262話 逆転、逆転、大逆転
「なんだ、それは……? うん? 見覚えがあるぞ……そう、王女が身につけていた首輪だな?」
「正解。よく覚えているじゃないか」
「王女も探さなければいけないからな。それで……その首飾りがどうしたんだ?」
アリオスが呆れたように言う。
まだ決着がついたわけではないのに、自分の方が優位だと信じて疑っていないのだろう。
その自信はどこから来るのやら。
でも、それは油断以外の何者でもないので、こちらとしては非常に助かる。
「こいつはサーリャさまから預かったもので、ちょっとした力を秘めた魔道具なんだ」
「……なに?」
「サーリャさまは継承権は低いものの、れっきとした王族だ。非常時などは、多くの民に自分の声を届けなければならない時がある。そういう時にこの魔道具を使うんだ」
「まさか……」
アリオスの顔が青くなる。
魔道具の効果が想像できたのだろう。
「今の話は、この魔道具を通じて王都に届けられた。王都の民、全員が聞いているだろうな」
「なっ……なぁあああああ!!!?」
「これなら、俺の話を信じてくれると思わないか?」
「レインっ、貴様ぁあああああっ!!!!!」
激高したアリオスが斬りかかってきた。
しかし、怒りに支配されているせいで剣筋が荒い。
余裕を持って避けて……
カウンターでナルカミのワイヤーを射出した。
指先でワイヤーを細かく操作して、アリオスの体を拘束する。
「ぐっ……このようなことで!」
「そいつは特別製だ。かなりの強度を誇るから、いくらアリオスでも破ることはできないぞ」
気がつけば、遺跡の方から聞こえてくる争いの音が消えていた。
たぶん、みんなが制圧したんだろう。
魔力錠なんてものがなければ、みんなが遅れを取ることはない。
「勝負あったんじゃないか?」
「くっ……!」
アリオスが睨みつけてきた。
しかし、体は拘束されていて動くことはできない。
やがて……
諦めたのか、アリオスは抵抗するのをやめた。
体からゆっくりと力を抜いた。
「忌々しいが……僕の負けみたいだな」
「素直に負けを認めるなんて珍しいな」
「今回は認めてやるさ。まさか、そのような魔道具をレインが持っていたとは思っていなかったからね。侮ったことを反省しなければならない」
アリオスは妙に落ち着いていた。
俺を陥れたことが露見したというのに、まだ余裕がある。
どういうことだ?
「でも……次はこうはいかない」
「なんだって?」
「確かに、僕はキミを陥れた。それは認めよう。しかし、それは国のためを思っての行動だ。最強種なんてものを従える者がAランクの冒険者になり、ある程度の権力を持てばどんなことになるか……そのことを危惧したのさ」
「アリオス、お前……!」
「少々、行き過ぎだったことは認めよう。だが、しかし、僕の行いに間違いはない。正しいことをしたと、胸を張って断言しよう」
苦しい言い訳だが……
しかし、まだ決定的ではない。
アリオスは俺を陥れようとしただけ。
それだけを見るのならば、まだギリギリでセーフだろう。
致命的なポイントは犯しておらず……越えてはならない一線は越えていない。
故に……
多少の罰は受けるかもしれないが、自由が奪われることはない。
勇者としての地位を保つことができる。
そのように考えているんだろう。
コイツ……なんて厄介なヤツなんだ。
反省という言葉を知らないのか?
いっそのこと、このまま切り捨ててしまいたくなる。
アリオスを放置しておけば、また同じことが起きるかもしれない。
仲間に手を出すかもしれない。
そう思った瞬間、怒りが湧いてきた。
アリオスは仲間を傷つけた。
俺の大事な仲間に手を出した。
みんなを……傷つけた!
