表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/1126

3話 最強種

 『最強種』と呼ばれる存在がいる。

 Sランク冒険者に匹敵……あるいは、凌駕するという力を持つ種族のことだ。


 竜族。

 精霊族。

 神族。


 この世界には、数多の『最強種』が存在するが……

 その中でも一際珍しいのが、『猫霊族』だ。


 紛らわしい名前をしているが、猫の幽霊じゃない。

 あくまでも、『猫霊族』という種族なのだ。


 猫の耳と尻尾を人につけたような外見をしている。

 種族全体が陽気な性格をしていて、人懐っこい。

 『最強種』と言われても信じられないくらいかわいらしい存在で、一時期は、アイドルのように崇められたこともあるらしい。


 そんな『猫霊族』ではあるが、そのポテンシャルはすさまじい。

 素手で大地を割り、道具を使わずに雲の上まで飛び上がり、音速を超えて移動できる。

 魔法が使えない分、身体能力が極限まで進化したらしく、ただの殴り合いなら魔王すら倒せるという噂だ。


 しかし、過去に起きた戦争の影響で、個体数が激減。

 今は絶滅の危機に瀕しているらしく、その姿を見かけることは稀だ。

 あまりにも見つからないものだから、遭遇したら幸運が訪れる、と言われてるほどだ。


 そんな『猫霊族』の女の子が、俺の前にいた。


「はぐはぐはぐっ! あむっ、あむっ! ぱくぱくぱくぱくぱく、ごくんっ!」


 『猫霊族』の女の子は、俺が持っていた非常用の携帯食料を食べていた。

 全力で食べていた。

 これでもかというくらい、夢中になって食べていた。


 聞けば、腹を空かせて行き倒れているところだったらしい。

 納得だ。

 本物の『猫霊族』ならば、キラータイガー如きに追い詰められるわけがないからな。


「ぷはーっ!!!」


 俺の携帯食料を全部食べ尽くしたところで、ようやく満足したらしく、『猫霊族』の女の子はにっこりと笑った。


 ……よく見ると、すごくかわいい。


 光を束ねたような、サラサラの綺麗な髪。

 宝石のように輝くグリーンの瞳。

 猫耳と尻尾がなければ、どこかの国のお姫様と言われた方が納得できる。


「落ち着いたか?」

「うんっ! ありがとーっ、助かったよぉ……あのまま、死んじゃうのかと思った」

「大げさだな」

「大げさなんかじゃないよー。もう、何日も飲まず食わずで、天国に行ったはずのおじいちゃんおばあちゃんが、川の向こうで手を振っているのが見えたもん」


 割と洒落にならない状況だったらしい。

 うまい具合に女の子を助けることができて、本当によかった。


「あっ、そういえば、自己紹介をしてなかったね! 命の恩人なのに、ごめんなさい。私は、カナデ。見ての通り、『猫霊族』の女の子だよ♪」

「俺は、レイン・シュラウド。冒険者……になる予定の男だ」

「予定なの?」

「試験を受けている最中なんだ。で、その時にキミを見つけたんだ」

「キミ、じゃなくて、カナデって呼んでほしいな♪」

「じゃあ、俺のこともレインで」

「うんっ! よろしくね、レイン♪」


 これが、俺とカナデの出会い。

 ……生涯のパートナーとなる相手との、初めての時間だった。




――――――――――




「へー、それじゃあ、レインは勇者のパーティーにいたんだ」


 街に戻ろうとしたら、カナデもついてくると言い出した。

 特に問題はないので、そのまま一緒に行くことにした。


 その道中……


 俺は、ここ最近、自分の身に起きた出来事をカナデに話していた。

 本来なら、思い出すのもイヤなくらいの最低な思い出なんだけど……

 カナデの明るい人柄がそうさせているのか、気がついたら、俺は全てを話していた。


「むぅー」


 カナデが不機嫌そうな顔をする。


「どうしたんだ?」

「レインを追放するなんて、その勇者、許せないなー。レイン、こんなに良い人なのに」

「……俺のために怒ってくれるのか?」

「当然だよ!」


 カナデは優しい子なんだな。

 出会ったばかりの俺のために怒ってくれるなんて……なかなかできることじゃない。


「まあ、仕方ないさ。俺が足手まといになっていたことは事実だからな」

「にゃうー……でもでも、スッキリしないの!」

「ありがとな、俺のために怒ってくれて。でも、今の俺はスッキリしてるよ。あのままパーティーに残ったとしても、ロクな目に遭ってなかっただろうからな。そのことを考えれば、抜けることができて、逆によかったと思うよ」

