258話 覚醒
みんな、傷ついていた。
カナデもタニアも……
そして、レインも。
悪い勇者のせいで、ひどい目に遭っていた。
なんでこんなことをするの?
なんで笑うことができるの?
わたしたち、なにもしていないのに……
「うぅっ……!」
以前、わたしは人間に捕まっていたけど……
その時は怯えてばかりで、泣いてばかりで……
なにもできなかった。
なにもしなかった。
でも、今は違う。
あの時とは決定的に違う。
ひどいことをする勇者に怒りを覚えていた。
頭に血が上る。
心が熱くなる。
ゆるせない。
ゆるせない。
ゆるせない。
わたしは……本当に怒っていた。
「でも……」
わたしになにができるんだろう?
あの人が言っていたことが本当なら、首の魔力錠はすぐに取れる。
そうすれば力を振るうことができる。
だけど……
わたしには力がない。
悪い勇者をやっつけることはできない。
なら、みんなを助けることは?
……それも難しい。
周囲の結界のような透明な壁。
亜空間を使えば、問題なく通り抜けられると思う。
でも、今のわたしの力だと一回につき一人が限界。
誰か一人を助けても……
その間に、残されたみんながひどい目に遭わされちゃう。
下手をしたら、勝手なことをしたわたしに怒って、勇者がみんなを……
やだ……!
やだやだやだ、そんなのいやだ!
わたし、笑えるようになったの。
それはみんなのおかげなの。
それなのに、みんながいなくなったりしたら……
もう二度と笑えないと思う。
「うぅ……」
どうしよう?
どうしよう?
どうしよう?
必死になって考えるけど、どうすればいいかわからなくて……
自分の不甲斐なさに涙が出てきてしまう。
「ニーナ、大丈夫やで」
鳥かごの中のティナが、隙間から手を伸ばして、ぽんぽんとわたしの頭を撫でた。
「……ティナ……」
「うちがニーナのこと、守るからな」
「で、でも……わたし……」
「安心してええよ。ニーナだけやなくて、もちろん、みんなのことも守るからな」
「あう……」
「ニーナの大事なもんは、二度と奪わせないで」
こんな時なのに、ティナはわたしを励ましてくれている。
なにもできないわたしのことを……
「にゃー、ニーナは心配しなくていいからね……あうっ!?」
「これくらい……くっ……すぐになんとかしてみせるから!」
カナデとタニアが笑う。
きっと、すごく痛くて辛いはずなのに……
でも、わたしに心配をかけないために笑っている。
「ニーナ、気をしっかり持つのですよ。こういう時は、心が折れた方が負けです」
「心……が……」
「我らは最強種。このようなつまらない罠にやられてしまうような存在ではないのだ! すぐに華麗な逆転劇を見せてやるぞ。諦めないことが大事なのだ!」
「諦めない…………」
ソラとルナの言葉が、私の心に刺激を与える。
心が折れたら負け。
その通りだ、って思った。
諦めたらそこで全部終わり。
でも……
みんなは諦めていない。
こんな状況に陥っても……
痛い思いをしても、辛い思いをしても、ぜんぜん諦めていない。
レインも同じだ。
今も必死になって戦っている。
わたしは?
……諦めようとしていた。
わたしはなにもできない、って……
力がない、って……
心が折れようとしていた。
「わたし……」
強くなったつもりでいた。
みんなと出会って、笑うことができるようになって……
神族としての色々な力も使えるようになって……
それで、強くなった。
なったと……勘違いしていた。
「わたしは……まだ……」
本当は強くなってなんていない。
弱いまま。
人間にいじめられていた時と変わっていない。
だって、簡単に諦めていたから。
心が折れていたから。
「でも……でもっ!」
まだ終わっていない。
やり直すことができる。
立ち上がることができる。
わたしは……まだ!
「ニーナ……? どうしたんや?」
ティナがわたしの内の変化に気づいたらしく、不思議そうな顔をした。
そんなティナに、わたしはにっこりと笑う。
「大丈夫……だよ」
「えっ?」
「わたし、いつも……みんなに助けてもらってばかり。だから……今度は、わたしがみんなを……助けるのっ」
わたしは首の魔力錠に手を伸ばした。
「ニーナ、それは……!? でも、このタイミングでどうするんや? ニーナの力じゃあ……」
「わかって、いるよ……」
今のわたしの力でみんなを助けることはできない。
なら、どうすればいいか?
答えは簡単。
強くなればいいんだ。
弱いわたしを捨てて……
強い心を持つ。
みんなみたいになればいい、たったそれだけのこと。
「大丈夫、だよ……わたし、強くなるから」
「ニーナ……?」
「みんなの隣に、レインの隣に……胸を張って、並んで……立つことができるように。強く……強く、なるのっ……!」
すぅぅぅ、っと大きく息を吸う。
それから、ゆっくりと吐いた。
それを何度か繰り返して、心を落ち着ける。
波一つない水面のように心が澄んでいくのがわかる。
大丈夫……わたしならできるよ。
弱いわたしとさようならするの。
強いわたしになるの。
わたしはっ……!
「いく、よっ……!」
私は手に力を入れて、魔力錠を外した。
それは、囚われていた殻から抜け出す蝶の羽化のような行為で……
「っ!!!!!」
わたしの体は光に包まれた。
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