292話 鬼族の少女
『鬼族』という最強種がいる。
特徴として、皆、頭に角が生えている。
角の数は特に決まっているわけではなくて、1本の者もいれば10本の者もいる。
それ以外は普通の人間と変わりない。
同じように歳をとるし、同じように外見が変化する。
鬼族の特徴は……定まっていない。
猫霊族なら身体能力に優れている。
竜族ならバランスがいい。
神族は特殊能力を持つ。
……などなど、種族毎に特徴があるのが基本だ。
しかし、鬼族はそういう特徴がない。
力に優れている者もいれば、魔力に優れている者もいる。
他にはない特殊能力を持つ者もいる。
人間より強いことは間違いないが……
どの方面で優れているか、それは個人個人によって異なるのだ。
その理由は、鬼族の中でもさらに色々な種族が存在することにある。
一番シンプルなのは、名前そのままの通りの『鬼』だ。
角が生えていることが特徴で、猫霊族を凌ぐほどの豪腕を持つ。
珍しいところで『霊鬼』という鬼族もいる。
幽世から霊を呼び出すことができると言われている。
その他、羅刹、吸血鬼、夜叉などという変わり種もいる。
最強種の中で一番種類が多い。
竜族のように、レッドドラゴン、ブルードラゴン、イエロードラゴン……などなど、多々種類がいるような感じだ。
あまりにも多いものだから、まとめて『鬼族』というカテゴリーに収められている。
そんな鬼族と人間の関係は良好だ。
というか、最強種の中で一番仲が良いと言っても過言ではない。
なにしろ、大部分の鬼族は人間と共存しているのだ。
鬼族は主に東大陸で暮らしている。
街や村で人間と共存生活を送っている。
基本的に真面目で素直な性格の者が多いと言われている。
だからこそ人も鬼族を受け入れて、一緒に暮らしているのだろう。
そんな鬼族の女の子と、こんなところで出会うなんて……驚きだ。
鬼族は一度定住の地を見つけたら、そこからあまり動かない。
なので大半の鬼族は東大陸にいて……
この中央大陸に来ることはとても珍しいことだ。
「君は……鬼族なんだよな?」
「ん」
女の子がコクリと頷いた。
確認するまでもないけど、やっぱり鬼族だった。
ちょっと興奮してしまう。
変な意味ではない。
ビーストテイマーとして、珍しい種族と出会うとついついテンションが上ってしまうのだ。
「レイン、レイン」
脱衣所の扉の向こうからカナデの声がした。
「これ、ティナに頼まれて持ってきたんだけ……ど……?」
扉が開いて、服を手にしたカナデが現れた。
その目が丸くなる。
「……あっ」
カナデの視線が俺と女の子を交互に行き来する。
服を脱いだ裸の女の子。
そして、俺は男。
カナデはぽかんとして、次いでワナワナと震えて……
最後に顔を赤くして叫ぶ。
「にゃ、にゃにをしているのぉおおおおおっ!? というか私、こういう機会にばったり遭遇すること多くないかな!?」
俺は慌てて脱衣所を出た。
――――――――――
……リビングで待つこと三十分ほど。
「にゃー……おまたせ」
「ん」
カナデと鬼族の女の子が姿を見せた。
もちろん、鬼族の女の子は服を着ている。
服はカナデのものだろう。
何度かカナデが着ているのを見たことがある。
サイズは胸以外はぴったりなのだが…
胸元はやや足りないらしく、ダボダボになっていた。
風呂に入って温まったらしく、女の子はほんのりと頬が染まっていた。
肌は陶器のように白く綺麗だから、火照っているのがよくわかる。
髪も白い。
絹糸のようにサラサラで、リボンでまとめられていた。
まるで人形みたいに綺麗な女の子だ。
「事情はこの子から聞いたけど……レインも、もっと注意しないと! この子のはだ、は……裸を見ちゃうなんて!」
「面目ない……」
「私だって見てもらったことないのに!」
いや、見せる必要はないだろう……?
見て当たり前みたいな言い方はしないでほしい。
「体は温まったか?」
「ん……ありがと」
女の子がぺこりと頭を下げた。
あまり感情を表に出さない子なのだろうか?
表情がほとんど変わらない。
ただ感謝していることは伝わってきた。
たぶん、悪い子じゃないだろう。
「雨が止むまでウチでゆっくりするといいよ」
「……いいの? 迷惑じゃない?」
「ぜんぜん。な、カナデ」
「うんっ、お客さんは大歓迎だよー!」
よくよく考えてみたら、お客さんは初めてかもしれない。
家は購入したけれど、あちらこちらに出かけているし……
誰かを迎えるような機会はなかなかないんだよな。
「ありがと」
女の子が再び頭を下げた。
「ボク、リファ。鬼族。15歳。よろしく」
「俺はレイン・シュラウドで、こっちは……」
「カナデだよ。見ての通り猫霊族なんだ。よろしくね」
「ん、よろしく」
「他にも仲間がいるんだけど、まあ、それは機会があれば紹介するよ」
「ウチのことも紹介してやー」
壁をすり抜けてティナが現れた。
「びっくりした」
淡々とした口調でリファが言う。
本当に驚いているのかよくわからない。
「ウチは幽霊のティナ・ホーリや。よろしくやでー」
挨拶をして、再び壁をすり抜けてどこかへ行き、また戻ってきて……
リファをもてなすためのお茶や菓子を用意してくれる。
そのためにカナデに服を任せて、色々と準備をしていたらしい。
「おー」
テーブルの上に並べられたお菓子と茶を見て、リファが目をキラキラとさせた。
こういうところはちょっと子供っぽい。
「食べていいの?」
「どうぞ」
「ボク、お金ないよ?」
「そんなものとらないよ」
「……いただきます」
ぺこりと頭を下げてから、行儀よくお菓子と茶に手をつける。
礼儀正しい子だ。
「おいしい」
「ありがとなー。お菓子はウチの手作りなんやで」
「ティナはお菓子作りが上手なんだよ」
「おー、すごい」
あくまでも淡々とした口調で褒める。
適当に言っているわけじゃなくて……
ただ単にそういう性格なのだろう。
本気ですごいと思い、喜んでいることはその目を見ればなんとなくわかる。
あとは、お菓子を食べるペースだろうか。
あっという間に半分になってしまう。
それだけ気に入ったのだろう。
「街は俺が案内するよ。雨が止んだら宿を回って、一応、冒険者ギルドにも寄っておこうか」
「ありがと、助かる」
「にゃん? そういえば、リファはどうしてこの街に?」
「人を探してる」
「へー、そうなんだ」
「こんな雨の中、傘を持たずに歩いていたから気になって……それでウチにつれてきたんだよ」
「そういうことだったんだね。私てっきり、レインが無自覚にたらしたのかと」
「そんなことはしないぞ?」
「にゃー……自覚してないし」
なぜか頬を膨らませるカナデだった。
「ところで、誰を探しているんだ?」
もしかしたら俺の知り合いかもしれないと思い、そんなことを尋ねてみた。
「英雄を」
「英雄……?」
「魔族を倒して、悪魔を退けて、勇者の悪行を白日の元に晒した……人呼んでホライズンの英雄を探している」
……俺のことだった。
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