286話 こっそりと……
陽だまりの泉。
そう呼ばれている休憩所にレインとユキの姿があった。
二人は色々な話をして……
先にユキが立ち去り、少しした後、レインも立ち去る。
……その背中をこっそりと見ていた影が二つ。
「……我が姉よ。我らのことはバレていないか?」
「大丈夫だと思いますよ。二人共、ここが精霊族の里だからなのか、周囲に大して気を配っていなかったみたいなので」
なにかしら用事があると言って宴会場を抜けたレインのことを、ソラとルナはこっそり後をつけていた。
理由は単純明快。
気になるから。
レインのプライバシーをまったく配慮していない辺り、この双子らしいとも言えた。
本当のところ、ソラは反対したのだけど、ルナに強引に押し切られてしまった。
レインの内緒話を知りたくないか?
と言われてしまったら好奇心を押さえることはできず、一緒に覗き見ていた、というわけだ。
「それにしても……まさか、ユキがあのような話をレインにしていたなんて。ちょっと予想外ですね」
「うむ。口ではあれこれとうるさく言っていたが……本音では、我らのことを心配していたのだな。典型的なツンデレっ子ちゃんなのだ」
「からかうようなことを言ってはいけませんよ。ユキなりに、ソラ達のことを心配してくれたのですから」
「でも、ちと余計な心配ではないか? 危険だから我らを里に帰らせろとか、ちょっとおこがましいのだ。我らのことは我ら自身で決めるのだ。もう子供ではあるまいし」
「そうですね」
ひとしきりユキに対する感想、思いを口にして……
それから、双子は口を閉じる。
それぞれ考えることは、レインのことだ。
「それにしても、レインのヤツ……まさか、あのような答えを出すなんて。我はびっくりなのだ」
「そうですね。ソラのこともルナのことも守るなんて……こう言ってはなんですが、ちょっと理想的すぎますね」
「でも、そこがレインの良いところなのだ。現実だけを見て諦めるよりも、夢を見て努力し続ける方がかっこいいのだ」
「そうですね、かっこいいですね」
「うむ、かっこいいのだ」
なにかを考えているような顔になり……
そこで、双子の頬が朱色に染まる。
「ルナ、顔が赤いですよ」
「そういうソラも顔が赤いのだ」
「仕方ないじゃないですか。ソラのことを絶対に守るとか、そんなかっこいいことを言われたら……ドキドキしてしまいます」
「うむ……我も、なんていうか……女としての本能がウズウズと疼いているのだ」
ソラとルナは……完全に恋する少女の顔になっていた。
そんな互いの顔を、ちらりと見る。
双子なので、ほぼほぼ顔は同じだ。
まるで鏡を見ているような気分になり、妙に恥ずかしくなってしまう。
ついついという感じで、ソラとルナは顔を明後日の方向に逸らした。
そのまま話を続ける。
「……なあ、我が姉よ」
「なんですか?」
「今、ソラが何を考えているか、当ててやろうか? なのだ」
「ほう。ルナは、ソラの心が読めるようになったと?」
「今のソラに限れば簡単なのだ。ズバリ、レインのことを考えているな?」
「はい、正解です」
「おう、簡単に認められたのだ……」
「そういうルナも、レインのことを考えていますね?」
「そ、それは、えっと、その……はふぅ」
ルナがあたふたと慌てた。
普段の不遜な態度はどこへやら、照れる乙女そのものだ。
普段の言動は破天荒なところはあるが……
ルナは基本的に乙女なのだ。
そういうところを表に出さず、不遜な言動でごまかしているため、なかなか気づかれにくいが……
姉であるソラにはお見通しらしい。
「その……我が姉はレインのことを考えていると言ったが、それは、どのような気持ちなのだ? どんな風に考えているのだ?」
「もちろん、好き、という風に考えていますよ」
「おうふっ」
直球のソラの言葉に、ルナが奇妙な声をあげた。
他人の好意の表明なのに、自分のことのように恥ずかしくなってしまったらしい。
「元々、ソラはレインのことを好ましく思っていましたが……今回のことで、確信を持つことができました。ソラは……レインが好きです。愛しています」
「おおう……そ、ソラは大胆なのだ……」
「そういうルナはどうなんですか?」
「わ、我か? 我は、そのぉ……」
もじもじと恥じらうルナ。
ここに他のメンバーがいたら、どうしたの!? と驚いていたかもしれない。
茶化すくらいの話をする分には、何も思うところはないが……
こうしてマジものの恋愛話となると、ルナは照れてしまう。
恥じらってしまう。
なんだかんだで乙女なのだ。
「……我も、その……好き……なのだ」
かぼそい声で、顔を真っ赤にして言う。
そんな妹を見て、ソラは優しく笑う。
「ふふっ、ルナもソラと同じ気持ちなんですね」
「それは、だって……あんなかっこいいことを言われたら、惚れてしまうのだ。仕方ないのだ……ソラと同じように、元々気になっていたし……今回の件で、完全にトドメを刺されてしまった感じなのだ」
「そうですね、さきほどのユキとの会話は反則ですね」
「そうなのだ。あれで惚れない方がおかしいというものなのだ!」
「では、これでソラ達姉妹は、共にレインに惚れた者同士ということになりますね」
「あっ……」
「さしずめ、ソラとルナは、今日からライバルでしょうか?」
「むむむっ」
ルナがいつもの調子を取り戻しつつあり、難しい顔になった。
「我はソラと争わなければならないのか……?」
「ソラだけではないと思いますよ。カナデと……あと、たぶん、タニアもレインのことを好きになっているかと」
「むぅ……言われてみると、そんな雰囲気なのだ。ライバルが三人も……ニーナとティナはどうなのだ?」
「ティナは……ちょっと悩ましいところですね。好意を抱いているのは間違いないと思いますが、それが恋愛感情なのかどうかは……同じ意味で、ニーナもわかりません。家族に見せる親愛なのか、特定の人に見せる愛情なのか……謎ですね」
「我としては、そのうち、ティナもニーナもレインのことを本気で好きになるような気がするのだ……そうなると、ライバルは五人に……むむむ! 今のうちに勝負をつけないといけないのではないか?」
「ほう……ルナは、ソラに勝つつもりですか?」
ソラは余裕の笑みを浮かべていた。
ルナなんて相手にならない、と言っているかのようだ。
そんな姉の態度に触発されるように、ルナは頬を膨らませて、むむむとやる気を出す。
「我が姉が相手でも、我は負けないのだ。レインの心は我が射止めてみせるのだ」
「ソラも負けませんよ。ルナにも……カナデにもタニアにも負けません。レインと、こ、恋人になってみせます」
「……今、照れたな?」
「気のせいです」
「くふふっ。我が姉よ、そう照れるでない。さきほどからずっとクールだったから、こと、マジものの恋愛に限ればソラの方が上ではないかと焦っていたが……なるほどなるほど。どうやら、そんなこともないみたいなのだ。これなら、我の勝利もありえるな」
「むむむっ」
立場が逆転して、ルナは実に楽しそうに笑う。
その笑みは、ちょっと悪役のようにすらなっていた。
マジものの話には弱いというところはあるが……基本的に周囲をかき乱すトリックスターであり、いたずらっ子なのだ。
「ソラ」
ルナが手を差し出した。
「一緒にがんばりましょうね」
「うむ!」
互いの気持ちを知ることで姉妹としての仲も増したらしく、ソラとルナは星のように笑顔を輝かせていた。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




