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289話 それぞれの思惑

 その日は、街の近くの平原に現れたミノタウロスの討伐という依頼を請けた。

 家の用事もあるため、カナデとタニアの三人で討伐をすることにした。


 ミノタウロスというのは、猛牛が二足歩行して武器を持ったような、そんな魔物だ。

 Bランクにカテゴリーされていて、かなりの強敵として知られている。


 ただ……


「カナデっ、そっちに行ったぞ!」

「任せて!」


 ミノタウロスは巨大な斧を振り下ろすが、カナデに当たることはない。

 カナデの姿は残像となり、斧はなにもないところを通過した。


「うにゃんっ」


 瞬間移動をしたように、カナデがミノタウロスの背後に回り込んだ。

 膝の裏に強烈な一撃を叩き込む。


 二足歩行しているからなのか、ミノタウロスの急所も人と同じだ。

 ミノタウロスは悲鳴をあげて膝をついた。


「これで……」

「終わりよっ!」


 タニアが地面を蹴り、飛び上がる。

 そのまま膝でミノタウロスの顎を砕いた。


 さらに、宙でくるりと回転。

 尻尾を薙ぎ払い、ミノタウロスの顔を痛烈に打つ。

 ゴキリと首の骨が折れる音がして、ミノタウロスは地面に沈む。

 ほどなくしてその体が消失して魔石に変わる。


「ふふんっ。あたしにかかれば、こんなものね」

「あぁ!? 私がトドメを刺そうと思っていたのに!?」

「早いもの勝ちよ」


 Bランクのミノタウロスも、カナデとタニアにかかれば赤子のようなものだった。

 以前はもっと苦戦していたと思うが……

 色々な経験を積んだからか、みんな、かなり成長していた。

 俺も負けていられないと思う。


 ただ……


「ねえねえ、レイン。タニアに何か言ってよ。私の手柄を横取りするんだよー」

「レインならわかってくれるわよね? あたしが悪いわけじゃなくて、あのトロトロ猫が悪いって」

「トロトロ猫!?」


 二人が話しかけてくるものの、今の俺は別のことを考えていた。


「レイン?」

「……え?」

「どうしたの、ぼーっとしてるけど……考え事?」

「あ、いや……問題なく討伐が終わったから、ちょっと気が抜けたのかもしれない。すまない」

「もう、しっかりしてよね。油断したらいけないって、前にレインが言ったことじゃない」

「そうだよな、悪い」


 謝罪をしつつも、やはり、別のとあることを考えてしまう。


 ……先日、精霊族の里でアルさんから聞いた話は、実は二つではなくて三つだった。

 三つ目の話は不確かな内容だったため……また、今すぐにどうこうという問題ではないため、ひとまず後回しにしていたんだ。


 その三つ目の内容というのが……


「……イリス……」


 かつて、敵対した最強種。

 何度も言葉を届かせて、ようやくわかりあえたと思ったけれど……

 そこで最期が訪れた。


 そう思っていたのだけど……

 実はそうではないかもしれない、という可能性が出てきた。


 アルさんの一件で、不思議に思っていたことがある。

 どうして、アルさん達がカナデ達が処刑されそうになったことを知っていたのだろう?


