299話 最強種の力
敵は2万に及ぶ魔物の大群。
対するのは200人余りの冒険者と騎士の混成部隊。
有志の一般人も300人ほど集まっているが……
彼らは最後の手段であり、基本的に戦線に投入するつもりはない。
2万もの大群を相手に策なんてものは通用しない。
策が成立させるためには、最低限の数が必要だ。
現状は戦力差が大きすぎて、どのような策を用いても数で圧倒されてしまう。
だから、シンプルにいくことにした。
籠城戦だ。
街の門を盾にして、有利な位置から魔物を迎撃する。
幸いというべきか、相手は大した知能を持たない。
突撃してくるだけで、潜入して門を解錠しようなんてものはいない。
半日ならば持ちこたえられるだろう。
その間にレインや、あるいは他の街からの救援が来れば、なんとかなる可能性はある。
ステラはそのように考えていた。
しかし、それは甘い考えといわざるをえなかった。
「くそっ……こいつら、次から次へと……!」
「おいっ、手を止めるな!」
「わかっている、わかっているが……!」
前線に立つ冒険者と騎士達は、途切れることなく襲ってくる魔物を次々と迎撃するが……
疲労が溜まり始めていた。
1時間、休みなく武器を振るい続けているのだ。
どうにかならない方がおかしい。
最初の10分は交代をとるようにしていたが……
魔物の群れによる襲撃箇所がどんどん広くなり、交代要員を含めて、全員で対処しないと間に合わなくなってきたのだ。
全員で対処にあたり……
それでも手が足りないくらいで……
120%の力で動き続けていた。
当然、体力が切れてしまう。
気力と街を守るという使命感で武器を振り続けるものの、それも限界が近い。
みるみるうちに動きが鈍くなってきた。
また、後方の魔法使い達も同様だ。
門を強化する魔法をずっと使い続けている。
いつ魔力が枯渇してもおかしくない。
「ホントだ、一時間くらいでけっこう危ない展開に……」
カナデがわずかに顔をこわばらせた。
「このままだとまずい」
「そうね、ということは……」
リファの言葉に同意して、タニアがステラを見た。
「あたしらが行くわ。その間に、怪我をした人、休憩が必要な人は下がらせて。それくらいの時間は稼げると思うから」
「……またそなた達に頼ってしまうのだな」
ステラは悔しそうに言った。
街を守る騎士でありながら、その力が足りないことを悔しく思っているのだろう。
そんなステラにタニアが笑いかける。
「なに言ってんのよ」
「いたっ」
タニアはステラにデコピンをして……
それから、カナデとその頭の上に乗るティナも笑いかける。
「私達もこの街を守りたいんだから。そういう風に変に気にすることないんだよ」
「せやで。うちらの街やからな。守るのは当たり前や」
「……ありがとう」
「にゃん♪」
カナデは体をほぐすように、軽く準備運動をした。
それから地面に両手をついて、足を後ろにやる。
体を低く、下半身に力を溜める。
「いきなさいっ、突撃猫!」
「うにゃあああああっ!!!」
「おわっ!?」
カナデが駆けた。
地面が爆発したように抉れて、突発的な加速にティナが振り落とされてしまう。
構うことなくカナデは駆け抜けて……門の手前で跳躍。
一気に空に舞い上がり、門を飛び越える。
「これでも……くらいなさぁあああああいっ!!!」
宙でくるりと体を回転させて、そのまま隕石のごとく落下した。
ゴォンッ! と轟音が響いて、十数匹の魔物がまとめて吹き飛ばされた。
「まとめておいで!」
挑発するような言葉をぶつけると、魔物が一斉に襲いかかってきた。
前から、後ろから、右から、左から、上から……
全方位から包み込むように魔物の波が迫る。
しかしカナデは慌てることなく、冷静に対処した。
一撃必殺。
全ての魔物を一撃で倒して、最小限の手間で最大限の効果をあげていく。
次々と魔物が吹き飛び、その体が魔石に変わる。
それでも残りの魔物は数え切れないほどで……
「いくわよっ、ティナ!」
「おうっ!」
翼を背中から生やして、頭にティナを乗せたタニアが空を飛んできた。
タニアは自慢の火球を上空からぶちこんだ。
どこもかしこも魔物だらけだ。
狙いをつける必要なんてない。
とにかくも今は数が重要と連射した。
「必殺っ、大回転魔球やでーっ!」
タニアの頭の上で、ティナは魔力で練り上げた光球を投げていた。
空を飛ぶ魔物に直撃して、次々と撃ち落としていく。
どういう仕組みなのか、魔物が急旋回して回避しようとしても、光球は急激なカーブがかかり、自動追尾するように魔物の体を貫いていた。
カナデ、タニア、ティナが戦線に加わった。
切り札が投入されたことで、魔物の進軍速度が遅くなる。
「さすが」
三人の活躍を見て、リファは少し驚いていた。
最強種といっても、その強さはピンキリだ。
基本的に普通の人より強いことは間違いないが……
これだけ活躍できる最強種となると、なかなかいないのではないだろうか?
カナデは、噂に聞く最強の猫霊族『微笑みの悪魔』に匹敵する力を持つかもしれない。
タニアは、噂に聞く最強の竜族『鬼神のごとき幼子』に匹敵する力を持つかもしれない。
ティナは……幽霊というだけで元は人間のはずなのだが、この強さはいったいどういうことだろう?
少々混乱しつつも……リファも参戦することにした。
門の上から飛び降りて、戦線のど真ん中に着地した。
すぐに魔物が殺到してくるが……
「甘い」
リファはその身を無数のコウモリに変化させて、四方八方に散った。
コウモリがその身を矢のようにして、超高速で飛び回る。
触れた魔物は体に穴が開いて、あるいは吹き飛ばされて……
次々と絶命していく。
「眷属召喚」
コウモリが集結して、門の上にリファの姿が現れた。
そのリファの影がぶくぶくと膨れ上がり……
一気に弾けると、中から漆黒のオオカミが二匹、現れた。
リファの影から現れたとは思えないほどに巨大で、5メートルに届こうというほどに大きい。
「いって」
リファの合図で黒のオオカミが駆けた。
高く跳躍して、大地を響かせながら着地する。
それと同時に丸太のような豪腕を振り回して、あるいはびっしりと並んだ牙が食い破り……
魔物をまとめて十匹ほど、蹴散らした。
もう一匹はしなやかに着地すると、一気に最高速まで跳ね上がり、魔物の群れの中を縦横無尽に走り抜けた。
その巨体、質量故に、ただただ走るだけで凶器になる。
魔物が跳ね飛ばされて、踏み潰されて……
あちらこちらから断末魔の悲鳴があがる。
「ボクもいく」
リファは指を噛んだ。
血がとろりと流れて……
それが重力に逆らうように、ふわりと浮かび上がった。
血の塊ができあがり……それらが二つ、四つ、八つと分裂を繰り返していく。
ミリ単位に小さくなった血の塊がリファの周囲に数十……百に届くほどに漂う。
リファは手を振り上げて。
「穿て」
手を振り下ろすと同時に、血の塊が雨のように降り注いだ。
嵐の時の横殴りの雨のように。
血の塊が魔物の群れを貫き、駆逐していく。
さらにもう一度、リファは鋭く伸びた犬歯で指を噛んだ。
先ほどよりも多くの血が流れる。
しかし、それは地面に落ちることなく再び宙に集まる。
今度はリファの手に収束されていき……
やがて、リファの背丈ほどもある大きな鎌となる。
「ブラッドサイズ……いくよ」
リファが跳んで……
血の大鎌を振り回して戦場を薙ぎ払った。
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