291話 雨に濡れた少女
今日はあいにくの天気だった。
大降りというほどではないが、朝から雨が降り続いていて止むことがない。
こんな日は家でのんびりしたいけれど、残念ながらそうはいかない。
調味料が切れてしまったので、買いに行かないといけないのだ。
「レイン、どこに行くの?」
「お出かけなのか? 楽しいところなのか?」
リビングのソファーでゴロゴロしていたカナデとルナがこちらを見た。
「買い物だよ。調味料がなくなったんだ」
「なら、ついでに今日のごはんの材料も買おうよ。私、お魚がいい!」
「我は野菜がいいぞ!」
「そこら辺は料理担当のティナと相談してくれ」
我が家のシェフ長はティナなので、俺がメニューを決めることはできない。
ティナは優しいのであれが食べたいと言えば、無茶なものでない限りはだいたいリクエストに応えてくれる。
「一人で大丈夫? 私も一緒に行こうか?」
「調味料くらいだから一人で問題ないさ。雨だし、カナデ達は家でゆっくりしててくれ」
「雨はイヤだなー……」
「なんだ、カナデは雨が苦手なのか?」
「猫は濡れるのが嫌いなんだよー」
「風呂は平気なのに?」
「お風呂は温かいから気持ちよくて好き」
「よくわからぬぞ……」
二人のやりとりを見ていると、なんとなくほっこりした。
平和な日常が戻ってきたなあ、という感じがする。
「じゃ、いってくる」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃいなのだ」
二人に見送られて俺は家を後にした。
――――――――――
傘を差しながら雨の街を歩く。
雨だから開いている露店は少ない。
商店まで足を運ばないといけなくなったが、代わりに質の良い調味料を手に入れることができた。
「ついでだから、甘いものでもお土産に買っていこうかな?」
みんなの喜ぶ顔が見たいと思い、そんなことを考える。
露店はやっているかわからないから……
持ち帰りをやっている甘味処に行ってみよう。
甘味処は商店が並ぶ通りにあるから、すぐに移動することができた。
雨のせいか客が少なく、すぐに注文が通る。
人数分のバタークリームサンドを手に、店を後にした。
みんな、喜んでくれるといいな。
ルナは甘いものとか好きだから、きっと笑顔で食べてくれるだろう。
ニーナもうれしそうに……
「ん?」
みんなのことを考えながら歩いていると、ふと、表通りを外れた細い道に人影があることに気がついた。
それなりに雨が降っているのだけど、傘を差していない。
代わりにローブのようなもので頭まで全身をすっぽりと覆っている。
「なんだろう……?」
見知った顔じゃない。
ローブで隠れていてよくわからないけど、知らない相手ということは間違いないだろう。
それなのに……なぜか気になる。
その人から目を離すことができなくて……
どうにもこうにも、この場を立ち去ることができない。
「……ちょっと声をかけてみるか」
これもなにかの縁だろう。
そう思いながら、ローブの人のところに歩み寄り、そっと傘を差し出した。
「こんなところで傘も差さずにじっとしていたら、濡れて風邪をひくよ」
「……?」
ローブがわずかに揺れた。
首を傾げたのかな?
「なにをしていたんだ?」
「……人を探してた」
小さな声でそう言う。
とても綺麗な声だった。
鈴が鳴るように透き通る声で……
聞いていると、大げさかもしれないが心が洗われるような気がした。
それと、声からしてたぶん女の子だ。
俺よりも少し下……かな?
声だけの判断なのでなんともいえないが、そんな印象を受けた。
「人を探すなら、こんなところにいないで冒険者ギルドとか宿を回るとか、そうした方がいいよ」
「迷った」
なるほど。
だから、こんなところで途方に暮れていたのか。
「えっと……」
このまま案内してもいいんだけど……
その前に、濡れたローブやらをなんとかした方がよさそうだ。
このままだと風邪を引いてしまう。
「俺が案内するよ」
「ホント?」
「ただ、その前に濡れたローブをなんとかした方がいい。近いからウチに来る?」
……あれ、ちょっと待てよ?
これだとまるでナンパをしているみたいじゃないか。
こんなことをしたら、この子を警戒させてしまう気が……
「ん」
ローブの子は小さく頷いた。
どうやら信じてくれたみたいだ。
「えっと……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。それじゃあ、行こうか」
ローブの子を連れて家に帰る。
「ただいまー」
声をかけるけれど、特に反応はない。
出かける前にリビングにカナデとルナがいたけれど、その二人も見当たらない。
昼寝でもしているのかもしれないな。
「さ、入って」
「おじゃまします」
ローブの子はためらうこともなく、すんなりと家に入った。
もしも俺が悪人だったら、どうするつもりなのだろうか?
無防備というか無警戒というか……
この子のことが心配になってしまう。
「くしゅんっ」
ローブの子がくしゃみをした。
「大丈夫か?」
「ん、平気。少し寒かっただけ」
「とにかく着替えるといい。あと、よかったら風呂も入っていくか?」
「お風呂、あるの?」
「湯を張るのに少し時間はかかるけどな」
「ありがと」
風呂に入る……ということでいいんだよな?
口数の少ない子だから、たまにだけどどう判断していいか迷ってしまう。
「おっ、レインの旦那」
奥からふわふわとティナが現れた。
「おかえり、頼んでた調味料はどうや?」
「はい、これ」
調味料が入った袋をティナに渡した。
「おおきに。って……なんや、その子?」
「道に迷って雨に濡れていたから、つい」
「猫犬のような感覚で人を拾わんといて」
「ごめん」
「ま、それもレインの旦那らしいか」
「この子の着替えを頼めるか?」
「ほい、任せとき」
ティナがふわふわと奥に消えた。
そんなティナを見て、ローブの子は目を丸くしていた。
「今の……幽霊?」
「ああ。でも、俺の大事な仲間なんだ」
「幽霊が仲間……もしかして?」
「ほら、まずはそのローブをなんとかしよう」
ローブの子を脱衣所に連れて行く。
「ここが脱衣所で、奥が風呂。ちょっと待ってて」
浴室に移動してお湯を入れる。
10分もすればいっぱいになるだろう。
「少し待てばお湯がいっぱいに……いっ!?」
浴室から脱衣所に戻ると……
裸の女の子がいた。
その足元には濡れたローブが。
裸の女の子がローブの子の中身なのだろう。
「ちょっ……まだ俺がいるのに脱ぐなんて!?」
「ん、問題ない」
「大アリだから! って……」
ふと、俺の視線が彼女の頭に固定される。
小さな角が二本、額の上の辺りから生えていた。
それは……最強種『鬼族』の証だ。
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