 ミルアさんなんかはタニアを溺愛しているが、24時間、見守っているわけではない。

 話が広がれば、そのうちアルさん達も知ることになるだろうが……

 それにしては動き出すのが早かった。


 そのことを問いかけると、アルさんはこう言った。

 「里の者に天族の少女が接触して、そこから情報がもたらされたのじゃ」……と。


 天族は絶滅していて、生き残りはいないはずだ。

 俺が把握していないだけで、生き残りの天族がいたのか。

 あるいは……イリスが生きていたのか。


 できることならば、もう一度、イリスと会いたい。

 そして……


「……今度は一緒に笑えるような、そんな関係になりたいな」




――――――――――




「……ただいま戻りましたわ」

「おかえりなさい」


 屋敷に戻ったイリスは、そのままリビングへ移動した。

 すると、イリスが帰ることを予期していたかのように、紅茶とお菓子が用意されていた。


「わたくしのこと、監視していましたの?」

「いいえ。ただ、そろそろ戻ってくるのではないか……と思いまして。予想よりは遅かったため、紅茶が冷めてしまいましたが」

「これで構いませんわ。疲れたので、今は冷たい紅茶が飲みたい気分ですの」


 イリスは指先で宙をなぞる。

 すると、小さな氷が召喚されて、ティーカップの中にぽとんと落ちた。

 ティースプーンでかき混ぜて、アイスティーにする。


「ふぅ、落ち着きますわ」

「ただのおつかいでしたが……そんなに疲れたのですか?」

「あのですね……かつてわたくしを封印した相手がいるところに、言伝を伝えるだけとはいえ赴くなんて、精神的に疲弊するに決まっているではありませんか。その言伝の内容も、ただただ相手をかき乱すだけのもの。あのようなことをする意味がありまして?」

「もちろんです。うまくいけば、最強種と人間の全面戦争……なかなかに楽しいと思いません?」

「その目論見は外れたみたいですけどね」

「あら? そうなんですか?」

「気になり、少し様子を見ていましたが……レインさまが間に入り、収めてしまいましたよ」

「そうですか、残念ですね」


 残念と言いながらも、リースに気落ちした様子はない。

 まるで失敗するのがわかっていたかのような態度だ。


 イリスは怪訝そうに尋ねる。


「これも予期していたのですか?」

「ある程度は」


 涼しい顔をしてリースが答えた。


「納得いきませんわ。予期していたのなら、どうして手を打たなかったのですか?」

「大して期待していないし、失敗したらしたらで構いませんので」

「……あなた、何がしたいのですの?」

「もちろん、人間を滅ぼすことですわ。魔王さまの意思を、願いを叶えることこそが、私達魔族の使命ですからね」

「そのわりに、やることがいまいち甘い気がしますが……」

「まだ本気になるわけにはいきませんからね。以前にも言いましたが、魔王さまが休眠期にあるうちにやりすぎては、流石に怒られてしまいますから。成功率の高くない策を実行して……うまくいけば、まあ、それはそれでよし。ダメだとしても、相手をかき乱すことができる。そのようにして、今は、あちこちに種を蒔いている最中なんですよ」

「……よくもまあ、そこまでやれますわね」


 リースはゲームをするような感覚で言う。

 その態度に、イリスは危ういものを感じた。


 リースはリスキーなゲームを楽しんでいるように見えた。

 例えるなら、目隠しをして命綱をつけず、崖の上で綱渡りを楽しむような……

 危険とスリルを味わい恍惚に浸る。

 行き着く先は……破滅以外にありえない。


 そんなリースに付き合うなんて論外だ。

 かつてのイリスは破滅思考に囚われていたが……

 レインと出会い、前を向くようになった。


 どのようにして生きるか? それはまだ決めかねているが……

 少なくとも命を粗末にするつもりはない。


 どうするべきか?

 イリスは迷う。

 行く当てがないとしても、今すぐにリースの元を去るのが正しいのだろう。

 助けてもらった恩なんて気にすることはない。

 元々、敵なのだから。


 とはいえ……と、考え直す。


 せっかくリースの方から懐に招いてくれているのだ。

 どうせなら、得られるもの全部得てしまうのはどうだろうか?

 例えば、リースの今後の動きや、魔族全体の動向など。

 それらの情報を集めて……そして、レインに渡してもいいかもしれない。


 イリスとしては、もう一度、レインに会いたいと思う。

 ただ、どのような顔をして会えばいいかわからない。

 今更、とも思う。

 ならば、魔族の情報を手土産にすればいいのではないか?


 ふと、そんなことを思う。


「どうしましたか?」

「……いえ、なんでもありませんわ」


 人間に対する復讐はやめた。

 ただ、昔のように人間の味方をするつもりはない。

 けれど……レイン個人の味方になってもいいような気がした。


 まだ本決まりというわけではないが、イリスは己の進む道を少しだけ定めた。


「それで……わたくしの仕事はこれで終わりなのですか?」

「あら。もしかして、私達の仲間になる覚悟が?」

「いいえ、それはまだなんとも。ただ……どうするか見極めるためにも、もう少し、協力してもいいと思っただけですわ」

「歓迎すべきことですね。しばらくイリスさんの力に頼ることはありませんが……その時はお願いします。私は私で、別のことで忙しいので」

「なにか新しい悪巧みを?」

「ええ。勇者を完全に堕として、私達魔族の味方になってもらおうかと」

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