261話 追撃戦
みんなの活躍がすごい。
騎士達をちぎっては投げちぎっては投げ……
さらに、アッガス、リーン、ミナをオーバーキルしていた。
いや、たぶん死んでないけど……
圧倒していた。
気がつけば戦況はひっくり返っていて……
誰も俺達を止めることはできない。
「くそっ、くそくそくそぉおおおおおっ!!! なんだこれはっ!? どうしてこんなことになるんだ!!!」
アリオスが発狂したような感じで叫んでいた。
「今度こそレインのヤツを……!!! それなのに、なんでっ……!!!」
「アリオスっ!」
「レイン、貴様……」
どこからどこまでがアリオスが企んだものなのか?
それはまだよくわからないが……
裏で事件を操っていたことは間違いない。
こいつは……みんなを傷つけた。
俺だけならまだ我慢できた。
しかし、仲間に手を出した。
絶対に許せない……!
なにを企んでいるか知らないが……
完膚なきまでに粉砕させてもらう!!!
「くそっ……!!!」
アリオスが逃げ出した。
頭に血がのぼっていても、状況を見極めることはできたらしい。
逃がすものか!
「ティナっ、ニーナを頼む! なんかとんでもないことになっているが……あの体、たぶん、まだ慣れていないはずだ」
ニーナは同時に十くらいの亜空間を開いて、獅子奮迅の活躍を見せているが……
その額には汗が浮かんでいる。
いきなり急成長したことと、元の限界を超える力を行使していることで疲労が溜まってきているのだろう。
誰かのサポートが必要だ。
「了解やで! 任せとき。レインの旦那はどうするんや?」
「俺はアリオスを追う。このまま野放しにはできないからな」
「気をつけてな!」
「ああ、大丈夫だ!」
アクスとセルが声をかけてくる。
「レイン、ここは俺達に任せておけ! 俺の誇りに賭けて、お前の大事な仲間、これ以上傷つけさせたりしねえよ!」
「レインはあの勇者を……!」
「わかった! アクス、セル、頼む!」
しっかりと頷いてみせて、俺はアリオスを追いかけた。
――――――――――
アリオスは遺跡を出て荒野に逃げた。
その背中をピタリとロックオンして、追って追って追い続ける。
野生動物を追いかけるために、色々な訓練を積んできたからな。
相手が勇者とはいえ、体力なら負けない。
「ちっ……しつこい!」
ほどなくして逃げ切れないと悟ったらしく、アリオスは足を止めて、俺と対峙した。
そのまま剣を抜いて構えた。
俺もカムイを抜いて構える。
「直接、僕の手で裁いてやるよっ! ああそうだ、最初からこうすればよかったんだ。回りくどい手なんて使わずに、こうしておけばよかった!」
「簡単にいくと思うな」
「ほざけっ! たかがビーストテイマーが、勇者である僕に敵うと思うなっ!!!」
「そのビーストテイマーに、一度、負けているんだよ。お前は」
互いに吠えて……再び、俺とアリオスは激突した。
「くっ!」
刃と刃がぶつかり、拮抗する。
アリオスの力は強い。
以前よりも遥かに成長していて……ギリギリと押し込まれてしまう。
これが勇者の血の力か!
「はあああああっ、ギガボルトぉっ!!!」
「っ!?」
至近距離でアリオスの魔法が炸裂した。
回避はできない!
なら……
「物質創造!」
俺とアリオスの間を遮るように、土の壁を作り上げた。
しかし、それで防ぐことは叶わない。
アリオスの魔法は土の壁を砕き、さらに俺に迫る。
「ぐうううっ……!」
雷撃に撃たれて激痛が走る。
ただ、我慢できないほどではない。
土の壁を盾にしたことで、ある程度、威力を軽減できたみたいだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……このクズが……!」
自爆覚悟の攻撃だったらしく、アリオスも多少のダメージを受けていた。
「勇者である僕に……このような真似を……! くそっ、くそくそくそ!!!」
アリオスは呪詛のように吐き捨てながら、俺を睨みつけてきた。
鋭く。
濁り。
闇闇とした瞳で睨みつけてくる。
俺がパーティーに在籍していた頃は、こんな目をするヤツじゃなかった。
傲慢なところは前々からだったけれど……
だが、こんな目をしたことはない。
いったい、なにがそこまでアリオスを駆り立てるのか?
「アリオス……お前、何を考えている?」
「何を……だと?」
「今回の事件、裏でアリオスが手を引いているんだろう? どういうからくりを使ったか知らないが、俺を殺人犯に仕立てあげた。そうだよな?」
「……」
アリオスは今度は何も答えない。
沈黙を保っている。
いや……完全な沈黙というわけじゃなかった。
くつくつと……小さく笑っている。
それは聞いているだけで身の毛がよだつような……
ありとあらゆる悪意を集めたような、おぞましい笑い声だった。
「そうさっ、そうだよ! そこまでわかっているなら、もう隠しておく必要はないか! レインっ、お前の言うように僕が全てを仕組んだのさ!」
「どうしてそんなことを……?」
「決まっているだろうっ、キミが邪魔だからだ! うっとうしいからだっ! うざいからなんだよっ!!!」
正直なところを言うと、そういう感情はパーティーを追放された俺が持つべきもののような気がするが……
そんな思いは飲み込みつつ、アリオスの話に耳を傾ける。
「あの時からだ……あの時から、僕の全てが狂った……」
「あの時?」
「この僕が……勇者であるこの僕がっ! ビーストテイマーなんかに負けるなんてありえないっ、あってはならないんだ、そんなことは!!!」
「アリオス、お前……」
まさか……
そんなことで俺を恨んでいたのか?
そんなつまらないことで、俺を陥れようとしたのか?
唖然としてしまう。
もっと深い理由があるのかと思っていたのだけど……
まともな理由なんてものは欠片もない。
ただの私怨じゃないか。
しかも、自己本位的な、同情なんてする必要もない身勝手な……
でも……
そんな理由だからこそ、ここまで深く憎むことができるのかもしれない。
あれこれと回りくどい理由が根幹にあるよりも……
たった一つのシンプルな理由があるだけで、人は、意外と前に進めるものだ。
アリオスの場合は、間違った方向に進んでいるが……
ここまで暴走するようになったのは、ある意味で、俺のせいかもしれない。
勇者という立場にあり、プライドが非常に高く……
そんなアリオスに敗北を味わわせた。
魔族でも魔王でもなくて、同じ人間に。
しかも、自分が追放した相手に。
相当なショックだっただろう。
こんなことまでしてしまうアリオスの原動力をようやく理解した気がした。
嫉妬。
苛立ち。
憎しみ。
それらの感情がアリオスを突き動かしているのだ。
結局のところ、人は感情で動くものだから。
……まあ。
だからといって同情するつもりはない。
やられた分は、きっちりとやり返させてもらう。
「なら……認めるわけだな? 俺を陥れたことを?」
「ああ、そうさ。全て僕の仕業だよ! でも、そんなことを知ってどうする? 勇者とただの冒険者……人々はどちらの話を信じるだろうな? 実は僕が犯人なんです、なんて訴えるつもりか? はははっ、やってみろよ。誰も信じてくれないさ!」
「確かに、俺が話しても信じてくれる人はいないだろうな。でも……アリオス本人が自白したとしたらどうだ?」
「……なんだと?」
俺は不敵に笑い……
サーリャさまから預かった首飾りの形をした魔道具を見せつけた。
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