274話 ソラの料理教室
とある日の昼下がり。
温かい日差しが心地よくて、うとうとしてしまう。
昼寝でもしようかな? と思うものの、やや喉が乾いた。
俺は自室を出てリビングに移動する。
「触ってわかるように、にんじんは固いです。ちょっと凍らせたら釘が打てるくらいに固いです」
「うん……固い、ね」
「なので、一撃必殺のつもりで包丁を振り下ろします。具体的には、こうっ! です」
どがんっ。
「まてまてまてまてまて」
ソラが人を殺しそうな勢いで包丁を振り下ろしているところを見て、慌てて止めに入る。
「あ、レインですか。こんにちは」
「こん……にちは」
一緒にいたニーナが、ぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれる。
ソラもニーナもエプロンをつけていた。
周囲を見ると、肉や野菜など。
それと、調味料の入ったケース。
最後にフライパンやボウルなどの調理器具が置かれていた。
「えっと……二人はなにをしているんだ?」
「ニーナが料理を覚えたいというので、ソラが教えることにしたんです」
「なんてこった」
思わずそんな言葉がこぼれてしまう。
じろり、とソラに睨まれる。
「なんですか、その反応は。明日世界が滅びますよ、と言われたような顔をしていますよ」
「気分的には、それに近いものがあるかなあ……」
「どういう意味ですか?」
「えっと……ソラは、ニーナに料理を教えるなんてこと、できるのか?」
以前食べたソラの料理を忘れることができない。
もちろん、悪い意味で……だ。
「もちろんですよ。ルナほど料理が上手ではありませんが、ソラも、本気を出せばそこそこのものが作れますからね。基本を教えるくらい、なんてことはありません」
にんじんを上段で叩き切るなんて基本、俺は知らないのだけど。
「ニーナは、どうして料理を?」
「んー……レインやみんなに……食べて欲しいな、って」
ちょっと恥ずかしそうにしながら、しかし、その時を想像したのか、うれしそうにニーナが言う。
その気持ちはうれしい。
できれば、応援してあげたいと思う。
しかし、ソラが先生というのは……
「えっと……ルナかティナに教えてもらった方がいいんじゃないか?」
「二人共……今、おでかけしている……よ?」
「なら、日を改めるとか」
「レイン。さきほどから聞いていれば、ソラを担当から外そうとしていませんか?」
「あー……それは」
ぶっちゃけ、その通りである。
ソラには悪いのだけど、きちんと料理の先生役が務まるとは思えない。
以前、食べたソラの料理を思い出した。
うっ……
なんか、思い出しただけで胃が痛くなってきたぞ。
「意外と失礼ですね、レインは」
「悪いとは思うんだけど、以前、とんでもないものを食べさせられたからな」
「うっ……それについては、すみません」
反省と自覚はしているらしく、ソラが苦い顔になった。
しかし、すぐにやる気を瞳にみなぎらせる。
「ですが、ソラは日々成長する女なのです! 過去の失敗をそのままにせず、弱点を克服することができるのです。ちょうどいい機会ですね。ソラの料理が上達したこと、ニーナに教えるついでに披露してあげましょう」
「えっ」
それって、俺がまた食べるの……?
「……俺、ちょっと用事を」
「サークルバインド!」
光の縄が俺の体を縛る。
「ちょっ、魔法まで使うか!?」
「さあ、ニーナ。料理を続けましょう。ちょうどいいことに、食べさせる人も現れましたからね」
「ん……がん、ばる」
俺の抗議を無視して、ソラはニーナに料理の手ほどきをする。
「はぁ……」
ここまで来たら諦めるしかないか。
おとなしく料理が出来上がるのを待つことにしよう。
「いいですか、ニーナ。料理は気合です」
「き……あい」
「あと、根性です。その二つがあれば、たぶん、なんとかなります。あと、食べる人のことを考えて作ると、わりとうまくいきます。誰かに食べさせたいという思いは、時に、意外な力を発揮しますからね」
「んっ」
どだんがたん……と、おおよそ料理には似つかわしくない音が響くことだけが不安だった。
――――――――――
「レイン、おまたせしました」
「んっ」
料理ができあがったらしく、魔法を解除された。
テーブルに移動すると、ソラとニーナが作った料理が置かれていた。
「これは……ステーキ?」
やや焦げているものの、その他におかしな点はない。
良い匂いがして、普通においしそうだ。
「どうですか、レイン。料理を教えることくらい、ソラにもできますからね。そうですよね、ニーナ?」
「うん。たくさん……教えてもらった、よ?」
二人の言葉を聞いて、料理がうまくいった理由を知る。
ソラは基本、教える側に回り……
ニーナがメインで料理をしていたから、大きく失敗するようなことはなかったのだろう。
って……まあ、そんなことはどうでもいいか。
ソラとニーナが俺のために作ってくれた料理だ。
とにかくも、味見させてもらおう。
「それじゃあ、いただきます」
ぱくりと、ステーキを一口。
ほどよい肉汁が口の中にあふれて、肉の旨味が広がる。
そこに濃いめのソースが絡まり、旨味を何倍にも引き上げてくれた。
焦げた部分はやや苦いが、代わりにカリカリとした食感がして楽しい。
「おぉ、これは……」
「どうですか!?」
「……どう?」
「うん、うまいよ」
「やりました!」
「やった……ね」
ソラとニーナは抱き合って喜んだ。
ソラは先生役のはずなのに、いつの間にかニーナと一緒の立場になっている。
「ソラでも料理を教えることはできると、これで証明されました。ニーナ。これからも、料理を作りたい時はソラに言うといいですよ」
「ん……お願い、するね」
「はい、いくらでも任せてください」
ソラは上手に料理を教えることができて。
ニーナはおいしい料理を作ることができて。
二人はご機嫌だった。
そんな二人を見ていると、胸のあたりがほっこりとした。
みんなが仲良くしているところを見ると、自分のことのようにうれしい。
ずっと、こんな光景が続いてほしいな。
「……」
ふと、ニーナがこちらをじっと見つめていた。
……正確に言うと、ステーキを見つめていた。
ちょろっとよだれが垂れている。
「ニーナも食べるか?」
「ふぇっ……いい、の? レインのもの、なのに……」
「ニーナが作ったんだから、ニーナも食べないとな。あと、先生としてソラも食べないと。ほら、みんなで一緒に食べよう」
「んっ」
「はい」
ニーナの作った料理を三人で食べて……
のんびりと穏やかな時間を過ごすのだった。
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