285話 和解。そしてもう一つの……
アルさん達は言った。
国がきちんと誠意を見せるのならば、考えないこともない……と。
なので、その通りにすることを考えた。
精霊族の里は色々な場所と繋がっている。
距離という概念は適用されず、移動には転移魔法が用いられている。
その道を利用すれば、王都まで一日とかからずに移動することができる。
ソラとルナに頼んだ内容は、王都に行ってもらい、サーリャさまを連れてきてもらうこと。
面倒と迷惑をかけてしまい、申し訳ないのだが……
サーリャさまなどの王族が動いてもらわないと、もはや、アルさん達を止めることはできないと判断した。
話はうまい具合に進んだらしく……
ソラとルナは、無事にサーリャさまを連れてきてくれた。
その後、国と最強種達の話し合いが行われて……
宴会が開かれた。
うん、何を言っているかわからないと思う。
俺もわけがわからない。
でも、本当のことだ。
目の前で、現在進行形で起きている出来事なんだ。
「うはははっ、いいぞ。もっと飲むのじゃ、ほれ」
「はい、いただきますね」
アルコールで顔を赤くしたアルさんが、隣に座るサーリャさまに酒を注いでいた。
サーリャさまはほんのりと頬が染まり、そこそこ酔っているみたいだ。
ただ、まだ余裕はあるらしく、コクコクとマイペースに酒を飲んでいく。
「おおっ、いい飲みっぷりなのじゃ。妾も負けていられないな! 精霊族は酒で負けてはならぬのじゃ!」
よくわからない理屈を持ち出して、アルさんも酒を追加で飲む。
水みたいに飲んでいるが、大丈夫なのだろうか……?
精霊族は酒に強いみたいだけど、それでも、かなりの量を飲んでいると思うが。
「にゃー……レイン。なんで、こんなことになっているのかな?」
「ごめん、俺もわからない」
「あはは、だよねー」
同じテーブルを囲むカナデは、苦笑しつつ、酒を一口飲んだ。
……サーリャさまとアルさん達の話し合いは、当人達だけで行われた。
俺達は話し合いが行われている部屋の外で待つしかない。
話し合いは数時間に及んだ。
紛糾しているのか? 平行線を辿っているのか?
長時間続いていることで、色々と悪い想像をしていたのだけど……
蓋を開けてみると、これ以上ないほどに意気投合するという結果に。
サーリャさまは王から預かった書簡を渡して、それと同時に国として正式に謝罪をした。
アルさん達はそれを受け入れて、攻め込むのを中止にした。
それから友愛の証として宴が開かれることになり……
後は見ての通りだ。
みんな仲良く、酒を飲んでいる。
「ま、うまくいった、ってことでいいんじゃない?」
「ふふんっ、我のおかげなのだ!」
「なにをバカなことを言っているんですか。王女を連れてくるという策を考えたレインのおかげでしょう。主の手柄を横取りするような真似はいけませんよ」
「むう。ちょっとくらい褒めてもいいではないか。なあ、ニーナもそう思わないか?」
「……あふぅ」
「む? ニーナよ、なぜ顔を赤くしている。照れているのか? 我はそんなに恥ずかしいことを言った覚えはないぞ?」
「って……これ、お酒じゃない!」
タニアの言う通り、ニーナは酒の入ったグラスを手にしていた。
顔を赤く、瞳をぽーっとさせて……
ふらふらと頭を前後に揺らしている。
「まいったわね。間違ってお酒を飲んじゃったみたい」
「大丈夫なん?」
「ニーナも最強種だから、酒を飲んでも悪影響はないわ。ただ、まだ子供だから耐性はないし、こうして簡単に酔っちゃうの」
「あふぅ……ふわふわ、するの……にゃあ」
「私の決め台詞がとられた!?」
「決め台詞だったのですか……」
「ニーナ、それはもう飲んではいけないぞ。ほら、横になるといいのだ」
「んぅ」
みんなでニーナの介抱をする。
当の本人はほろ酔い気分で気持ちよさそうだった。
「カナデ」
「にゃん?」
「ニーナのこと、頼んでもいいか? 俺はちょっと用事があるんだ」
「うん、いいよ。任せておいて」
「ありがとう」
俺は宴会場を後にした。
そのまま家が立ち並ぶ区画を通り過ぎて、豊かな緑が広がる静かな広場に移動した。
生い茂る葉で囲まれていて、中央に澄んだ泉がある。
軽く覗き込んでみると、驚きの透明度で、湖底までしっかりと見えた。
