265話 その後……・その2
「こんにちは、シュラウドさん」
王都の冒険者ギルドを訪ねた。
ナナリーさんが笑顔で迎えてくれる。
でも、すぐにその顔が曇る。
そのまま頭を下げる。
「今回の件、誠に申し訳ありませんでした。シュラウドさんを誤認逮捕するだけではなくて、その後も刃を向けてしまい……言葉にしても仕方ないかもしれませんが、当ギルド、そして冒険者一同、深く反省しています。後に、ギルドマスターである私から正式に謝罪をさせていただく予定です」
「えっと……そんなに気にしないでくれ。ナナリーさんが悪いわけじゃないし……」
「いいえ、そういうわけにはいきません。ギルドの一員である以上、私にも責があります。できる限りのことはさせていただきます」
「なら、あまり気にしないでくれるとうれしい。悪いのはアリオスで、言ってしまえば、他はみんな被害者だから」
「……本当に優しいのですね、シュラウドさんは。妹が言っていた通りの方です。おっと、これは秘密でした」
俺、どんな風に言われているのだろう……?
「って、ちょっと待った」
さらりと流したが、驚きの台詞が含まれていなかったか?
「ナナリーさんがギルドマスター、とか言わなかったか……?」
「あ、はい。その通りです」
「……なんで?」
「えっと、私も戸惑っているのですが……先の一件で、前ギルドマスターを含む上層部が責任をとらされて辞任となり……その後継に、なぜか私が指名されてしまいまして……」
困ったような顔でナナリーさんがそう言う。
驚いた。
あの事件の余波が、まさかこんな形で現れるなんて……
でも、ナナリーさんがギルドマスターというのは頼りになるかもしれない。
なんだかんだで仕事ができる人だからな。
「そのようなわけで……ギルドとしてはなんでもするつもりなので、なにかありましたら遠慮なくおっしゃってください」
「えっと……わかった。その時は、甘えさせてもらうよ」
「まずは、ゆっくりとお休みください。王都にはそういう観光施設もたくさんありますから、のんびりできると思います。もちろん、費用はこちらでもちます。せめてもの謝罪として……」
「そうさせてもらうよ。それで、俺を呼び出した用事は?」
ナナリーさんから大事な話があると言われて、ギルドを訪ねたのだ。
「あ、そうでしたそうでした。ついうっかり、忘れてしまうところでした。とても大事な話なのに忘れたりしたら、私、すごく怒られてしまいます」
ナタリーさんとよく似ているが……
ややうっかりなところがあるのだろうか?
「シュラウドさん、冒険者カードは持っていますか?」
「持っているよ」
肌見離さない方がいいとナタリーさんに言われたことがあるので、寝る時と風呂の時以外は持ち歩くようにしている。
「では、そちらを貸していただけませんか?」
「カードを? えっと……はい、どうぞ」
言われるままナナリーさんに冒険者カードを渡した。
すると、ナナリーさんはマジックペンを持つ。
魔力で文字を書くという、特殊な魔道具だ。
それを使い、俺の冒険者カードになにかを書き込んだ。
「よし、これで完了です。はい、どうぞ」
ナナリーさんから冒険者カードを受け取る。
そのカードには……『Aランク』と記載されていた。
「これは……」
「おめでとうございます、シュラウドさん。シュラウドさんのAランクへの昇格は認められました」
ぱちぱちぱち、とナナリーさんが笑顔で拍手をした。
「昇格試験の結果は特に問題なし。その上、勇者様……ではなくて、反逆者アリオス・オーランドの企みを暴いて、事件を解決に導いた功績はとても大きいです。なので、満場一致でシュラウドさんのAランク昇格が認められました。これくらいで謝罪になるとは思いませんが……」
「そっか……そうなのか」
実を言うと……
昇格試験のことはすっかりと忘れていた。
アリオスの罠にハマり……
みんなと離れ離れになり……
サーリャさまに助けてもらい……
ホント、濃密な日々だった。
あまりにも濃密なものだから、事件以前に起きたこと……昇格試験のことをすっかりと忘れていた。
でも……そっか。
俺、Aランクに昇格することができたのか。
冒険者になり、Fランクから始めた時のことが妙に懐かしい。
何年も前みたいに、遠い昔のように感じてしまう。
カナデと出会い。
タニアと出会い。
ソラとルナと出会い。
ニーナと出会い。
ティナと出会い。
大事な仲間に恵まれた。
それ故に、今、この地点まで駆け抜けることができたと思う。
アリオスの罠にハマり、一時期、みんなと離れ離れになっていたからこそ、仲間が大事ということがよくわかる。
改めて……ありがとう。
まずは、心の中でつぶやいておいた。
直接、言葉をかけるのはまた後だ。
ちなみに、今はみんなと別行動をしている。
みんなは今は、健康検査を受けていた。
一週間、牢に入れられて……
その上、魔力錠なんてものをつけられていたからな。
健康を害していてもおかしくはない。
なので、サーリャさまに頼み込み、健康検査を受けさせてもらったのだ。
サーリャさまは快く引き受けてくださった。
感謝だ。
というか、サーリャさまに助けられてばかりだな、俺。
相手は王女さまなのだけど、でも、そんなことは関係なくて……
近いうちに何かお礼をしたいと思った。
どんなことをしたら、サーリャさまは喜んでくれるかな?
