268話 冒険者として歩む
「……ふぇ?」
みんなが驚く中、ニーナはよくわかっていない様子できょとんとしていた。
「あの……お客様?」
「はっ!?」
店員さんに変な目で見られてしまう。
「あっ、いえいえ、なんでもありません! 大丈夫ですっ」
「そ、そうですか? 問題がないのなら……はい。追加の注文などありましたら、気軽にお声をおかけください」
店員さんはスマイルを浮かべて、再び奥に消えた。
「ふぅ……」
もしも今の話を聞かれていたと思うと……
心臓に悪い。
「えっと……みんな、静かにな? 驚く気持ちはわからないでもないけど、内容が内容だから、あまり他の人に聞かれたくないんだ」
「う、うん。ごめんね……」
「でも、仕方ないじゃない……レインが次代の勇者に、なんて……」
「いつの間にそのような話になったのですか?」
「というか、アリオスはどうなるのだ? よくわからないことが多すぎるのだ」
みんなが不思議そうな顔をして……
それを見た俺も首を傾げる。
「あれ? 話してなかったか?」
「話してないで! なんも知らんっ」
「アリオスが捕まったことはわかるけど、勇者のことは……ああ、そっか。そういえばまだ話していないか」
途中、アリオスに陥れられそうになったりみんなが捕まったりしてたせいで、俺が勇者の血を引いていることなど、その辺りの事情を話すことをすっかり忘れていた。
ちょうどいい機会なので話しておこう。
俺が勇者の血を引いていること。
アリオスは勇者の資格を剥奪されて投獄されたこと。
そして、王から次代の勇者になってほしいと言われたこと。
それらをまとめて説明した。
「ふぁ……レインが勇者の血を……すごい、ね」
「なるほどね。レインのとんでもテイム能力は、勇者の血を引いていたからなのね。それなら説明がつくし、納得いくわ」
俺の話を聞いて、一部は納得顔で頷いて……
「よっしゃっ!!! あのボケ勇者、ついに捕まったか! しかも投獄されたんか! ざまあみろやっ」
「差し入れしてやろうか、なのだ。くふふふっ、牢の前でヤツの大好物をちらつかせて、でもあげず、目の前で食べてやるなんてとてもおもしろそうなのだ」
一部はアリオスの逮捕にざまあみろと笑い……
「にゃー……レインが次の勇者に……すごいっ、すごいね!」
「すごいですね、大出世ではないですか。ソラはレインの使い魔として、そのことをとても誇らしく思いますよ」
一部はとても感心していた。
「ねえねえ、それじゃあこれから私達が勇者パーティーになるの?」
「ふふふ、サインとか求められるかもしれないのだ。うむ。今からサインの練習をしておいた方がいいな」
「あたし、目立つことは好きじゃないんだけど……まあ、敬われるっていうのは悪くない気分ね。ふふんっ」
みんな、あれこれと妄想をしていた。
それに水を差す形になって申し訳ないのだけど……
「あー……さっきも言ったが、勇者の話なら断ったぞ」
静寂。
そして……
「「「「「なんでっ!!!!!?」」」」」
見事なまでに声を重ねて、みんなが目を大きくして驚いた。
……ちなみに、ニーナはきょとんとしていてマイペースだ。
「あのー……お客様?」
「あははは、な、なんでもないです。なんでも。気にしないでください」
「はあ……」
店員さんをなんとかごまかしつつ、みんなに静かに、というジェスチャーをする。
「こんな話、他に聞かせられないから……声量を抑えような?」
「で、でもでも……どうしてなの? せっかく勇者になれるのに、断っちゃうなんて……ねえねえ、どうして?」
カナデがわけがわからないという様子で問いかけてくる。
他のみんなも似たような感じだ。
まあ、気持ちはわからないでもない。
ただの冒険者から勇者にランクアップなんて、とんでもない大出世だ。
普通、断るわけがない。
ないのだけど……
「うーん……なんていうかな」
今の俺の心を言葉にするのは難しい。
でも、きちんとみんなに向き合いたいから……
拙い言葉ながらも、一つ一つ、心を言葉にして並べていく。
「以前、カナデとタニアには話したことがあるんだけど……俺にできることがあるのならがんばりたいと思う。どんなこともやっていきたいと思う。そう考えていたんだけど……でも、まだ覚悟が足りないと思うんだ」
「にゃん? 覚悟?」
「勇者としてやっていくための覚悟、っていうところかな」
勇者になりました。
魔王を討伐することを目標にします。
……なんて、そんな簡単な話じゃない。
勇者という資格は重い。
とてつもなく……おそらく、俺が想像している以上に重い。
人々からの期待を受け止めないといけないし……
