295話 救援要請
家に戻り、リビングへ移動した。
再びティナがお茶を淹れてくれて……
その間に、残りのみんなに集まってもらった。
リファの話はけっこう大事なことのようだから、きちんと全員で話を聞いたほうがいいと思ったのだ。
「驚き」
リファがタニアとニーナを見て、目を丸くした。
「竜族と神族もいるなんて」
「あたしはタニアよ」
「ニーナ……です」
二人が挨拶をして、最後にソラが挨拶をした。
それから席につく。
俺はリファの対面に。
左右にソラとルナが座り、カナデとタニアはそれぞれ斜めに。
ニーナとティナはリファの隣に移動した。
ぐるりと円を囲むような形だ。
「にゃー……レインの隣、取られた……」
「あの双子、さっそくやってくれたわね……」
「ふふんっ」
「勝負はすでに始まっているのです」
なぜかカナデとタニア、ソラとルナの間で火花が散っていたが……
ケンカというわけではなさそうなので、今は放っておく。
「それじゃあ、話を聞かせてくれないか?」
リファはコクリと頷いて、その目的を口にする。
「ボク達、鬼族を助けてほしい」
その内容は思っていたものよりも大事で……それでいて、わかるようでわからない話だった。
どういうことなのか? ついつい首を傾げてしまう。
そんな疑問を察したらしく、リファは詳しい説明に移る。
「ボクは鬼族。その中でも珍しい、吸血鬼と呼ばれている」
「あっ、聞いたことあるよ! 人間の血を吸う悪い鬼族なんだよね」
カナデが警戒するように目を細くした。
ただ、俺はリファがそんなことをするような子には見えない。
「そういう吸血鬼もいる。でも、それはほんの一部。ボク達、鬼族は基本的に穏やか。人間と仲良く暮らしている」
「そうなんだ……ごめんね、変なこと言っちゃった」
リファがウソをついてないと感じたらしく、カナデが素直に謝罪した。
気にしていないというように首を横に振りつつ、リファが話を続ける。
「ボクが暮らしているのは、東大陸に入って少ししたところにあるクリオスという街」
「クリオス……聞いたことがあるわ」
心当たりがあるらしく、タニアが口を開いた。
「街の規模としては、このホライズンとあまり変わらないらしいわ。ただ、人口の十分の一……ううん、もっと少なかったかしら? とにかく、鬼族が一緒に暮らしている、というのが特徴の街ね。鬼族の能力が活かされていることもあり、けっこう賑わっている……っていうのを聞いたことがあるわ。まあ、聞いただけで直接みたことはないから、今はどうなってるかわからないけど」
「ほむ。タニアは詳しいのだ」
「レインと出会う前はあちこち旅をしてたからね。その際、耳にしたことがあるの」
「タニアの言うことは正しい。ボクが説明すること、一つ減った」
人と最強種が共存する街か……
機会があれば見に行きたいな。
ただ、そんなのんびりした話はしていられないのかもしれない。
リファの顔はとても深刻なものだ。
「今、クリオスは……滅びようとしている」
「穏やかな話じゃないな……どういうことなんだ?」
「スタンピードが起きている」
「すたん……ぴーど?」
ニーナは知らないらしく、不思議そうに小首を傾げた。
ただ、他のみんなは知っている様子で、険しい顔になる。
「むう、スタンピードなどというものが起きているのか……」
「なに……それ?」
「スタンピード……いくつかの要因が重なり合い、魔物が爆発的に増殖する現象のことです。イナゴの群れが作物を荒らすように、スタンピードが発生したら周囲の街は壊滅してしまうとか」
「人間のことはよく知らぬが……天敵である魔物のことだから、我らでも知っているのだ」
「おー……ソラとルナ、博識……」
「ふふんっ、褒めるでない。褒めろ褒めろ」
「どっちですか」
「はい、二人はちょい静かにしとこなー」
話が逸れ始めたところで、ティナがストップをかけた。
さすがというか、タイミングが完璧だ。
「クリオスの近くでスタンピードが発生した」
「そんなことが……」
「にゃー……それでレインに助けを?」
「ううん、違う」
「え、違うの?」
「普通のスタンピードなら、ボク達でなんとかなる」
鬼族は最強種の一つで……
その力はさきほど証明されている。
あれでまだ本気ではないだろうから、全力を出せばそこらの魔物なんて敵じゃない。
