283話 母親達
風呂から上がり、あてがわれた部屋に戻る。
今は一人でゆっくりと考えたい。
アルさんの言葉を思い返しながら、改めてみんなのことを考えようとするのだけど……
「こんばんは、レインさん」
「やっほー、お邪魔しているよ」
「スズさん!? ミルアさんも……」
なぜか、スズさんとミルアさんの姿があった。
二人も風呂上がりらしく、ほかほかしていた。
あと、石鹸のいい匂いがする。
見た目はカナデ達よりも幼いというか、普通の女の子と変わらないから……
そういう無防備なところを見せられると、ちょっと困る。
「どうしたんですか? 俺に用でも?」
「ええ。レインさんを説得しようと思って」
「説得?」
それは俺達の役目じゃないか?
「レイン君は、私達が王都を攻めることに反対なんだよね?」
「え、ええ。それは、もちろん」
その点については何度も話をして……
そして、説得することができず、話は平行線で終わっている。
「もしかして、考えを改めてくれる気に?」
「ううん、そんなことないよ」
「というよりは、レインさんを説得した方がいい、という結論になったんですよね」
「えっと……?」
二人が何を求めているのかわからない。
俺はちょくちょく鈍感と言われるが、この時ばかりは、その適応外だと思う。
……だよな?
「もうちょっと、詳しい話をしてくれませんか? よくわからないんですけど……」
「つーまーりー」
「こういうことですよ」
「うわっ」
スズさんに引っ張られてバランスを崩してしまう。
俺の頭は、スズさんとミルアさんが並んで座る、その間に……
つまり、二人の太ももの上に乗っかってしまう。
スズさんとミルアさんによる、ダブル膝枕だった。
「あ、あの……これは?」
「ふっふっふ、レイン君を懐柔するために、私達、大人の魅力でメロメロにしてあげようと思って」
「思いまして」
二人の姿格好では、大人の魅力というものは出にくいと思う。
とはいえ、そんなことを口にできるはずもなく、感想は胸の中に留めておいた。
それと、懐柔という言葉で、二人が考えていることがなんとなくわかった。
「多分、ですけど……二人は俺に味方になってほしいんですね? 王都を攻めることを止めるのではなくて、逆に賛成してほしい。だから、説得」
「うんうん、そういうことだよ! レイン君、頭いいねー」
「なので、私達でこうして接待をしようかな……と」
「そんなことはしないでいいんですけど……」
起き上がろうとするものの、スズさんにしっかりと頭をおさえられていて、逃げることができない。
最強種の猫霊族で、さらにその頂点に立つスズさんの力に抗うことなんて不可能。
俺は諦めて、二人が飽きるのを待つことにした。
「えへへ、どうどう? 私達の膝枕、気持ちいい?」
「どうですか、レインさん?」
「えっと……はい。素直に気持ちいいです」
温かくて柔らかい膝枕。
それと、優しく頭を撫でられる。
二人の見た目は幼いけれど、しかし、その仕草は紛れもない母のもので……
亡くなった母さんを思い出して、ちょっとだけ涙腺が刺激された。
とはいえ、浸っているわけにはいかない。
二人とじっくり話ができるチャンスだ。
こんな体勢ではあるが、説得をしてみようと思う。
「あの……スズさんとミルアさんは、どうしても王都を攻めるつもりですか?」
「んー……どうしても、というわけではないですけどね。ただ、カナデちゃん達がいじめられたのに、それに対して何もしないなんてこと、できませんよ」
「かわいいタニアちゃんをいじめた勇者とか騎士とかは、フルボッコだよっ!」
「私達、最強種と人間は国交を結んでいるわけではないですけど……むしろ、私達は国ですらないですけど……それなりの付き合いはありますからね。ここで何もしないで静観してしまうと、私達そのものが低く見られてしまうかもしれません」
「そんなことはダメなんだよ! また、同じようなことが起きるかもしれないからね。しっかりと釘を刺しておかないと」
なるほど、もっともな話だった。
極端な話だけど、人っていうものは失敗をしないと学ばない。
痛い目に遭うことで、もう二度とあんな目に遭いたくないと力と知識を蓄えて、成長していくものだ。
逆に言うなら、痛い目に合わなければ成長しない。
何も変わらない。
今回の件で、カナデ達を不当に逮捕、拘束した件をきちんと反省しなければ、また似たようなことが起きるかもしれない。
それを避けるために、スズさん達は動いているわけだ。
こうして、一部の話だけを聞くならば、スズさん達の主張は至極当然のものであり、正当性は高い。
なのだけど……
