249話 奪取
「君たちがしつこく言うから、大切な魔道具を貸すことにしたが……言い換えれば、君たちを信頼しているということだ。くれぐれも、僕の信頼を裏切るようなことはしないでくれよ」
「はっ、肝に銘じています!」
声は聞こえてくるのだけど、肝心のアリオスの姿が見えない。
俺がいるところは壁の奥にある小さな隠し通路で……
壁が薄いこともあり、わずかに声が聞こえてくるだけだ。
穴が空いているようなことはないので、壁の向こうがどうなっているのか、さっぱりわからない。
「こういう時は……」
目を閉じて集中。
久しぶりにアレを使うけど、うまくいくか……
カチリと、頭の中で何かがピタリとハマる感触。
目を開けると、ネズミとの同化が成功していた。
「よし」
ネズミの体を動かして、誰も気づかないような小さな穴から壁の向こうへ。
壁の向こうは会議室だった。
やや広めの部屋に、横に長い机が一定間隔で並べられている。
その一角にアリオスの姿があった。
二人の騎士を相手に、例の魔道具を手渡している。
「では、これより調査を始めたいと思います」
「ああ、好きにするといいさ。僕はここで見学させてもらう」
騎士が魔道具を調べ始めた。
アリオスは少し離れたところで、その作業を見守っている。
まいったな……
アリオスのヤツ、無事に作業が終わるかどうか、近くで監視しているつもりなのか。
できることなら、こちらの狙いをアリオスに悟られたくない。
アリオスに気づかれることなく魔道具を奪取したいが……
いや、それも難しい話か。
魔道具がなくなれば、アリオスは色々な可能性を考えるだろう。
俺の仕業という可能性も考えるはず。
それを避けるためには……
「よしっ、やってみるか」
頭の中で作戦を組み立てた後、ネズミを引き上げさせる。
そして、同化を解除。
「……物質創造」
ニーナと契約して得た力を使い、魔道具の模写を作り出した。
いつも以上に時間をかけて、じっくりとイメージしたから、なかなかの出来栄えだ。
魔道具としての機能は備わっていないが、見た目だけなら問題ないだろう。
「お前たち、仲間を集めてきてくれ」
「チュウッ!」
案内役のネズミに指示を飛ばして、あちらこちらから仲間を集めてきてもらう。
騎士団本部は広く、古くに建てられた建物だ。
当然、ネズミはたくさん住み着いているわけで……
「あー……すまん。そんなにはいらないや」
「チュウ……」
100匹近い仲間を集めてきたネズミは、残念そうに鳴いた。
とりあえず、身体能力に優れたものを選り分けてもらい、5匹に協力を頼む。
報酬は、ここに来る前に買っておいたチーズだ。
まずは魔道具の模写を3匹に協力して運んでもらう。
いつでも飛び出せる位置に移動してもらい、そこで待機。
次に、1匹を明かりを放つ魔道具の傍に待機させる。
他の3匹と同じように、そこで待機。
最後の一匹は、再び同化をして、俺の目になってもらう。
これはタイミングが重要だ。
非常に重要だ。
その時を逃すことがないように。
アリオスを、二人の騎士を、それこそ瞬きせず凝視して、じっと観察する。
そして……
その時が訪れる。
「……ちっ」
黙々と魔道具の調査を進める騎士の姿に飽いたのだろう。
アリオスが軽い舌打ちをして、魔道具からわずかに視線を逸らした。
今だっ!
「チュウッ!」
指示を飛ばすと、1匹のネズミが明かりを放つ魔道具を蹴り落とした。
「な、なんだっ!?」
「これは……明かりが!?」
突然、光源の位置が変わり、アリオスと騎士達の動揺する声が聞こえた。
床に落ちた光を放つ魔道具は、まだ点灯したままだ。
光を放ってはいるものの、床に落ちたせいで部屋全体を照らしてはいない。
部屋の一部に、暗闇という名の通路ができる。
そこを、魔道具の模倣品を背負う3匹のネズミが駆けた。
ダッシュと跳躍を繰り返す。
机の上に飛び乗り、本物と模倣品を取り替える。
そして、誰にも見つからないうちに撤退……無事、作戦は成功した。
「おいっ、なにが起きている!?」
「す、すみません。明かりが落ちたみたいで……」
「おかしいな……ネジが緩んでいたのか?」
「魔道具は……なんともないか」
壁の向こうからそんな声が聞こえてきた。
思い描いた通りに作戦が進んでいる。
アリオスも騎士も、俺に気がついていない。
そして、魔道具は俺の手に。
「よしっ」
もうここに用はない。
あのクオリティの模倣品なら、しばらくは騙せるだろうが……
それでも、いつまでもというわけにはいかない。
すり替えられたことにアリオスが気づく前に、魔道具を調べないといけない。
「ありがとな、助かったよ」
「チュウ♪」
ネズミの頭を撫でて、それと、礼のチーズを置いた。
それから仮契約を解除。
ネズミ達と別れて、元来た道を引き返す。
騎士団本部を後にして、裏路地へ。
「よし、うまく……」
いった、と言おうとしたところで足音が響いた。
カツカツ、と硬質な足音……おそらく鎧を着ている。
騎士だろうか?
使われていないはずの裏道になんの用だろう?
もしかして、俺のことがバレた?
それにしては騒ぎになっていないというか……
俺が魔道具をすり替えたことを知れば、アリオスは烈火のごとく喚き散らそうなものだけど。
とにかく、迷っている場合じゃない。
物陰に身を潜める。
本当は走り去りたいところだけど、それなりの足音を立ててしまう。
まだ相手は俺に気づいているかどうかわからないので、賭けに出ることは好ましくない。
「……」
息を潜めて気配を殺す。
呼吸は最低限に。
心臓の鼓動さえ少なく。
ビーストテイマーの技術の中で、野生の獣を探すために、己の気配を完全に殺すというものがある。
俺は、それをきちんと習得していた。
この技術を駆使すれば、向こうが俺に気づいていない限り、やり過ごすことが……
ぴたり、と足音が近くで止まる。
「ふふっ、かくれんぼですか?」
その声は、明らかに俺に向けて放たれたものだった。
驚きながらも……
その一方で、妙だと首を傾げる。
俺を認識しているはずなのに、人を呼ぼうとしない。
騎士団の関係者ではない?
それとも、そもそも俺を不審者と認識していない?
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
相手の正体を、思惑を確かめるために物陰から出た。
「あんたは……」
「ごきげんよう、レインさん」
優雅に礼をしてみせたのは、アリオスと一緒にいた女……モニカという騎士だった。
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