「……」
俺は無言でカムイを構えた。
アリオスの顔がわずかにこわばる。
「僕を殺すつもりかい?」
「……」
「ふんっ……いいだろう。やれるものならやってみるがいいさ」
挑発するようなアリオスの言葉を受けて、俺はカムイを振り上げた。
ここで刃を振り下ろせば、今後の憂いを断ち切ることができる。
自衛として罪に問われることもないだろう。
ただ……
「……やめだ」
俺はカムイを鞘に戻した。
「はははっ、思った通りだ。キミに人を殺す勇気なんてない。ただのチキンだ」
「そうだな、そうかもしれない。ただ……」
アリオスに冷たい目を向ける。
以前、タニアが傷つけられた時は暴走してしまったけれど……
今度はあの時のような失敗はしない。
「俺はお前のようにはならない」
「……」
「自分の目的、欲望のために他の人を傷つけるような、そんなクズにはならない」
「くっ……!」
アリオスが忌々しそうに顔を歪めた。
「覚えていろよ……次こそは必ず!」
「いいえ、次はありません」
突然、第三者の声が響いた。
今の声は……!
「サーリャさま!」
振り返ると、護衛らしき騎士を連れたサーリャさまの姿があった。
サーリャさまがここにいるということは……
魔道具の解析が終わり全てが判明した……ということだろう。
果たして、その結果は?
「レインさん。首飾りを」
「どうぞ」
首飾りをサーリャさまに返した。
サーリャさまは首飾りの機能を停止させた。
これからする話は、ここだけの話にしておきたいらしい。
「そうか……そういうことか! くそ、王女がレインと組んでいたとは……」
サーリャさまの言動を見て、アリオスは俺達が横で繋がっていたことに気づいたらしい。
とても悔しそうな顔をしていた。
「サーリャさま。アリオスに次がないというのは……?」
「言葉の通りです。この者に、もう次はありません。処遇は父が戻らなければ決めることはできませんが……おそらく、勇者の資格は剥奪されるでしょう」
「な、なんだとっ……!?」
これは予想外のことだったらしく、アリオスが大きな声をあげた。
「ど、どういう意味だ!? 僕がレインを陥れようとした件か? 確かに行き過ぎた行動だったかもしれないが、全ては国のために……」
「そのような虚言、今更、私が信じるとでも? それに……証拠は出ているのです」
サーリャさまは、とある魔道具を取り出した。
俺が冒険者達を殺したという映像が収められている魔道具だ。
アリオスの顔が青くなる。
いや、青を通り越して白くなっていた。
「こちらの魔道具を解析したところ……真実の映像を発見しました」
「真実の映像……?」
「記録されていたレインさんは、別の者が化けていたものです。その者は、まずは対象の姿を記録、コピーする魔道具を使いました。それを利用することで、あたかもレインさんが殺人を犯したような映像を作り上げたのです」
そういえば……と、とあることを思い出した。
アリオスが柄にもなく伊達メガネをかけていた。
あれが対象を観察して、姿を記録、コピーする魔道具というのなら……
「偽りのデータを除去して、真実の映像を解析した結果……勇者アリオス、あなたが冒険者達を殺す映像が記録されていました!」
「ぐっ……そ、それは!?」
「レインさんに化けて、あなた自身が殺人をしたことが裏目に出ましたね」
「あっ……ぐっ、うううぅ……!?」
完全に追い詰められたらしい。
アリオスはもはや言葉も出ない様子で、ダラダラと汗を流していた。
「パゴスの村の事件で、あなたは冒険者を手にかけた。しかし、それは完全な証拠がないため、話は流れてしまいましたが……今度は違います。ここに完全な証拠があります。あなたが私利私欲のためだけに、なにも罪のない冒険者たちを殺したという証拠があります。言語道断。このようなことは、例え勇者といえど許されることではありません!」
裁きを告げる裁判官のように、サーリャさまは極めて厳しい声で言い放つ。
「アリオス・オーランド! あなたに勇者を名乗る資格はありませんっ!!!」
「っ……!!!?」
アリオスは雷に撃たれたように体を震わせて……
それから、がくりとうなだれた。
それは、アリオスの勇者生命が完全に終わった瞬間だった。
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