280話 激怒する母親達
「お、落ち着くのじゃ、ミルア。わしらも人間のことは好ましく思っていないが、さすがに国を滅ぼすというのは……」
前に会った時は威厳に満ちていた精霊族の長だけど……
過激な意見を口にするミルアさんに押されている様子で、今はしどろもどろだった。
「うちのタニアちゃんを傷つけたおバカな人間に、情けをかけるっていうの? ありえないよ。死刑一択」
「ど、どうしてそう過激な方向に思考が働くのじゃ……?」
「子供を傷つけられて怒らない母親なんていないよ」
「む、むぅ」
もっともな正論に長は返す言葉がないみたいだ。
ミルアさんを諭すことは諦めた様子で、スズさんを見る。
「スズよ、お主もミルアと同じ意見なのか?」
「んー、そうですね」
テーブルの上のお茶を一口飲みながら、スズさんが口を開く。
「私もミルアさんに賛成ですね」
「え」
「国を滅ぼすとまではいきませんが、それなりの謝罪と賠償。それと、今後、二度とこういうことが起きないようにするための改善策の提出。んー、あとは……そうですね、あとは実行犯の勇者の私刑……ではなくて死刑というところですかね」
「スズもミルアと同じようなことを……」
「カナデちゃんの自由意志に任せているので、どのような事態に巻き込まれても、基本、本人の責任ですけどね。ですが、それはそれ、これはこれ。ミルアさんの言う通り、子を傷つけられて怒らない親なんていないんですよ」
スズさんはいつもと変わらない笑顔を浮かべているが、内面はものすごく怒っているのだろう。
空気がピリピリと震えるほどの怒気が伝わってくる。
「あ、アルは……」
最後の綱とばかりに、長がアルさんを見た。
「む? 妾の意見が聞きたいのか?」
「そ、そうじゃ。アルは、今回の件、どうするつもりなのだ?」
「そうじゃな……妾は元々放任主義で、ソラとルナに過干渉するつもりはないのじゃ。今回の件も必要以上に動く気はないぞ」
「おぉ」
「第一、人間がいなくなると、それはそれで困るからな」
ん? それはどういう意味だろう?
精霊族は人間を嫌っているのだから、問題ないのでは……?
「ただのう……あまりいい気分はせぬな。一応、妾もこれでも母なのじゃ。放任気味ではあるとはいえ、ソラとルナのことはかわいく思っている。三度目になるが……妾はソラとルナの母親じゃからのう」
「むぅ……」
頼みの綱であるアルさんを説得することができず、長は非常に困った顔をした。
すると、そこで俺達に気がついたらしく、希望を見つけたというように顔を明るくする。
「おぉ、お主らは……」
「ごぶさたしています」
「今回の件を聞いて、来たのか? そういうことならば歓迎を……」
「タニアちゃあああああぁんっ!!!」
「ふぎゅっ!?」
話を遮るような勢いで、ミルアさんがタニアに突貫した。
全力で抱きしめられて、タニアが奇妙な悲鳴をあげていた。
「タニアちゃん! タニアちゃん! タニアちゃん! 大丈夫? 怪我してない? 痛くない? 怖くない? お母さんがいるから、もう大丈夫だよ」
「そ、そんなに慌てないでよ。あたしなら平気だから」
「でもでも!」
タニアがミルアさんをなだめる一方で、アルさんとスズさんがこちらに向き直る。
「久しぶりじゃな、娘達よ」
「みなさん、おひさしぶりです」
「うむ、久しぶりなのだ」
「元気そうですね、母さんは」
「にゃー、お母さん、前とぜんぜん変わってないね」
母娘が久しぶりの再会を喜んでいた。
ほっこりとする光景だ。
「ところで、どうしてカナデちゃん達がここへ? もしかして、私に会いに来たの?」
「うーん、ある意味で正解なんだけど……」
「我らは母上達を止めるために来たのだ」
「「止める?」」
スズさんとミルアさんが、揃って小首を傾げた。
なんのことかまったく理解できていない、という感じだ。
自分達は正しいことをしているのであって……
まさか、娘達の反対に合うなんて思ってもいないだろう。
まあ、間違っているとは言えないから、微妙な問題なのだけど……
「母さん。人間の国を……王都に攻撃をしかけるなんて、バカなことはしないで」
タニアはミルアさんを引き離して、そう説得した。
「母さん達が怒るのは無理ないけど、あたし達なら無事だから」
「そうそう。私達、なんともないよ」
「それに、あれは人間全体が悪事に加担したわけではありません。勇者という愚か者が画策したことであり、その他の人間に罪はありません」
「だから、王都を焼き払うとか、そういう物騒な会話はやめるべきなのだ」
「やだ!」
「それは聞けませんね」
娘達の説得が一蹴されてしまう。
「1万歩譲って、王都を焼き払うのはなしにしても……」
「カナデちゃん達を危険に晒したことに対する責任を取り、それと、誠意を示してもらわないといけません」
ミルアさんとスズさんは頑固だった。
まあ、怒って当たり前の件ではあるし……
それに、二人共、娘をかわいがっているからなあ。
今回の騒動は、起こるべくして起こったと言える。
「妾達はおかしなことは言っていないぞ? 全て正当な権利じゃ」
アルさんの言うことはもっともだ。
とはいえ、王都を攻撃するとか、そんな事態を許すわけにはいかず……
俺達は、その後も必死になって説得を続けるのだった。
――――――――――
「ふぅ……疲れた」
あれから色々なことを話し合い……
気がつけば日が暮れて夜になっていた。
少しずつ納得してもらっているが、まだ完全に説得できたわけではなくて……
話し合いは明日に持ち越し。
今日は精霊族の里に泊まることになった。
割り当てられた部屋で、俺は肩の力を抜いてのんびりとした。
話し合いしかしていないのだけど、内容が内容だけに、ものすごく疲れた。
「そういえば、温泉があるって言ってたな」
疲れた体にちょうどいいかもしれない。
行ってみようか?
そんなことを考えた時、部屋の扉をノックする音が響いた。
「はい?」
「こんばんは」
「ユキ?」
扉を開けてみると、ユキの姿があった。
ユキ一人で他の人の姿はない。
ユキは俺のことを嫌っているみたいだけど……
そんな相手のところに、いったいなんの用だろう?
不思議に思いながらも、とりあえず部屋に招き入れる。
「お茶、飲むか?」
「いらないわ」
「お菓子なんかも……」
「いらないわ」
ツーンとそっけない。
ホント、どうしてここまで嫌われているんだか……
「話があって来たの」
「うん、聞くよ。どんな話なんだ?」
「ストレートに言うわ。ソラとルナとのパーティーを解消しなさい」
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