「んー……レインが気にしてないなら、私も気にしない!」

「いい子だな」

「にゃふぅ」


 つい、反射的にカナデの頭を撫でてしまった。

 ただ、カナデは嫌がる素振りを見せず、むしろ気持ちよさそうに目を細くした。


「あっ、でもでも、一個だけ訂正させて? レインは役立たずなんかじゃないよ。むしろ、すごく強いよ」

「ありがとな、慰めてくれて」

「慰めなんかじゃないよー。本気で言ってるんだよ?」

「そんなことを言われてもな……俺の力なんて、大したことないぞ? ビーストテイマーだから、動物を使役するくらいしか能がないし……」

「それがすごいんだって。レインのビーストテイマーの才能は、とびきり優れてるよ」

「なんでそんなことが言えるんだ?」

「レインなら、たぶん、私と契約できるから」

「え?」


 予想外のことを言われて、思わず足を止めてしまった。

 カナデはそんな俺を見上げて、にっこりと笑う。


「なんて言えばいいのかな? レインを見た瞬間、ビビビ、って電気のようなものが体を走ったの。それで、思ったんだ。レインなら、私を使役できるんじゃないかな、って。私達『猫霊族』を使役できる人なんて、世界中を見ても、ほんの一握りしかいないよ? だから、レインはすごい人なんだよ」

「そんなことを言われても……」


 実感がない。


 『猫霊族』を使役する?

 そんなこと、考えたこともなかった……


「私を使役してみる?」

「えっ、いいのか? いや、できるかどうかわからないんだが……」

「レインならいいよ♪ 興味あるし、やってみる?」

「……」


 『最強種』を使役できたとしたら、これ以上、心強いことはない。


 でも、そんな打算以上に……

 カナデともっと仲良くなりたいと思った。

 契約を交わすことで、親密になりたいと思った。


 だから……


「わかった、やってみるよ」

「うんっ♪ さすが、レイン。応援してるからね!」

「じゃあ……そこで、じっとしててもらえるか?」

「じっとしてるだけでいいの?」

「ああ。やることは、俺が全部やるから」


 親指を噛んで、血を流す。

 その血を使い、手の平に、ビーストテイマーのみが使用する特殊な魔法陣を描いた。


 手の平をカナデにかざす。


「……我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」


 ここで、カナデが自分の名前を答えたら、契約が成立する。

 そうでない場合は……


「……カナデ……」


 不安をよそに、カナデは自分の名前を口にした。


 血で描いた魔法陣が輝く。

 光があふれて……

 カナデの中に吸い込まれていく。


「……んにゃ? これで終わり?」

「ああ……契約、成立だ。ほら、手の平を見てごらん」

「おー……おー? なんか、変な模様ができてるよ」

「それが、俺とカナデを結びつける契約の証だ。これで……俺は、カナデと契約したことになる」

「そうなんだ。コレが、私とレインの絆の証なんだね♪ えへへ、うれしいな♪」

「絆……」

「あれ、違った?」

「……いや、合っているよ。それは、俺とカナデの絆の証だ」

「うんっ♪ これからよろしくね、レイン♪」

「こちらこそ、よろしくな」


 こうして……

 俺は意図せず、『最強種』を使役することになったのだった。

19時頃にもう一度更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[気になる点] 契約時、名前を言う必要があるようですが、普通の動物と契約する場合どうなるのですか?鳴き声になるのですか?
[気になる点] アニメを見てビックリしたのですが、親指を噛んで血を出すのって凄い事にですよね。
[一言] 猫霊族は何と読むのでしょうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