269話 堕ちた勇者
光が一筋も差すことのない王城の地下牢獄にアリオスの姿があった。
以前にもアリオスは牢に入れられたことがあるが、あの時とは状況がぜんぜん違う。
一人一人、牢があてがわれて、完全に仲間と分断されている状態で……
さらに三つの魔力錠をかけられて、力を完全に封印。
その状態で鎖に繋がれて肉体の自由も封じられていた。
「くそっ、くそくそくそ……! なんなんだ、これは!? なぜ勇者である僕がこのような目に遭わないといけない!」
自由を奪われながらも、なおアリオスは恨み節を吐き続けていた。
なぜ、このような状況に陥ってしまったのか?
なぜ、このような扱いを受けているのか?
それらは全て自業自得であるのだけど……
そのことを理解することもなく、当然、反省することもない。
ただただ理不尽だと吠えるだけだ。
まるで子供のようだった。
いたずらをして叱られて……
しかし、反省することなくふてくされる。
アリオスの今の姿はまさにそれで、何も変わっていない。
「アッガス! リーン! ミナ!」
仲間の名前を呼ぶけれど反応がない。
それもそのはずだ。
万が一のことを考えて、アリオスとその仲間は別々の場所に収監されている。
「聞こえないのか!? アッガス! リーン! ミナ! キミ達の力で、なんとか錠を破ることはできないか!? 聞こえているか!?」
仲間の力を頼りにするアリオスだけど、それに対する反応はない。
そもそも……
例え仲間がこの場にいたとしても、その要求に応えることはできないだろう。
あるいは、応えなかったかもしれない。
仲間もアリオスに従い、増長した行動をとったものの……
基本的なことを考えると、全ての元凶はアリオスにある。
アリオスの後先考えない行動が仲間を巻き込み……結果、転落した。
そのようなアリオスに力を貸すだろうか?
今まで通りの信頼を向けるだろうか?
子供でも少し考えればわかるようなことなのだけど、アリオスがそのことに気づくことはない。
ただただ、都合よく、仲間の名を呼ぶことしかできない。
「……哀れだな、アリオスよ」
「あなたは……!」
気がつけばアルガスが牢の前にいた。
話をしにきたというよりは、様子を見に来たという感じだ。
「頭は冷えたか?」
「今すぐにここから出してください! 僕は勇者だ! このような扱いを受ける覚えなんてない!」
「ふぅ……どうやら、これだけの目に遭いながら何一つ学んでいないみたいだな」
「僕は間違ったことはしていない!」
「無実の人間を陥れようとして、そのために複数の冒険者を殺害したことが正しい行いだと?」
「そ、それは……」
「それだけではない。南大陸の悪魔の事件の時も、明確な証拠こそないが、冒険者を一人、手にかけたと聞いている。他にも色々と好き勝手していたみたいだな?」
「ぐっ……」
アルガスから放たれる威圧感に負けてしまい、アリオスは何も言えなくなってしまう。
「今日は一つ、伝えることがある。」
「……なんですか?」
「貴様の罪を断じる日が決まった。明後日だ」
「なっ……!?」
アリオスは衝撃を受けた。
アルガスが口にした死刑という言葉を信じていなかったのだ。
というのも、これまでにも度々、似たような注意を受けたことがあった。
しかし、アルガスは本気で罰を与えることはなくて……
いずれも未遂、あるいは大きく減刑されたもので終わっていた。
それ故に、今回も死刑はないだろうと考えていた。
ただの脅しだろう。
そうタカをくくり、安心していた。
しかし今……アルガスは本気の目をしていた。
「ほ、本気で言っているのですか!? 僕は勇者で……!」
「まだ言うか。貴様の勇者の資格は剥奪した。今は、ただの愚者でしかない」
「ば、ばかな……」
「明後日まで時間はある。それまでに己の罪と向き合い、少しでも反省するといい」
アルガスが背中を向けて立ち去る。
その背中を引き止めることもせず、アリオスは呆然としていた。
――――――――――
「なんで……どうして、こんなことに……」
アリオスは頭を抱えるようにしてうずくまっていた。
アルガスから告げられた死刑という言葉が頭を離れない。
自分は勇者なのに。
全ての人々から崇められる存在なのに。
それなのに、どうして……
「……そうだ、レインだ。あいつのせいで全てが狂った、おかしくなった……あいつの、レインのせいだ……! そうに決まっているっ!!!」
どう考えても逆恨み以外のなにものでもないのだけど、今のアリオスにまともな言葉は届かない。
呪詛を吐くように恨み節を口にしながら、レインに対する憎しみを募らせていく。
誰かを敵にして、自分が犯した罪から目を逸らす。
今までアリオスがしてきた現実逃避の方法だった。
「くそっ、ちくしょう! くそくそくそぉおおおおおっ!!! こんなところで僕が、この僕が! 終わってたまるものかっ、こんなところでっ!!!!!」
二度もレインに負けた。
プライドを粉々に打ち砕かれた挙げ句、みじめな牢に閉じ込められた。
全てレインのせいだ。
この恨みを晴らさずに死ぬわけにはいかない。
逆襲をしなければいけない。
「そうだ、僕が正しい……僕が絶対なんだ。だから、レインが泣いて許しを請わなければいけないんだ……!!!」
憎悪の炎を最大限に燃やしたその時、
「なんだ……?」
ドサリと、見張りの騎士が倒れた。
不思議に思っていると、見慣れた姿が現れる。
「モニカ……!」
「しっ……大きな声を出してはいけません、アリオスさま」
モニカは声を潜めてそう言うと、倒れた騎士の体をあさり、牢の鍵を取る。
それを使いアリオスの牢を開けた。
「遅れてしまいもうしわけありません。助けに来ました」
「僕を助けてくれるのか……?」
「はい、もちろんです。すでに他の方々の救出も済んでいます」
「そうか……よくやってくれた。さすがモニカだ、頼りになるよ」
「いえ。私はアリオスさまのために動くだけですから」
「しかし、王は僕を反逆者と言う……この後、どうしたものか……」
「それについては安心してください。私には、とても頼りになる方がいますから。さあ、アリオスさま……私と一緒に仲間のところへ行きましょう?」
そう言うモニカは笑っていた。
ひどく歪な笑みを浮かべていた。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