「まずは、タニアちゃん達を捕まえた騎士、冒険者達はサンドバッグの刑! あと、勇者に勝手な権限を与えた国の重鎮連中は、フルボッコの刑! それからそれから、タニアちゃんを傷つけた勇者は……死刑。うふ、うふふふっ」
……相当に私怨が入り混じっているから、厄介なんだよな。
本気で国を滅ぼしてしまう勢いだ。
さすがにそれはやりすぎなので、どこかで妥協点を見つけてもらわないといけない。
まあ、この分なら、俺の考えている策がうまくハマれば、なんとかなりそうではあるが……
「……ちょっといいですか?」
この際だ。
聞けることは全部聞いておきたい。
「二人の怒りはわかりましたけど……でも、一つ疑問もあって」
「どんなことですか?」
「その……俺に対しては、怒っていないんですか?」
「え?」
スズさんが不思議そうな顔をした。
ミルアさんもキョトンとしていた。
そんな二人に、俺は尋ねずにはいられない。
「今回の件はアリオス……勇者が主犯で、ヤツの狙いは俺でした。つまり、カナデ達は俺のせいで事件に巻き込まれたわけで……根本的に悪いのは俺です。だから……」
「「はぁあああ」」
スズさんとミルアさんが、揃ってため息をこぼした。
それから、双子なのかと思うようなそっくりな感じで、こちらに呆れた視線を送ってくる。
「まさか、レインさんがそんな風に考えていたなんて……」
「タニアちゃんのす……恩人に悪いことは言いたくないんだけど、でもでも、それはおこがましい、っていうものだよ?」
また、おこがましいと言われてしまった……
「レインさんは優しいから、気にしてしまうのも仕方ないと思いますけどね。でも、そこまでの責任を負うことはないんですよ?」
「というか、それを言うなら、タニアちゃんを旅に出した私に根本的な責任がある、っていうことになっちゃうよ? 旅に出さないで、里でずっと保護していればこんなことにならなかった、っていう話になっちゃうよ?」
「それは……」
そう言われると、そうかもしれない。
でも、やはり、みんなを巻き込んでいるのは確かなわけで……
「……ふぅ」
仲間を大事にしたい。
でも、仲間に傷ついてほしくない。
そんな二つの思いがぐるぐると心の中を駆け巡る。
考えても考えても答えが見つからず、頭が重くなってしまう。
俺、どうしたらいいんだろうな……?
というか、どうしたいんだろう……?
「ふふっ」
そんな俺の葛藤を見抜いた様子で、スズさんが優しい顔を見せる。
見れば、ミルアさんも母性にあふれる顔をしていた。
「レイン君は考えすぎちゃうのが問題点だね」
「でも、カナデちゃんのお母さんとしては、うれしいですよ」
「うん、そうだね。それだけ悩むっていうことは、タニアちゃん達のことを真剣に考えている、っていうことだからね」
「それは……もちろん、そうですよ。真剣に考えますよ。みんな、大事な仲間なんだから」
「なら、一人で抱え込まないで、みんなに話してみてはどうですか?」
「スズちゃんの言う通りだよ」
「でも、それは……」
「なんでも打ち明けろ、とは言いませんけどね。誰にだって、隠しておきたいことの一つや二つ、あるものですから」
「でもでも、そういう悩みは別だと思うな。だって、レイン君のパーティーのこれからに深く関係しているでしょ?」
「そういうことは皆で共有して、話し合い、答えを見つける……それが一番の方法じゃありませんか?」
「そんなだから、おこがましい、って私達が思っちゃうんだよ」
「……」
目から鱗が落ちるような気分だった。
「そっか、俺……」
みんなのことを考えているようで、実のところ、自分のことしか考えていなかったのか……
二人の言う通りだ。
本来なら、こういう問題は共有して話し合わないといけない。
でも俺は、一人で考えるだけで、みんなにぜんぜん打ち明けようとしないで……
全部一人で抱えたつもりになって、解決しようとしていた。
こんなんじゃあ、おこがましいと言われても仕方ない。
スズさんとミルアさんの気持ちがよくわかった。
それと、さきほどのアルさんの気持ちもよくわかった。
「ありがとうございます。俺、目が覚めました」
「うんうん、どういたしまして。やっぱり、レイン君はそういう顔の方がいいよ」
「ちなみに、私達の気持ちは今までと変わりませんよ。レインさんなら、カナデちゃん達を任せられますから……これからも、ウチの娘をよろしくおねがいしますね」
「はいっ!」
今度は間違えないように、しっかりと頷いてみせた。
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