スタンピードが起きて、数千、数万の魔物を相手にするとなると、さすがに苦戦はするだろうが……
話を聞いた限り、クリオスにはたくさんの鬼族がいる。
そこに人が協力すれば、犠牲ゼロというわけにはいかないが、スタンピードを制圧することはできると思う。
問題が問題だから、王都からも援軍が出るだろうし……
一般的に考えると、そんな答えにたどり着く。
しかし、リファがこうして助けを求めているということは、一般的ではない事態に陥っているのだろう。
「普通の、っていうことは……普通じゃない事態が起きているのか?」
「ん。スタンピードが連続して発生している」
「連続して……?」
普通に考えてありえない話だ。
スタンピードは十数年に一度の割合で発生すると言われている。
その前兆ならちょくちょくと起きるが……
嵐が自然と消滅するように。
前兆も前兆だけで終わり、スタンピードに進化することは少ない。
「一度目のスタンピードは一ヶ月前に起きた。制圧に三日間。それから一週間後、二度目のスタンピードが起きた。三度目のスタンピードは五日後」
「三度も起きているのか!?」
「ありえないのだ……」
「そんなことが起きる確率は、宝くじに連続で当選するようなものですね……」
俺だけじゃなくて、みんなも驚いていた。
スタンピードが連発するということは、それくらいに信じられない現象なのだ。
「ボク達鬼族も限界がある。人はなおさら。援軍も無限に来ない。防壁を築いて街を砦にしたけど、いつまで耐えられるか……」
ここで初めて、リファが不安そうな顔を見せた。
きっと、街に残してきた仲間や隣人のことを心配しているのだろう。
その気持ちはよくわかるつもりだ。
俺もついこの前、みんなと引き離されたからな……
大事な人が危険に晒されて、その顔が見えない時、とても不安になるものだ。
「あ……」
気がつけば身を乗り出すようにして、リファの頭を撫でていた。
「えと……ごめん、つい」
「ん……構わない。なんか安心する……もっと」
リファに求められて、もう少し頭を撫でた。
「ん、もう大丈夫」
リファが落ち着きを取り戻したところで、元の位置に戻った。
タイミングを見てタニアが口を開く。
「それでレインの噂を聞いて、援軍に?」
「ううん、違う」
タニアの問いかけに、リファは顔を横に振った。
「スタンピードを制圧することは、まだできる。今は余計な消耗を抑えるために、あえて籠城しているだけ。制圧するよりも、スタンピードが連発する原因を突き止めないといけない」
「そうね、もっともな話ね」
「ボクの仲間が、クリオスから離れたところに強力な魔力反応があることを突き止めた。一ヶ月前……最初のスタンピードが起きる時から反応があった。すごく怪しい」
「もしかして……リファは、人為的にスタンピードが起こされていると? そう考えているのか?」
「ん」
正解というように、リファはコクリと頷いた。
スタンピードを人為的に起こすなんて、普通に考えてありえないが……
でもそれを言うなら、スタンピードが連発していること自体がありえないか。
今回の事件は常識外のことが多い。
今までのことが当たり前と思わない方がいいな。
「ボク達は、強大な魔力を持つ者がスタンピードを起こしていると判断した。だから、討伐することを選んだ。でも……」
リファが暗い顔になり……
その顔を隠すようにうつむいた。
膝の上に置かれた手がぎゅうっと強く握られる。
「……仲間は帰ってこなかった」
「それは……」
「相手の正体は不明。ただ、ボク達最強種でも敵わない相手ということが判明した」
最強種に匹敵する存在なんて数えるほどしかいない。
伝説と言われているSランクの冒険者か……あるいは、それに匹敵する、世界で数人しかいないと言われている聖騎士か。
あるいは……魔族。
「仮だけど、ボク達はその敵を魔族と同等の力があると定めた。だから、ボクは助けを求めることにした」
「それで……俺のところに?」
「レインは魔族を倒したと聞く。だから……だから……」
リファの声が悲しみの感情に揺れた。
ずっと無表情だったのだけど……
その瞳が潤み、くしゃりと表情が崩れる。
「お願い……ボクの仲間を……家族を……友達を……助けて」
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