296話 涙を止めるために
ポロポロと涙をこぼしながら、リファは頭を下げた。
リファはずっと張り詰めていたのだろう。
仲間がピンチに陥っていて、それをなんとかしなければいけないという使命を背負い……
一人でがんばり、耐え続けて……
わらにもすがる思いで俺のところにやってきたのだろう。
そして今、感情が限界に達して、一気に表にあふれた。
仲間を想い、家族を想い、友達を想い……
涙を流している。
その涙を止めたいと、強く思った。
「大丈夫」
指先でそっとリファの涙を拭う。
「その依頼、引き請けた」
「助けてくれる……?」
「ああ、もちろんだ」
「ホント……?」
「ホントだ。リファが困っているなら、その家族や仲間が苦しんでいるなら……力になりたいよ。なんでもできるとは言えないけど、でも、全力を尽くすことは約束する」
「……ありがと」
リファはすんすんと鼻を鳴らしながらも泣き止んだ。
ぐしぐしと手の甲で目元を拭い……
それからこちらに抱きついてきた。
「ありがと」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
今度は優しさが含まれているような気がした。
「えっと……」
リファが離れたところで、一度、みんなを見る。
「そんなわけだから、俺はリファの依頼を請けようと思うんだ。みんなの意見も聞かずに勝手に決めてしまったけど……」
「できれば手伝ってほしい、って言うつもり?」
俺の台詞を先読みして、タニアがそんなことを口にした。
「で、よくわかったな……って続けると思うのだ」
さらにルナにまで台詞を先読みされてしまう。
「ふふんっ、当たりだろう?」
「まあ……でも、どうして?」
「我らはずっとレインと一緒にいるのだぞ? レインの考えていること、次に出そうな台詞くらい、なんとなく予想できるのだ」
「手伝ってほしいとか、そういうことは言わなくていいわよ。あたしらのリーダーはレインなんだから、もうちょっと強引にしてもいいと思うわよ。例えば、俺についてこい……とか」
「にゃー、強引なレイン……それはそれでアリだね!」
「話を脱線させないの、この妄想猫」
「妄想猫!?」
最近、ちょくちょくタニアがカナデにツッコミを入れているような気がした。
この二人、芸を披露しておひねりをもらうことができるのでは?
「えっと、それじゃあ……」
「うちらはもちろんオッケーやで」
「リファの……力になりたい、の」
リファの涙にみんなも心を動かされたらしく、依頼を請けることを笑顔で了承した。
そんなみんなの返答を聞いて、リファが再び涙ぐむ。
「ありがと。すごく感謝」
なんとか涙は我慢して、リファはぺこりと頭を下げた。
最初は人形みたいに無表情な子に見えたけど……
そんなことはなくて、とても感情豊かな子なのだろう。
ただ、ちょっと表に感情が出てこないだけだ。
「それじゃあ……リファ。悪いけど、ちょっと冒険者ギルドまで付いてきてくれないか?」
「どうして?」
「冒険者に依頼を出す時は、ちゃんとギルドに報告しないといけないんだ」
以前は手続きを簡略化したり、後回しにしていたこともあったが……
今の俺はAランクの冒険者なので、なるべくなら適当なことはしたくない。
冒険者として恥じない行動をとらなければいけないし……
よほど急ぎでない限りは、きちんとした手続きを踏んでおきたい。
「クリオスはまだ持ちこたえられそうか?」
「……うん、それは大丈夫」
少し考えるような間を挟んでから、リファはこくりと頷いた。
「みんな強い。耐えることを目的にすれば、まだまだ平気。実際、そうするって言ってた」
「なるほど。じゃあ、悪いけどギルドで手続きを頼む。そんなに時間はかからないはずだから」
「ん、わかった」
「俺とリファと……あとタニア、一緒に来てくれないか?」
「ええ、いいわよ」
「あとのみんなは旅の準備を頼む。食料と水。必要があればその他日用品と装備も。あと、馬車の手配を」
「「ば、馬車……」」
馬車と聞いて、ソラとルナのテンションがだだ下がりした。
