぶ。
俺達も怪我人の手当に協力した。
俺はヒールが使えるし、ソラとルナは魔法のエキスパートだ。
ティナは的確な治療ができる知識と技術を持っていて、ニーナは亜空間にたくさん傷薬を保管している。
カナデとタニアは自慢の腕力で色々な物資をあちらこちらに運ぶことができた。
残念ながら助けることができなかった人もいるが……
それでもみんなのおかげで、たくさんの人を助けることができた。
人の問題だけではなくて、街の復興も大きな問題だ。
魔物の襲撃をなんとか持ちこたえたものの、東門は完全に機能を停止。
その周辺の被害も大きくボロボロだ。
元の姿を取り戻すにはそれなりの時間がかかるだろう。
ただ不幸中の幸いというべきか、復興のための資金に困ることはない。
スタンピードを制圧したことで、大量の魔石を得た。
それをうまく活用すれば資金の問題は解決するだろう。
その他、色々な問題はありつつも……
スタンピードを乗り越えた人々は、前を向いてすでに歩き出していた。
そんな中、俺はというと……
「よーし、ありがとうな。助かったよ」
「ガウッ!」
ライオンの頭を撫でて、その前に大きな肉の塊を置いた。
ライオンはうれしそうに肉の塊を咥えて……しかしあまりに大きすぎて持ち運ぶことができず、家族らしき複数のライオンを呼び、協力して運んでいった。
「ふう……」
「レイン、そろそろ肉がなくなっちゃうよ?」
「大丈夫だ。肉食の動物は今ので最後だから。次は草食系だから……」
「うん、おいしいそうな野菜、たくさん持ってきたよ」
カナデがリヤカーに積んだ野菜の山を見せてきた。
その後ろに同じように野菜が積まれたリヤカーが何台も並んでいる。
そして、俺の先には動物の群れ。
仮契約を交わした動物達だ。
報酬を与えているのだけど、数が多いので大変だ。
大量の魔石を得たおかげで金に困ることなく、きちんと報酬を用意できてはいるが……
作業の手間が半端なくて、そろそろ日が暮れようとしているのに、報酬の授与が終わらない。
これは徹夜作業になるかもな……
苦笑しつつも、しかし、がんばらなければと気合を入れる。
動物達も無傷というわけにもいかず、傷ついたものがいる。
ビーストテイマーとして、できる限り彼らに応えなければいけない。
「ありがとうな」
一匹一匹の頭を撫でて、お礼を言い重ねていくのだった。
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