「来てくれたのね」
「そういう約束だから」
ユキが現れた。
宴会が始まる前……時間を作り、ここに来るように頼まれていたのだ。
「それで……答えは?」
回りくどい言い方は好まないみたいだ。
ユキは直球で尋ねてきた。
俺の答えは決まっている。
「ソラとルナをこの里に戻す、っていう話だけど……」
「……」
「断るよ」
わりとハッキリと言うことができたと思う。
たったの一言ではあるが、俺の意思を伝えることができたと思う。
「……そう」
ユキは怒るわけでもなく、驚くわけでもなく、ただただ静かに、そう一言つぶやいた。
「あなたがそう決めたのなら、これ以上、私が口を出すことはできないわ。残念」
「悪いな」
「どうしてそういう考えに至ったのか、よかったら聞かせてくれる?」
「俺はわがままなんだ」
「えっと……どういう意味かしら?」
「要約すると、これからもみんなと一緒にいたい」
可能な限りわかりやすく、かつ、誤解されることのない言葉で告げた。
ユキの目が丸くなる。
「……え? それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「ちょっとまって……私、色々と言ったわよね? 警告したわよね? あなたと一緒にいることで、ソラとルナが危険な目に遭うかもしれない、って。それなのに、対する答えが一緒にいたいから、って……え? それだけ?」
ユキは頭が痛いというような感じで、こめかみの辺りを押さえていた。
気持ちはわからなくはない。
俺の答えって、適当かつ、身勝手極まりないものだからな。
「でも、それ以上に説明しようがないんだ。ホント、それだけなんだよ。俺は、ソラとルナと一緒にいたい」
「……」
「これまでも、これからも。一緒に笑い、一緒に泣いて、一緒に苦しみ、一緒に楽しみ……ずっと、そんなことをしていきたいんだ」
「そのために、ソラとルナを危険な目に遭わせてもいいと?」
「大丈夫だ」
「なにがよ?」
「俺が守る」
心からの決意を言葉にした。
みんなにはみんなの意思がある。
個人の行動を決めるのは俺ではなくて、みんなだ。
その先の責任について負う必要はないし、それはおこがましいことだ。
それでも、やはり、俺と一緒にいることで生じるかもしれない危険について、いくらか責任はあるのだと思う。
だから俺は……
どんなことが起きても守ると誓った。
もう二度と傷つけられないように、守ると誓った。
そう……決めた。
「呆れた……それ、理想論でも夢でもなんでもないわ。ただの現実が見えていない、痛い子じゃない。どんなことからでも守るなんて、不可能だわ」
「かもしれない。でも、やる前から諦めるつもりはない」
「あのね……」
「さすがに、道を歩いている時の転ぶのさえ守れ、っていうのは無理だけどさ。でも、王都の一件のような事件が起きた時は、どんなことをしても、なにがあっても守るよ」
「……言い切るのね。それ、どれだけの覚悟があるのかしら?」
「俺の命を賭ける」
ユキがじっと俺の目を見つめてきた。
そのまま時間が経つこと少し……
ふっと、小さくユキが笑う。
「どうやら本気みたいね」
「もちろん本気だ」
「仲間のために命を賭けられるなんて、そんなヤツ、人間にいるわけがないって思っていたけど……あなたは違うみたいね。ウソは0%、本気が100%。まったく、頭がおかしいんじゃない?」
棘のあることを言いながらも、ユキは楽しそうに笑っていた。
今までにあった険はとれて、年相応の女の子らしい顔をしている。
くるりと、ユキが背中を見せた。
そのままどこか歩いていく。
「おい、ユキ?」
「あなたのこと、認めてあげる。だから……今の言葉、ちゃんと守りなさいよ?」
「もちろん」
「じゃ、またね」
ユキはひらひらと手を振り……
そして、俺は一人になった。
「ふう」
吐息をこぼして、体から力を抜いた。
緊張したなあ……
でも、認めてくれてよかった。
今の言葉がウソにならないように、これからもがんばっていこう。
改めて、俺は強く誓うのだった。
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