279話 再び精霊族の里へ
王都からホライズンへ戻ったかと思えば、再び街を出ないといけない。
休息はとったとはいえ、なんとも慌ただしいものだ。
準備をした後、街を出て迷いの森へ。
厄介なところだけど、一番近い精霊族の里への出入り口はここなんだよな。
入り口が設置されている、大木がある場所へ移動した。
「……止まりなさい」
どこからともなく声が響いた。
「これより先は、精霊族の里……関係のない者……ましてや、人間を通すわけにはいきません。引き返しなさい」
アルさんの声じゃない。
かなり若い感じで、ソラとルナと同じくらいという印象を受けた。
まあ、声だけなので、なんとも言えないのだけど。
「誰が関係のない者ですか」
「我らは関係大アリなのだ!」
二人は、普段は魔法で隠している光の羽を顕現させた。
驚くような、息を飲む音が聞こえてくる。
「その羽は……私達の同族? というか、もしかして、その顔は……」
蜃気楼のように空間が歪み……
そこから一人の女の子が現れた。
薄い青の髪は水のようで、とても綺麗だ。
ソラとルナよりは歳は上だけど、俺よりは下……という感じか?
二人と同じような服を着ていて……
その背中には、光り輝く羽が見えた。
間違いない、精霊族だ。
おそらく、ソラとルナに代わり、ここの入り口の番人をしているのだろう。
「ユキ!」
「おぉ、元気にしてたか?」
ソラとルナが笑顔になる。
どうやら、知り合いらしい。
「久しぶり、ソラ、ルナ。アルさまから聞いていたけど、元気でやっているみたいね」
三人は笑顔で抱き合う。
友だちなのかな?
ユキと呼ばれた精霊族の女の子は、さきほどとは違い、砕けた口調で言う。
「どうしてこんなところに? あっ、もしかして里に帰るつもりになったとか?」
「いいえ、違います」
「我らは母上達を止めに来たのだ」
「あぁ、そういう……」
ユキがひどく落胆したような顔をした。
二人が一時的な帰郷と知り、ものすごく落ち込んでいるみたいだ。
どうして、そこまで落ち込むのだろう?
友達がいないから寂しいのだろうか?
「そっちの人達は?」
「みんな、ソラの仲間ですよ。猫霊族のカナデ、竜族のタニア、神族のニーナ、幽霊のティナです」
「あと、我らのご主人さまのレインなのだ!」
「ご主人さま……? え? それって、どういう……」
「レインはビーストテイマーで、我とソラはレインと契約を結んだのだ」
「なっ!? せ、精霊族が人間と契約を……」
一瞬、ものすごい勢いでユキに睨まれた。
しかし、それは本当に一瞬のことで……
ユキはすぐに咳払いをして、にっこりと笑ってみせる。
「すみません。予想すらしていなかったことに驚いて、つい大きな声をあげてしまいました」
「あ、いや……気にしないでくれ」
「私は、ユキといいます。ソラとルナの主というのならば、私にとってもそれにふさわしい方。どうか、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。あと、口調は普通で構わないよ」
「いいのですか?」
「いいよ。俺はそんな偉くないし、あと、普段の口調の方が仲良くなれたみたいでうれしい」
「……ちっ」
あれ、舌打ちされた?
「じゃあ、そうさせてもらうわ」
ユキは笑顔に戻る。
気のせいだったのかな……?
「とにかくも、ユキが門番を務めているのなら話は簡単です。ソラ達を里に連れて行ってくれますか?」
「イヤよ」
「え?」
断られるとは思ってなかったらしく、ソラがきょとんとする。
そんなソラに代わり、ルナが問いただす。
「なぜなのだ? 我らの帰郷が許されない理由なんて、思い当たらないぞ。確かに門番を放棄したが……前に帰郷した時は誰にも文句は言われなかったのだ」
「ソラとルナに問題があるわけじゃないわ。問題は……そこの人間よ!」
ユキは厳しい顔で、ビシッと俺を指差した。
「神聖な精霊族の里に人間なんかを入れるわけにはいかないわ!」
さきほどとは一転して、敵意をぶつけられてしまう。
俺、なにか気に障るようなことをしてしまっただろうか……?
「にゃー、でもでも、そういうのおかしいよね?」
「レインなら、この前、普通に精霊族の里に入っていたわね」
「特に……文句、言われなかったよ?」
「長にも認められてたしなー」
「うぐっ」
みんなの援護射撃にユキがたじろいだ。
もしかして、精霊族の意思ではなくてユキの独断……?
「えっと……なんで、俺は精霊族の里に入っちゃダメなんだ? 人間だから、っていうのでは理由がちょっと薄いというか……もう少し詳しいところを教えてくれないか?」
「むぐぐぐ……この人間、思ったより冷静というか理知的ね。ああいう態度をとれば、すぐに怒って本性を現すかと思ってたのに」
「えっと……それは、どういう?」
「……いいわ」
「え?」
「今回は特別に、あんたが精霊族の里に入ることを認めてあげる。でも、変なことをしたら……わかっているわね?」
凄絶な表情をして、ユキが釘を刺してきた。
変なことと言われても、どういうことを指しているのかわからないが……
気をつけることにしよう。
今のユキはちょっと怖い。
――――――――――
「おー、久しぶりの空気」
再び精霊族の里に足を踏み入れた。
澄んだ空気に新緑の葉に覆われた街。
透き通るほどに綺麗な水が流れていて、見ているだけで心が癒やされていくみたいだ。
大げさな表現かもしれないけど、楽園という表現がふさわしい。
それくらいに良いところだ。
「相変わらず綺麗なところよね。ウチとは大違い」
「うん? タニアんところは、どういうところなんや?」
「んー……汗臭い?」
「あー……なんちゅーか、その一言でなんとなく想像できてしもうたわ。ウチ、タニアには悪いが、竜族の里には行きたくないなあ」
「それで正解よ。戦うことに特化してて、他に目を向けていない戦闘狂種族だもの。まあ、あたしが言うのもなんだけど」
あれこれと話をしながら、ユキの案内で長の家に向かう。
「……」
その間、じーっとユキに見つめられていた。
敵意たっぷり。
かなり睨まれている。
ホント、なんでだろう……?
失礼な態度をとった覚えはないが……
やはり精霊族だから、人間のことが嫌いなのだろうか?
ソラとルナの友達なのだから、できれば仲良くしたいんだけど……
「はい、ついたわよ」
打開策が思いつかないまま、長の家に到着してしまう。
仕方ない。
ユキと打ち解けるための方法は後で考えることにしよう。
今はアルさん達のことをなんとかしないといけない。
どうにかして説得しないと。
「失礼しま……」
「徹底的に焼き払うべきだよっ!!!」
長の家に入ると同時、いきなり物騒なセリフが聞こえてきた。
丸いテーブルを四人で囲んでいるのが見えた。
スズさん、アルさん、ミルアさん。
そして、精霊族の里の長。
後ろに世話係らしき精霊族の男の人が控えているが、ひたすらに気まずそうだ。
ドンッ! と、ミルアさんが勢いよくテーブルを叩く。
とんでもなく怒っているみたいだ。
子供のように頬を膨らませて、顔を赤くして、大きな声で言う。
「うちのタニアちゃんに……かわいいタニアちゃんに……かわいいかわいいかわいいタニアちゃんに……ふざけたことをしてくれるなんて、ぜぇえええええ……ったいに許せないもん! あんな国っ、今すぐに、即刻、瞬殺で、焼き払うべきだよ!!!」
……説得するの、ものすごく大変そうだった。
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