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276話 落ち延びた先で

 モニカの案内で、アリオスは王都から遠く離れた南にある小さな街に辿り着いた。


 一応、フラムという名前がつけられている街だけど、村と言った方が正しいかもしれない。

 建物は多いものの、そのほとんどが民家で、商業施設や娯楽施設はない。

 街の人に向けた食堂が宿を兼任しているくらいで、その他、特徴らしい特徴は何もない。


 ただ、田舎であることはアリオスにとってはプラスに働いた。


 王都の事件は多くの人が知ることになり……

 勇者アリオスの悪名は、この田舎街にも届いていた。


 しかし、田舎であるが故に、アリオスと直接顔を合わせた者はいない。

 誰もアリオスの正体に気づくことなく、宿に泊まることができた。

 チェックインを済ませ、部屋に移動すると……


「あっ、アリオス!?」

「よかった、無事だったのですね」


 リーンとミナが部屋の中にいた。

 奥にアッガスの姿もある。


「リーン、ミナ……それに、アッガスも。どうして、キミ達がここに……?」

「あたしらも牢に入れられてたんだけど、モニカの仲間に助けてもらったんだよねー」

「リーンの言うように、私もモニカさんの仲間に助けられました」

「アッガス、キミもかい?」

「……ああ、そうだ」


 今更ではあるが、アリオスは疑問を覚えて。

 不信感というほどのものではないが……

 喉に魚の小骨が刺さったような、軽い違和感。


 モニカは国に仕える騎士で、王の勅命を受けていることから、それなりに地位が高いはずだ。

 それなのに、その地位を捨ててまで自分を助けてくれた。

 その思惑は?

 また、そんなモニカに協力をするという者の正体は?


 色々なことが気になるものの……

 アリオスは、一度、思考を放棄した。

 長らく牢に入れられていたせいで、体が疲弊していた。

 立っているのが億劫になり、部屋に設置されているイスに座る。


「キミたちもモニカに助けてもらったのか……」

「も、っていうことは、アリオスもモニカに?」

「ああ。危ないところを助けられたよ。礼を言わないといけないな」

「いえ、とんでもありません。私はアリオスさまの……いえ。アリオスさま達の味方ですから。今回のアリオスさま達に対する措置、不当なものであり、とても見過ごすことはできませんでした」

「だよね、だよね!? あたしら、別に悪いことしてないしー」

「勇者であるアリオスのすることに、問題なんてあるわけがありません。きっと、私達には想像もできないような深い考えがあったのでしょう」


 この期に及んで、リーンとミナは自分達の非を認めようとしない。

 アリオスが主導で計画を動かしていたとはいえ……

 無実のレインを陥れることに加担して、不当な力を使ったというのに、反省をすることはない。


 彼女達は、本気で、自身に罪があると考えていなかった。

 欠片も思っていなかった。


 罪を直視することなく、都合の悪いことがあれば逃げる。

 問いただされれば逆ギレをして、力でごまかそうとする。

 そうした上で、問題は解決したと、乗り切ったつもりでいる。


 いつか、そのツケが回ってくるであろうに……

 その現実から目を逸らし続ける。

 気づかないフリを続ける。


 アリオスと同様に、彼女達も堕ちつつあった。

 そんな彼女達を見て、モニカは笑う。

 とても満足そうに笑う。


 しかし。


 ただ一人、違う考えを持つ者がいた。


「アリオス……王都の一件だが、どうしてあんなことを?」


 アッガスはアリオスを問い詰めるように、厳しい視線を向けた。


「その話なら、実行前に説明しただろう? レインは厄介な存在であり、いずれ、僕らの邪魔になるだろう。その前に排除をする。至ってシンプルな内容じゃないか。そのことについて、アッガスも納得しただろう?」

