255話 運命の日
翌日……俺はサーリャさまと別れて、色々な準備をした。
それから王都を出て、再び『大地の楔』へ向かう。
王都から離れたところにある、かつて砦として利用されていたという遺跡だ。
冒険者のAランク試験の会場として利用されて……
そして、アリオスの策略で大事な仲間達と引き離された場所。
今の俺には、色々と縁のある場所だ。
「さすがに警備が厳しいな」
遺跡まで500メートルほどの地点に近づいたところで足を止めて、岩の陰に身を潜めた。
顔だけを出して先を確認する。
遺跡をぐるりと囲むように、等間隔に騎士が配備されていた。
二人一組。
並べられている間隔は、だいたい100メートルほどだろうか?
辺りに大きな遮蔽物はなくて、視界は良好だ。
互いを目視できる距離なので、なにかあればすぐにわかる。
「地上の警備は万全というわけか」
ならば、地下はどうだろうか?
試験の時に遺跡を探索して思ったのだけど……
あの遺跡はかなり広い。
アリの巣のように地下に広がっていて、あちこちに通路が伸びている。
その入口をうまく探し当てることができれば?
「よしっ……ほら、こっちに来てくれないか?」
近くを歩くトカゲと仮契約をした。
コイツはホソアシヒゲトカゲという、地面に穴を堀り、そこを巣にして暮らすという特性を持つトカゲだ。
「よーし、いい子だ。手間をかけて悪いが、俺のお願いを聞いてくれ」
トカゲは小さく鳴いて、仲間を集めた。
ぞろぞろとトカゲが集まる。
幸いというか、俺が仮契約したトカゲはリーダー格だったらしく、他のトカゲは何もしなくても望み通りに動いてくれた。
あちらこちらに散らばり、穴を掘り始める。
ある程度掘ったところで地上へ戻り……
そしてまた、別の場所を掘る。
そんな地味な作業を繰り返すことしばらく……
一匹のホソアシヒゲトカゲが鳴いて、リーダー格のヤツに合図を送る。
「うまく見つけてくれたみたいだな。ありがとう」
仮契約を解除。
報酬の干し肉を与えて、俺はトカゲが鳴いたポイントに移動した。
ホソアシヒゲトカゲは地面に穴を掘り、そこを巣にするが……
わりと深いところまで掘り進んでいく。
おおよそ5メートルというところか。
天敵から身を守るために、巣作りは念には念を入れるようになったらしい。
そんなホソアシヒゲトカゲではあるが……
とあるポイントでは浅い穴しか掘らず、すぐに引き返していた。
それこそが俺が探していたところだ。
「この下に……あった!」
ホソアシヒゲトカゲが掘った穴を広げていくと、ほどなくして壁にぶつかる。
明らかな人工物だ。
ただ、そこそこ劣化している。
あちらこちらに伸びた遺跡の通路の天井だ。
コイツを探すために、たくさん穴を掘ってもらっていたというわけだ。
「ふっ……! コイツ、このっ……なかなか固いな!」
天井を蹴りつける。
昔は砦に使われていたというから、さすがに頑丈だ。
ただ、全力で何度も蹴りつけると、やがてヒビが入り……
天井に穴が開いて、瓦礫が崩れ落ちた。
「……」
そのまま待機。
様子を見る。
もしも遺跡内も監視されていたら、今の音で誰かがやってくるかもしれないが……
「……大丈夫みたいだな」
しばらく待っても足音は聞こえてこないし、人の気配もしない。
俺は天井に空いた穴から遺跡内に侵入した。
「物質創造。ファイアーボール」
簡易的な松明を作り、威力を最小限に絞った魔法で火を点ける。
幸いというか、見覚えのあるところだった。
試験で通った場所だ。
あと記憶をさかのぼり、逆に進んでいけばいい。
「カナデ、タニア、ソラ、ルナ、ニーナ、ティナ……待っていてくれよ、今助けに行くからな!」
――――――――――
さすがに遺跡を空にしているということはなくて、入り口へ向かうと騎士の姿がちらほらと見えてきた。
遺跡の末端まで、全域に騎士を配備していないのは、単に人手不足によるものだろう。
あるいは、アリオスの力では多くの騎士を動かすことはできなかったのか……
どちらにしても、遺跡内に配備されている騎士は少数だ。
ネズミをテイムして俺の目になってもらい、騎士達の裏をかいて道を進む。
ほどなくして地上へ繋がる道にたどり着いた。
そっと様子をうかがう。
いくつか大型のテントが見えた。
奥の方に横に連結して並んでいるところは、おそらく騎士の待機所だろう。
アリオス達もあそこにいるのだろうか?
さらに視線を動かすと、複数の騎士が表に立つテントが五つ見えた。
警備というよりは監視という感じで、物々しい雰囲気を出している。
「あそこだな」
みんなが囚われているのは、あのテントだろう。
一つ、数が足りない気がするが……
たぶん、ティナは最強種でもないし、体がコンパクトだから、他の誰かと一緒に捕らえられているのだろう。
「まいったな……どうする?」
みんなが一箇所に集められていたらよかったのだけど……
バラバラになっていると助けるのが難しい。
一人を助けたとしても、残りが人質にとられてしまうかもしれない。
それを考えての配置なのだろうか?
「同時にみんなを助けることは難しい……でも、ここまで深く潜り込んだ今なら……先に進むしかないか」
――――――――――
アリオスは遺跡に赴いて、直接現場の指揮をとっていた。
カナデ達の搬送はすんでいるし、処刑の準備も整った。
合図を出せば五分で刑が執行できる。
後はレインが現れるのを待つだけだ。
テントの中へ戻り、ひとまず体を休める。
「今度こそ……レイン、お前を……!」
アリオスはレインを追い詰めた時のことを想像して、ニヤリと笑う。
勇者とは思えない、悪意が凝縮された笑みだった。
「アリオスさま」
「モニカか……どうかしたのかい?」
心なしか、アリオスのモニカに対する口調は柔らかい。
ある程度、彼女に心を許しているのだろう。
「獲物が網にかかりました」
「なんだと……? そんな報告は受けていないが……確かなのか?」
「遺跡の一部に穴が空いていました。先日まではなかったものです。そこからこっそりと侵入して、すでに私達の懐に潜り込んでいると思います」
「ちっ、役立たず共め」
レインを見つけられない騎士達をアリオスはなじる。
しかし、それは仕方のないことだ。
様々な動物と契約して、その効果を最大限に発揮するレインは、隠密性に優れた職業、アサシンと同等……いや、それ以上のステルス性を確保していた。
モニカのような上位の騎士ならばともかく、一般の騎士がレインがいた痕跡や、その存在を探知することは極めて難しい。
「ですが、最強種達はまだ私達の手の中にあります。切り札はこちらが握っている状態です」
「そうか。なら……今すぐに刑を執行する。各員にそう伝えろ」
「今すぐに、ですか?」
「レインはこざかしい企み事は得意だ。放っておいたら何をするかわからない。イニシアチブをとられるわけにはいかない。先に僕達が動くことにしよう」
アリオスは帯剣して、装備を整えていく。
「最強種共を処刑しようとすれば、レインは飛び出してくるはずだ。あいつはバカだからな。そこを捕まえる」
「わかりました。では、そのように……」
アリオスに対してモニカが頭を下げる。
そのため、アリオスからはモニカの表情が見えなかった。
モニカは……笑っていた。
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