二人は馬車に弱いから、また酔ってしまうのではないかと考えているのだろう。
クリオスは東大陸に入ってすぐのところと聞くし、王都に行くほどの時間はかからないだろう。
ただ、一日以上は確実だろうから……二人には厳しいだろう。
「むぅううう……むぅ……ぬぅうううん……」
ルナがものすごい顔をして悩ましげにうめいていた。
双子らしくソラも似たような顔だ。
それくらいに馬車がトラウマになっているのだろう。
「あっ、そうなのだ」
なにか閃いた様子で、ルナは明るい顔になった。
「レインよ。ようは、クリオスへの移動手段を確保すれば、馬車でなくても問題ないわけだな?」
「ああ、そうだけど……他にアイディアが?」
「タニアの背中に乗せてもらうのだ!」
「あたし、馬車じゃないんだけど……」
「冗談なのだ」
ウソだ。
たぶん、タニアが仕方ないわね、と言えばそのまま背中に乗せてもらうつもりだっただろう。
「結局、どうするつもりなんだ?」
「精霊族の里を経由しようと思います」
ルナの代わりにソラがそう答えた。
「確か、東大陸に入ってすぐのところに、里に繋がる入り口があったので。それを使えば、馬車に乗ることなく東大陸に移動できます。その後は、少し歩くことになるかもしれませんが……まあ、普通に移動するよりは早いと思いますよ」
「でも、大丈夫なのか? ただの移動手段として、精霊族の里を利用するなんて……」
そうしたことができないからこそ、今までは馬車を利用したり徒歩で移動していたわけだけど……
「大丈夫です。例え長が反対したとしても、説得してみせます」
「あの馬車という悪魔の兵器に乗らされるくらいなら、我はどんなこともしてやるのだ!」
そこまで言うか……
二人は心底、馬車が嫌いになったらしい。
まあ、乗り物酔いはかなり苦しいと聞くからな。
人によっては、二日酔いよりもきついらしい。
そのことを考えると、仕方ないのかな、とも思う。
「そんなわけで、我とソラは、また精霊族の里に行って話をつけてくるのだ」
「買い物に参加できませんが、いいですか?」
「うん、いいよー。荷物持ちは私がいれば問題ないし……」
「買い物ならうちに任せてやー。きちんと値切って、いい商品を仕入れてみせるで」
「わたしも……お手伝い、がんばる……」
みんなやる気たっぷりだ。
それだけリファを助けたいと思っているのだろう。
俺だけじゃなくて、みんなもリファのことを親身に考えてくれていて……
そのことがすごくうれしい。
こういう時、仲間の絆というか繋がりを感じるよな。
「ありがと」
リファもその想いを感じ取ったらしく、もう一度、お礼を口にした。
その顔は小さく笑っていた。
――――――――――
タニアとリファを連れて、俺達は冒険者ギルドに移動した。
そろそろ夕方になろうとしているが……
あまり時間はかけたくないし、まだ受付はしているはずだ。
「こんに……」
「あぁっ、シュラウドさん!?」
ギルドの中に入ると、ナタリーさんと目が合った。
そして、ものすごい勢いで詰め寄られた。
「よかったです! 今ちょうど、シュラウドさんの家を尋ねようとしていたところでして……まさか、シュラウドさんの方から来てくれるなんて! よかった、これで無駄な時間を省くことができました」
「ちょ……お、落ち着いてくれ。なんでそんなに慌てているんだ?」
日頃の穏やかな様子がウソのように、ナタリーさんは慌てていた。
よく見ると顔を青くしていて、汗もいっぱいだ。
なにか恐ろしいものを見たような顔で……
嫌な予感がした。
よくよく見てみれば、ギルド内は戦場のように慌ただしかった。
ギルド職員達があちらこちらを駆け回り……
さらにたくさんの冒険者が集まっていた。
「これは……?」
どういうことなのだろう?
不思議に思いナタリーさんを見ると、すぐに説明をしてくれる。
「シュラウドさん、力を貸してください! このホライズンの近くで……スタンピードが発生しました!」
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