「レインを排除するということについては、確かに納得した。しかし、だ。そのために他の冒険者を殺すなんてことは聞いていない」


 アッガスの糾弾するような言葉に、アリオスは小さく舌打ちをした。

 ここ最近のアッガスは、なにかとアリオスの行動に口を挟んできた。

 そのことを、アリオスは苛立たしく思っていた。


 パーティーのリーダーはアッガスではない、この自分なのだ。

 たかが戦士ふぜいが、選ばれた存在である勇者に口を出すなんて……


 盾になることしかできない脳筋は、人形のようにおとなしく言うことを聞いておけばいい。

 仲間であるアッガスに対して、アリオスは本気でそのように考えていた。


「こんなことになった原因は、明らかにアリオスにある。冒険者を殺すという、行き過ぎた行為のせいで、王に裁かれることになったんだ。わかっているのか?」

「……結果、みんな無事だったんだ。別にいいだろう」

「よくない。俺たちは勇者パーティーの資格を剥奪されたんだ。これから、どうしていくつもりだ?」

「勇者は、この僕、一人だけだ。アッガス、キミはおまけにすぎないんだよ。それなのに、我が物顔で言わないでくれるかな?」


 アリオスとアッガスの視線が激突して、バチバチと火花が散る。

 それを見て、リーンとミナが慌てた。


「ちょ、ちょっと……こんな時なんだから、ケンカはやめとこーよ。ね?」

「アリオス、アッガス……今は、私達の力を合わせて、この危機を乗り越える時だと思うのですが……」

「……それもそうだな」


 アッガスは素直に引き下がった。


「まあ……僕も少し言い過ぎたみたいだ。許してくれ」


 意外ではあるが、アリオスも素直に引き下がった。

 その口からこぼれた謝罪は本物だった。


「……ふふっ」


 そんなアリオス達を見て、モニカは楽しそうにしていた。

 その顔が何を示しているのか?

 もしも、この段階でモニカの考えていることに気づくことができたのなら、アリオス達の運命は違ったものになっていたのかもしれない。




――――――――――




 夜。

 手紙で呼び出されて、アリオスは宿の外に出た。

 裏手に回ると、月夜を眺めているモニカがいた。


「アリオスさま、外に呼び出してしまい、申し訳ありません」


 モニカはアリオスに気づくと、ぺこりと頭を下げた。


「いいさ。これくらい、気にしていない」


 アリオスはおおらかな態度で応えた。

 モニカに助けられたこともあり、彼女に対しては、アリオスもそれなりに柔らかい態度を見せていた。


「それで……どうしたんだい? こんなところに、わざわざ僕だけを呼び出すっていうことは、他のみんなには内緒の話があるのかい?」

「はい、その通りです」


 モニカは優しい笑みを浮かべながら、話を続ける。

 その笑みは聖母のようであり……悪魔のようでもあった。


「これからのことについてなのですが……どのような行動を起こすか、という話をするよりも先に、アリオスさまに提案したいことがありまして」

「どんな提案だい?」

「アッガスさんを排除してしまいましょう」


 変わらず笑みを浮かべながら、モニカはそう言った。


「それは……どういう意味だい?」

「言葉通りの意味です。アッガスさんは、アリオスさまのことを疎ましく思っている様子。火種を抱えているようなもので、このままだと問題になることは必須。ならば、その前に対処をした方がいいかと」

「パーティーを追放しろと?」

「いえ。言葉通り、排除するのが一番かと」

「それは……」


 モニカの言いたいことを察して、アリオスは言葉を詰まらせた。

 わがままという言葉が体現されたようなアリオスではあるが、さすがに長年連れ添ったメンバーを手にかけるほど落ちぶれてはいない。

 さきほども対立しかけたが、だからといって、殺してしまうなんてバカなことはしない。


「……モニカ。君には感謝しているよ。僕達のことを何度も助けてくれた。君がいなければどうなっていたか」

「私はアリオスさまのために……勇者様のために行動しているだけにすぎません」

「そんな君の言葉を受け入れることが正しいかもしれない。しかし、アッガスを殺してしまうなんてことは……」


 アリオスは勇者の資格を剥奪された。

 死刑の宣告を受けた。

 ありとあらゆるものを失った。


 そんなアリオスに残されたものは……

 仲間だ。

 アッガス、リーン、ミナ。

 彼、彼女らだけが唯一残された存在だ。


 そんな仲間を手にかけることはできない。

 さすがにそれだけはできない。


 この時、アリオスはレインのことを思い出した。

 仲間仲間というレインの姿を思い返した。


 アリオスがレインを悪く思う気持ちは変わらない。

 しかし。

 今この時だけは、レインが仲間を大事にする気持ちが少しだけわかるような気がした。


 しかし……


「……アッガスさんがアリオスさまを裏切るとしても?」

「なんだって?」


 そんなアリオスの心を揺さぶるように、モニカが悪魔のようなささやきをこぼした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでアッガスがアリオスに見切りをつけて離れてたら、助かってたのだろうか・・・。
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