272話 ホームグラウンド
帰りの旅は順調だった。
行きの時みたいに、魔物に襲われている馬車を発見することもなくて……
何事もなく進むことができた。
……まあ、ソラとルナは馬車に酔って大変だったのだけど。
急ぐ理由はないので、なるべく二人に負担をかけないようにゆっくり進んでもらった。
そのおかげで、五日で済むところを一週間かかったのだけど……
なにはともあれ、無事、ホライズンに帰ってきた。
久しぶりの我が家を懐かしく思いながら、家の扉を開けるのだけど……
「「「うわぁ……」」」
扉を開けると、みんな、揃って微妙な顔になった。
一ヶ月以上放置していたから、あちらこちらに埃が溜まっていた。
庭の草木も伸び放題だ。
お化け屋敷に逆戻りしてしまったみたいだ。
長旅で疲れているところ申し訳ないのだけど、さすがにこれを放置することはできない。
こんなところで寝るのもイヤだろう。
なので、さっそく大掃除をすることにした。
「にゃー、埃のせいで鼻がむずむずするかも……ふぁ……ふぁ……はっくしょんっ!!!」
「きゃ!? ちょっとカナデ、こんなところでくしゃみをしないでくれる? 埃が飛ぶじゃない」
「そ、そんなこと言われても、私たちは鼻とか敏感だから……ひゃっくしょん!?」
「まったくもう、このくしゃみ猫は……」
「くしゃみ猫!?」
「くしゅんっ」
ニーナも埃が辛いらしく、くしゃみをしていた。
「あう……ごめん、なさい」
「ううん。ニーナはいいのよ、気にしないで」
「差別だよ!?」
「あによ。なら、ニーナも責めろっていうの? カナデは鬼畜ねぇ」
「う……そ、それは……」
「わたし……悪い子?」
「う、ううん! そんなことないよ! ニーナはいい子、よしよし」
みんな、ニーナに甘かった。
甘いというか、可愛がられているのかな?
末っ子ポジションだからな。
「「ぐへぇ……」」
ソラとルナは馬車酔いからすぐに回復することができず、ソファーの上で横になっていた。
顔が死んでいるけど、大丈夫だろうか……?
「ソラ、ルナ。大丈夫か? 水、飲むか?」
「ありがとうございます……」
「ほしいのだ……でも、ちょっとでいいのだ……」
「ほい、任せとき」
久しぶりの我が家ということで、ティナは人形ではなくて、幽霊モードだ。
幽霊の体の方が動きやすいのか、いつもよりテキパキとしていた。
水差しをコップを念動力で運び、ソラとルナの介抱をする。
その一方で箒を操り、サササッと床を綺麗にしていく。
さらに雑巾までも操り、あちこちを綺麗に拭いて……
「……すごいな」
「ん? なにがや?」
「ティナ、なんかパワーアップしていないか? 以前は、そこまで色々なことを同時にできなかったような……」
「んー、せやろか? まあ、本来の体やし……うーん、でも、言われてみると力の幅が広がった気がするな。なんでやろ? ま、便利になったからええとしておくか!」
後で聞いた話だけど……
ガンツが作った人形に取り憑いている時は、常時、微細な魔力を放出している状態らしい。
ずっとずっと筋力トレーニングをしているような状態だ。
そんなことをしていたものだから、ティナの魔力が底上げされて……
意図しないうちに魔力のトレーニングをしていた、ということらしい。
「さて、俺も負けてられないな」
ティナ一人に任せるわけにはいかないし、ササッと掃除をしてしまおう。
雑巾を片手に、俺は家の汚れと向かい合った。
――――――――――
みんなで家を綺麗にして、庭を整えて……
ついでに傷んでいるところを補修して……
あれやこれやとしていたら、全部が終わった頃には完全に日が暮れていた。
みんなも疲れているし時間もないし、今からごはんの準備をするのは大変だ。
というわけで、今日は久しぶりに外食をすることになった。
宿だけではなくて、食事もできるところへ足を運ぶ。
「いらっしゃいませー……って、シュラウドさん!」
ウェイトレスがこちらを見て驚いた。
彼女は、昔この店に通っていた頃、色々とよくしてくれたウェイトレスだ。
馴染みの店員さん、という感じだ。
「シュラウドさんじゃないですか! 確か、王都に行ったって聞いてましたけど……戻ってきたんですか?」
「ああ、今日の昼過ぎに。で、今まで家の掃除をしてて……もう作る時間とか気力とかないから、今日はここで食べようかな、って。七人だけど、席は空いているかな?」
「はいはい、もちろんですよー! 七人さま、シュラウドさん御一行、案内しまーす」
なぜ声を高くして言う?
ちょっと恥ずかしいのだけど……
「シュラウドだって!?」
「おいおい、レインが帰ってきたのか」
「昇格試験を受けに行ってたんだよな? 結果はどうだったんだ?」
ウェイトレスの言葉を聞きつけて、どっと人が押し寄せてきた。
「にゃにゃにゃ!? にゃにごと!?」
「どうして、ソラ達はこんなにも注目されているのですか……?」
「おいおい、そんなこともわからねえのか?」
ソラの言葉を聞いて、押し寄せてきた人の一人が笑いながら言う。
「レインやその仲間のお前さんらは、この街の英雄だからな。その英雄が街を空けて……しばらくぶりに帰ってきたんだ。そりゃ、注目の的になるさ」
「それと、なんていうか……シュラウド達がいないと物足りないんだよね。つまらないというか寂しいというか……だから、帰ってきたことがうれしいんだよ。おかえり」
街の人や冒険者など、色々な人が次々に声をかけてくれる。
なんていうか……うれしかった。
俺はこの街に受け入れてもらっているんだ。
街の人に仲間と思われているんだ。
「にゃふー。レイン、レイン」
「うん?」
「こういうの、なんかいいね」
「……そうだな」
帰る場所があって……
そして、迎えてくれる人達がいる。
それはとても幸せなことだと思う。
「なあなあ、レイン。王都はどうだったんだ? 話を聞かせてくれよ」
「ああ。それじゃあ、飲みながらにするか」
その日、夜遅くまで飲み食いをして……
久しぶりに二日酔いになってしまうくらい、みんなで一緒になって楽しむのだった。
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