基本的に、失敗することは絶対に許されない。
そしてなによりも、勇者は勇者の使命を最優先にしなければいけない。
例えば、仲間の命を助けるか、あるいは魔王の生命を奪うか。
そんな二者択一の場面に遭遇したとしたら……
迷うことなく、魔王にトドメを刺せるようにならなければいけない。
それが勇者というものなのだ。
「俺は……まだそこまでの覚悟はできていないんだ。いざという時、みんなを犠牲にすることなんて……とてもじゃないけれどできそうにない」
「それは極端な話だと、ソラは思うのですが……」
「いや。あながちそうでもないんだ。いつ、どういう状況に陥るかわからないっていうのは、この前の事件でわかっただろう?」
「うっ……それはまあ、そうですね……」
「それに魔王と戦うとなると、危険は避けられない。そんな戦いを仲間に強いるということは、仲間を犠牲にするようなもので……正直なところ、それはちょっと、って考えてしまうんだよな」
「レインは優しすぎるのだ。我らのことは気にしないでいいのだぞ?」
「そういうわけにはいかないよ。みんな、俺の大事な仲間なんだから」
俺にできるのなら、その力があるというのなら……
魔王を倒して世界を平和にしたいと思う。
でも、そのために仲間に危険を強いるとなると、どうしても迷ってしまう。
甘いと言われたらその通りで、何も反論できない。
でも……
俺にとっては、本当に大事な仲間なんだ。
自分の命と同じくらい……いや、それ以上に大事な仲間だ。
「レインは気にしすぎじゃない? 勇者の使命っていうの、深く考えすぎてるような気がするんだけど、あたしは」
「まあ、そうかもしれないな」
「もっと気楽に考えたら?」
「そういうわけにはいかないさ。きちんと考えて、その責任と向き合っていかないと……そうじゃないと、アリオスみたいになってしまう」
「うっ……そ、それはイヤね。ものすごい説得力があるわ」
「だろう?」
軽く冗談めかして言ってみる。
タニアがくすりと笑う。
「それと、冒険者でないとできないこともあると思うんだ」
「うん? それはどんなことや?」
「普通の……ぼう、けん?」
「ニーナ、惜しい」
「ざんねん……」
「っていうことは……依頼やな?」
「まあ、ほぼほぼ正解っていうことで」
いつの間にかクイズ形式になっていた。
「勇者になると、普通の依頼は請けられなくなるんだ。勇者が簡単に依頼を引き受けていたら誰も彼も頼むようになるとか……あと、そんなことをしているヒマがあるなら魔王討伐の旅を進めろ、っていうのもあるな」
「まあ、そういうもんやろうな、勇者ってのは」
「それだと、助けられるのに助けられない人が出てくるかもしれない。そういうのは……イヤなんだ、俺は」
「うん……レインは、そういう人……だよね」
「ええと思うで、そういう考え。ウチはその方が好きや」
ニーナとティナが俺の考えに賛同するように笑ってくれた。
他のみんなも同じような顔をしてくれている。
みんなが一緒にいて……
傍にいてくれてるおかげで……
俺は自信を持って前に進むことができる。
仲間っていうのは、ただ戦いを共にするだけじゃない。
一緒にいることで心も支えてくれるようなものだと、改めてそう感じた。
「だから、俺は……世界を救う勇者じゃなくて、身近な人を助けることができる冒険者を、このまま続けたいと思ったんだ。それが俺の出した答え」
「そっか……うん! すごくレインらしい答えだね。私はいいと思うな」
カナデが笑顔で賛同してくれた。
それを合図にするかのように、他のみんなも頷いてくれる。
「もちろん、魔族との戦争が本格的に開始されるとか、そういうことがあれば、そちらもがんばるつもりだけどな」
「でも、レインが勇者になるのを断ったら、空席になるわけよね? それって、問題ないのかしら?」
「問題はないよ。次の勇者候補は俺一人じゃなくて、他にもいるみたいだから」
「へぇ、そうなのね……次もあのクズ勇者みたいなのになったりしないわよね?」
「タニア、けっこう言うな……まあ、反論できないし、むしろ同意見だけど」
「レインも言うじゃない」
互いにくすりと笑う。
「その心配は必要ないかな。王は賢明な方だから、同じ失敗は繰り返さないだろうし……色々と対策を考える、ってさ。まあ、すぐに勇者が決まるわけじゃないけどな」
「誰かさんが断ったから、すぐに決まらなくなったのだ!」
「……それは言わないでくれ」
ルナの指摘に、俺は苦々しい顔をして……
そんな俺を見て、みんなが笑うのだった。
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