「シュラウドさん? どうしたんですか? ぼーっとしているみたいですが」
「あ……っと、ごめんごめん。色々あったなあ、って考え事をしてた」
「ふふっ、それも仕方ないですね。話を聞く限り、本当に色々なことがあったようなので。ただ、今は私の話をきちんと聞いてくださいね? 後で資料を送るとはいえ、Aランク冒険者に関する説明は聞いておいて損はありませんからね」
「わかっているよ。もうぼーっとしない、ちゃんと聞く」
「はい、お願いしますね。では、まずはAランク冒険者の権限ですが……」
その後、30分ほどナナリーさんの説明を受けて……
俺はギルドを後にした。
――――――――――
翌日。
王城の一室へ赴くと、みんなの姿があった。
健康検査は王城で行われて……
終わった頃は夜も遅く、そのまま城に泊まったらしい。
最近は俺もサーリャさまのお世話になりっぱなしで、城に滞在しているのだけど……
もちろん、みんなとは部屋は別々なので、一日ぶりの再会になる。
事件が解決してからも忙しくてまともに話ができなかったから……
久しぶりにゆっくりと話をすることができそうだ。
「あっ……レイン♪」
小さいニーナがこちらに気がついて、ぽふんっ、と抱きついてきた。
ニーナをしっかりと受け止めて、その頭を撫でてやる。
「どうだった、健康検査は?」
「ん……わたし、元気……だよ? 問題……なし。えへんっ」
なぜか、ニーナが得意そうな顔になる。
最近、ルナに影響を受けているような気がした。
「そっか。問題ないならいいんだけど……」
『覚醒』という謎の力で大人の姿になったニーナだけど……
あの戦いの後、すぐに元の姿に戻ってしまった。
どういう条件で大人の姿になったのか?
なぜ元の姿に戻ったのか?
色々な部分が謎だ。
ルナも詳しいことは知らないらしく、体に害があるかどうかも判別できないらしい。
なので、今回の健康検査ではニーナのことを一番に心配していたのだけど……
問題ないみたいでよかった。
「他のみんなは? 大丈夫だったか?」
「うぅ……レイン、我はもうダメなのだ……不治の病『甘いもの食べないと死んでしまう病』を患っていることが判明したのだ。今すぐケーキを……なければ、クッキーでもよいぞ?」
「このように、いつものたわごとを口にできるほどにルナは元気なので、心配いりませんよ。あ、もちろん、ソラも元気ですよ」
双子はいつも通りだった。
ホントにいつも通りだから、安心すると同時に、ちょっと笑えてきてしまった。
「ウチも問題ないでー! といっても、ウチは幽霊やから体調不良とかないんやけどな」
「確かにそうかもしれないけど、精神的な病気にかかる恐れはあるかもしれないだろ? 大丈夫なのか?」
「平気やで。ウチは心が図太いからな。そんな病気にかかってるヒマなんてないわー」
「うん。元気そうでよかった」
ティナは元気なことをアピールするように、人形の体をやたらめったらと動かしていた。
元気なのはわかったから、少しは落ち着いてほしい。
人形とはいえ、そんな風に大胆に動いたら……色々と見えてしまいそうだ。
「カナデとタニアは?」
「にゃん。私も問題ないよ。元気いっぱいお腹いっぱい!」
「朝からパンを山程食べていたものね。よくあんなに食べられるわね……太っても知らないわよ?」
「にゃっ!? ふ、太る……い、いっぱい体を動かしているから平気だし」
「そうかしら? ここの脇腹、つまめるんじゃない? このつまみ猫」
「つまみ猫!?」
どうやら二人も元気らしい。
笑顔いっぱいで、楽しそうに元気にしている。
これで、誰一人問題ないことを知ることができた。
安心した。
もしもみんなに何かあったら……
アリオスを……そして、俺自身を許せなくなりそうだからな。
「ところで、レインは何をしていたの?」
「あ、そうだ。聞いてくれないか? 実は、冒険者ギルドで……」
俺はみんなにAランクに昇格できたことを話して……
さらに、色々な話をした。
引き離されていた時間を埋めるように、たくさんの話をした。
それは、とても温かくて……
優しい時間だった。
「……うん?」
どれくらい話しただろうか?
しばらくしたところで、コンコンと扉がノックされた。
「失礼しますね」
ややあって、扉が開いて、サーリャさまが姿を見せた。
「お話し中、失礼いたします。レインさん、今、お時間はありますか?」
「えっと……はい。ありますけど、なにか?」
「父が……王がレインさんと話をすることを望んでいます」
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