281話 友達だから
「……どうしてそんなことを?」
いきなりパーティーを解消しろと言われて、さすがに動揺してしまう。
ただ、ユキはひたすらに真面目な顔をしていて……
冗談や嫌がらせなどでそんなことを言ったわけではないと悟り、動揺を鎮めた。
これはとても大事な話だ。
だから、しっかりと……毅然とした態度で話を聞かなければいけない。
そう思い、まっすぐにユキと向き合う。
「理由なんて簡単よ。私がソラとルナの友達だからよ」
「それはどういう……?」
「あんたと一緒にいると、ソラとルナが危険な目に遭うの!」
その言葉は矢のように鋭く、俺の胸に突き刺さる。
「あの二人、里を飛び出すなんて無茶をして……私は、二人が里を出ることに反対していたの。だって、そうじゃない。外の世界は危険がいっぱいだもの。安全な里にいればいいのに、わざわざ危険に飛び込む理由なんてないわ」
「それは……」
「アルさまは、ソラとルナの判断に任せる、って言ってたけど……でも、その結果がコレじゃない。人間にひどいことをされた」
なにも言えない。
「このままソラとルナを外の世界に置いていいのか? いいわけないじゃない。二人は今すぐに里に戻すべきよ」
「……だから、パーティーを解消しろと?」
「そうよ。あの二人、あれで頑固だから。あたしがどうこう言っても、きっと聞かないと思うの。でも、あんたがパーティーを解消するって言えば問題は解決ね」
「そうかもしれないが……」
「このままだと、またソラとルナが傷つくかもしれないのよ?」
「っ!?」
その言葉はなによりも重たく、鋭く……
俺の心に深々と食い込んだ。
「本当にソラとルナのことを思うのなら、パーティーを解消して。二人を里に返して」
「俺は……」
「さすがに、今すぐに答えを求めるほど、私も鬼じゃないわよ」
ユキが一歩、後ろに下がる。
「アルさま達を説得するんでしょ? どう転がるかわからないけど、数日はかかると思うから……その間に考えをまとめて、あんたの答えを聞かせてちょうだい」
「……わかった。きちんと考えるよ」
「あんたは人間だけど……でも、ソラとルナのことを大切にしているのは、なんとなくわかったわ。ソラとルナも、あんたのことを大切に思っている。それくらいはわかるつもりよ」
「……そっか」
「でも、結局、ソラとルナは傷ついているの。そのことを忘れないで」
ユキは俺に背を向けて……
一度も振り返ることなく、部屋を後にした。
その背中を見送ることしかできず、それ以上の声をかけることはできず……
俺は一人、うなだれていた。
――――――――――
気がつけば朝になっていた。
いつベッドに入ったのか、いつ眠ったのか、まるで覚えていない。
ただ、あまり寝ることができなかったらしい。
頭が重く、眠気がまとわりついていた。
「ふぅ」
とにかくも、このままじゃいけない。
冷たい水で顔を洗い、眠気だけでも振り払う。
「……どうしたらいいんだろうな」
洗った顔はそのまま、水を拭くこともなく……
俺は考えていた。
考え続けていた。
ソラとルナのために、パーティーを解散するべきなのか?
そもそも、それを言うならば他のみんなも同じだ。
冒険者なんてものに付き合わせるようなことはしないで……
それぞれ、里でおとなしくしていた方がいい。
ニーナとティナは帰ることができる里はないが、言えば、誰かが喜んで受け入れてくれるだろう。
しかし、また仲間を失うなんて……
「……ダメだ。悪いことばかり考えちゃうな」
一度、ユキの言葉を意識したらもうダメで……
パーティーを解消した方がいいのでは? ということばかり、何度も何度も繰り返し考えてしまう。
ただ、そんなことはしたくないわけで……
「卑怯かもしれないが、今は保留にしよう」
幸いというべきか、ユキからは少しの猶予をもらっている。
彼女の言うことに従わなくてはいけない、という決まりはない。
どちらかというと、部外者はユキの方だ。
ただ……
あれだけまっすぐにソラとルナのことを考えているユキの言葉を無視するようなことはしたくない。
どうなるかわからないが、きちんと答えを出したいと思う。
たくさん……たくさん考えたいと思う。
「よし」
水が滴る顔をタオルで拭いて、俺は外に出た。
――――――――――
朝食を食べて、軽い休憩を挟んだ後……
再びアルさん達の説得が行われる。
アルさん達の主張が変わることはない。
アリオスが暴走したことが原因であり、命令を受けた騎士、冒険者達に非はない。
しかし、アリオスを勇者に任命した王には責任がある。
それは上に立つ者ならば、当たり前のごとく背負うものだ。
きちんと謝罪、賠償をしなければ、到底納得できることではない……と。
そんな話を聞かされた。
昨日と違い、問答無用で滅ぼす! という意見は小さくなった。
娘達に会うことができて、少し頭が冷えたのかもしれない。
これならば、うまいこと物事が進めば解決できるかもしれない。
俺はとある作戦を思いついて、アルさん達との話し合いが終了した後、長のところへ向かった。
――――――――――
とある作戦を長に話して……
ちょっとしたおつかいをソラとルナに頼んだ。
あとは時間をうまい具合に稼いで、俺が考えている通りに物事が進行すれば、アルさん達の暴走を止めることができるだろう。
お願いだから、うまくいってほしい。
最強種と人間の全面戦争なんて、見たくないからな。
「さてと……」
俺の策の結果が出るまで時間がかかる。
だから、今は時間を稼ぐことしかできない。
なんとかアルさん達をみんなでなだめて、爆発しないようにして、時間を稼いでいかないといけない。
それとは別に、俺にはやらないといけないことがある。
あれこれと準備をして話し合いをしているうちに、日は傾いていた。
驚くほど時間が過ぎるのが早い。
それだけ忙しいということなのだろうか。
「アルさん」
「ん? なんじゃ、レインか」
アルさんの家の扉をノックした。
ひょこっとアルさんが顔を出した。
アルさんの家にスズさんとミルアさんが泊まっているらしいが……
ちらりと扉の奥を見ると、誰の姿も見えない。
「今、一人ですか?」
「うむ。スズとミルアは、長のところに行っておるのじゃ」
「長のところに? それはまた、どうして?」
まさか、こっそりと長を説得して味方にしようとしているのでは……?
そんな危惧を抱くが、懸念に過ぎないことを知る。
「スズもミルアも、それぞれの里で二番目に偉いからのう。挨拶やら色々としておかなければいけないのじゃ」
「なるほど」
「それで、レインはどうしたのじゃ? 妾に何か用か?」
「話したいことがあります。今、時間いいですか?」
「ふむ」
アルさんがじっと俺の顔を見た。
「今回の件とはまた違う話らしいな? しかも、それなりに真面目な内容と見た」
「わかるんですか?」
「妾は長生きじゃからな。レインぐらいの小僧が何を考えているかくらい、顔を見ればなんとなくわかるのじゃ」
敵わないな。
「ふむ」
「それで……大丈夫ですか?」
「うむ、いいぞ。ただし、一つ条件があるのじゃ」
「なんですか?」
「妾と一緒に風呂に入れ」
たっぷり30秒、思考がフリーズした後、
「は?」
俺は、とびぬけて間の抜けた声をこぼしてしまうのだった。
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